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求人募集の応募効果を考える | 社会保険労務士法人ラポール|なにわ式賃金研究所

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平成27年1月~12月

求人募集の応募効果を考える

~バブル期以来の求人倍率でますます求人難に~
●求人募集の応募効果を考える (H27.11月号)

最近、クライアントさんから「人が来ない!」との嘆きをよくお聞きするようになりました。求人倍率はあのバブル期以来の高倍率らしいのですが、経済 が拡大局面にあるとの実感には乏しく、ピン来ないというのが正直なところです。しかしサービス業などでは、アルバイトが確保できず、店舗経営に支障を来た すこともあるようです。
そこで今回は、一般的に言われている応募効果の上がる求人広告の出し方とは少し違う視点で、もう一工夫できないかを考えたいと思います。その前に一般的にはどのような項目が応募者から重視されているのか、ざっと概観しておきましょう。

求人広告大手インテリジェンスの2014年調査によると、アルバイト探しで最も重視するポイントの上位8項目は以下の通りとなっています。

1.勤務地が自宅から近いこと
2.興味ある仕事内容であること
3.時間の融通がきくこと
4.給与が高いこと
5.自分にもできそうな仕事であること
6.店長や社員の人の雰囲気が良いこと
7.1日に働く時間が短いこと
8.1週間あたりの勤務日数が少ないこと
このうち改善が不可能なのは1の「勤務地が自宅から近いこと」です。駅前にでも移転しない限り物理的に無理であり、これにはコミットしません。但し、駅近 にもかかわらず、地図にて駅前にあることの表示や、●●駅より徒歩1分!などと駅近を謳っていない場合はもったいないので、きちんと入れておきましょう。

また4の「給与が高いこと」も改善が困難です。その会社の支給水準がありますから、世間相場より極端に低い場合は別として、初任給を上げるには自ず と限界があります。もしここで僅かでも工夫できるとすれば、近い将来の昇給モデル(1年後昇給例●●円)や、残業込みの平均総月収を入れるくらいは可能で す。

2の「興味ある仕事内容であること」と、5の「自分にもできそうな仕事であること」は、ともに仕事自体のことを言っています。この仕事内容の表記 は、求人において最も重要な要素と考えられています。ただ単に職種を記載するのではなく、どのような仕事をするのか、きちんと教えてくれるのか、将来の キャリアアップが可能なのか、或いはその仕事の醍醐味(やりがい)は何か、などにも言及できると更に良いでしょう。

3の「時間の融通がきくこと」、7の「1日に働く時間が短いこと」及び8の「1週間あたりの勤務日数が少ないこと」は、アルバイト・パートにとって非常に大事な要素です。これに関しては後述します。

6の「店長や社員の人の雰囲気が良いこと」は、よほどお金を掛けたスペース枠のある広告であれば、先輩諸氏のポジティブなインタビューコメントを載せるなどの工夫の余地があるかもしれませんが、そうでなければ求人で謳うには難しい内容でしょう。
ところで今回はこういった一般的な要素だけに着目するのではなく、意外に気づかない新たな視点で、求人広告をもう一工夫できないかを検討します。
(1)パート・アルバイトは、給与の多さを嫌う層がいることを認識する
先ほど、「時間の融通がきくこと」「1日に働く時間が短いこと」「1週間あたりの勤務日数が少ないこと」について後述すると申しましたが、これらの要素は 一体何を意味するのでしょうか?主婦層や高齢者層に多い傾向ですが、彼らは必ずしも給与の絶対額に拘っているわけではありません。その理由は主に次の3点 です。

a.扶養親族になる範囲内で働きたいから
b.生活保護を切られるのを恐れるから
c.年金が減額されるのを嫌がるから
まずaについてですが、よく言われる103万円及び130万円の壁のことです。103万円とは所得税法上の扶養親族になる収入額の上限であり、130万円とは健康保険法上の被扶養者になれる収入の上限額のことです。103万円
を超えることにより、夫の所得税が上がり、或いは夫に支給されている家族手当が打ち切られることを嫌うものです。また130万円以上となることで、夫の健康保険から外れ、自分で健康保険料と年金保険料を負担しなければならなくなることを嫌うものです。

そして意外に多いのがbのケースで、母子家庭の母に当る人の場合です。彼女らは自治体から生活保護を受けていることが多く、認められると生活費は勿 論、医療費や住居費も補助があり、最低賃金で働く人よりも可処分所得でかなり優遇されていると言えます。自治体からは働いて収入を得るように促されますの で一応就職はするのですが、給料が一定水準を超えると生活保護が打ち切られるため、それを恐れるわけです。また収入額を上げてもそれに比例して生活保護が 逓減する仕組みであるため、保護費を含めた総収入は常に変わらず、ガツガツ働くことへの逆インセンティブになっているのです。

cについては、高齢者のケースですが、60歳以上で老齢厚生年金の受給権者の場合、会社からの収入があると年金が減額される仕組みがあり、これを嫌 がる人達が少なからずいます。また減額されるだけでなく老後も年金保険料を支払い続けなければならないため、その負担も回避したいと考えるのです。従って 働きたいけれどもフルタイムは困る、という人達です。
これらの実態を考えると、会社に都合が良いからといって、フルタイムのパートを求め続けても、その求人はこういった人達には全く訴求できておらず、この層 をごっそりとを取り逃していることとなるのです。従ってどうしても、「時間の融通がきくこと」「1日に働く時間が短いこと」「1週間あたりの勤務日数が少 ないこと」の要素を組み合わせたシフトを考えて行く必要があります。
(2)当たり前の労務管理を募集に使う
中小企業の求人募集は中途採用が主流です。中途採用ということは、応募者は必ず過去に数社の会社勤務を経験していることになります。そしてその転職動機には様々なことが考えられますが、労働条件に不満があって転職する層が少なからずいるのです。

一方、中小企業の経営は世襲で行われています。経営一家に育てば、その子は親の会社に就職することになるのです。つまりこれは自分の会社以外、つま り世間の会社がどのようになっているのか、非常にイメージが湧きにくい状態といえます。これは中小企業の経営者ほど、他の中小企業のことが分からず、中小 企業の労働者ほど、他の中小企業の実態を知っているということです。
そして世間では、意外?にも、当たり前の労務管理が行われていない実態が多くあり、労働者はそういった現実を経験しています。例えば…、

・限度を超えて長時間労働になっている・・・・・。
・残業代が出ない・・・・・。
・正社員にすら健康診断を行っていない、ましてやパートなど・・・・・。
・労働条件は社長の意のままで、勝手に変更されることも。契約を交わすという発想がない・・・・・。
・そもそも有給休暇など、うちの会社にはないと言われた・・・・・・。
・社会保険は認められた者だけしか入れない・・・・・・。
まだまだ一杯、ありますが、残念ながらこれが多くの中小企業の実態なのです。実は転職労働者は、このような当たり前のはず?のことが、中小企業ではきちっ と行われていないことをある程度理解しており、ほとんどが妥協しながら良心的に我慢している現実があるのです。ということは、特別魅力的で有利な労働条件 を提示できなくとも、当たり前の労務管理が、まだまだ武器となり得るのです。むしろ中小企業間で特別有利な労働条件を提示できることの方が少ないでしょ う。ですから、当たり前の労務管理ができている会社は、そのことをアピールするのです。「ここはきちっとしている会社」ということがアピールできれば、相 対的に有利になります。この当たり前の労務管理は、自分では中々気づきにくいので、外部からチェックしてもらうのが良いでしょう。

求職者は過去の自分が勤めた会社と比べて、この会社はどうか、という視点を常に持っていることに留意しなければなりません。
{募集広告例}
・残業はほとんどありません。定時帰宅がモットー。仕事と私生活のバランスを大切に考える会社です。
・残業時間は1日平均1.5時間程度。サービス残業はありません。やった分をきちっとお支払いします。
・年1回 健康診断あり。パートの方も受けられます。従業員の健康第一!
・就業規則、労働契約書完備。きちっと書面で行っています。
・多くの従業員が有給休暇を満喫しています。パートさんもイキイキと!
(3)新卒採用は親の目も意識する
これも意外に気づきにくい視点です。中小企業でも高卒の新卒採用を行うことはよくありますが、ここで意識しなければならないのが親の目線です。初めてわが 子が就職する会社は一体どんな会社なのか?この関心はひょっとしたら、当人よりも親の方が高いかもしれません。よもや「ブラック企業」に就職しないか、大 変神経を尖らせているはずです。勿論、労働契約を結ぶのはその18歳の本人ですが、その背後に親の影響力が相当あるものとして、求人すべきです。

そうするとどういったことに気を遣うべきか?これは自分のわが子が初めて就職する状況を想像し、親として何が気になるか、自問自答してみれば自ずと 答えは出てくるでしょう。一般的は、前項(2)で述べた当たり前の労務管理をきちんと行っている会社かどうか、(逆に言えば、わが子がブラック企業に酷使 されるようなことはないか)、将来性のある安定した会社かどうか(逆に言えば直ぐに潰れて路頭に迷うことがないか)などが心配になりませんか?

自らの会社をアピールする視点だけでなく、こういった親の心配を出来るだけ払拭できる要素は何か、ということも検討すべきでしょう。
(4)隠れている有利な条件をもう一度洗い直す
求人広告も比較広告です。たまたは同時期に紙面に現れた、他企業との競争になります。求職者は現在出ている情報の範囲内で、自分にとってどこが最適か、優 先順位を決めて、順に応募して行くものと思われます。仮に、同じような優先順位になった広告が2社並んだとします。どちらを先に選択するか、その分かれ目 になるのは何でしょうか?

私はこの局面では、おまけの多い方が有利になると考えています。おまけとは、コアな労働条件(仕事内容、給料、時間など)以外の要素です。例えば・・・・
・会社費用で外部研修に参加できます
・毎月1回、社内勉強会開催中
・野球チームあり、連盟リーグに加入しています
・保育施設と提携、子供を預けながら仕事が可能
・有給休暇とは別に、誕生日休暇あり

こういったことは、それ自体が絶対に必要な募集要項ではありませんが、記載があるからと言って応募を控える要素にはならないはずです。むしろ同じような条件が並んだとき、先に応募させる誘引になるかもしれません。今一度、自社内で隠れた募集要項がないか、検討すべきです。
少し違った視点で申し上げましたが、今一度、求人広告の出し方に参考にしていただければ幸いです。

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

 

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