平成18年1月~12月
役職手当の意味を考える (H18.3月号)
●役職手当の意味を考える (H18.3月号)
一般社員には無い特別な責任と役割に対するオプションであることを認識しよう!
世の多くの企業に役職手当なるのものがあります。私のように人様の給与台帳ばかり見ている者の実感として、非常によく登場する手当です。課長さんとか主任とか、工場長とかマネジャーとか、役職名は会社ごとに色々ありますが、とにかくそういう役職者に付いている手当なのです。が、実にこの意味が曖昧で怪しい。せっかく事業主が出しているお金が死に金になっているように思えてならないことが多いのです。
ズバリ結論から申しますと、役職手当とは「一般の社員にはない特別な責任と役割を与えられた人に対して、その責任と役割に応じて支給されるもの」と定義することができると思います。永く居るから課長さん、では無いはずです。また役職手当は生活給の足しでもありません。あくまでも特別な責任と役割に対するオプションです。
このことを解説する前に、まず賃金というものの構成がどうなっているかを今一度考えてみましょう。多くの企業は基本給+諸手当という構成になっていますが、この意味は累積賃金と時価賃金ということです。累積賃金とは基本給のことで、その従業員の生活を支える基本となるもので、その会社における時間軸と能力や経験に比例させます。つまり「今までこの会社にどれだけ貢献してきたか」という時間的な概念と「年相応に生活できる賃金を保障する」という性格のものです。これが昨今の成果主義の中で大きく誤解されている部分で、累積賃金である基本給は毎月毎年大きく変動させるべきではありません。
これに対して役職手当などの手当は時価賃金です。つまり今までどうだったかは余り関係なく、その人の今現在の価値に対して支給されるものです。これは現在価値が変われば、増えたり減ったり無くなったりするもので、いわば基本給のような積立の既得権は無く、毎年洗い替えされるべきものです。
これを役職手当に限定して考えると、その年その年に与えられる特別のミッション(使命)に対して、その責任と役割を果たしたかを査定すべきのもので、もしそうでなければ時価を失うことになります。特別の責任と役割というものは、企業によって違うわけですが、例えば「自分の仕事以外に人材を育てる仕事」とか「自分の成績よりも会社の数字を管理して上げる仕事」であったり、もしくはより具体的に「生産コストを○%削減せよ」とか「新たな販路を○件開拓せよ」などと指令することになり、その役割に対して一定の裁量を与え、責任を取らせる。その責任と役割に対するお金だと思うのです。ただ漫然と生活給の足しに支給されるものではない筈です。もしそうだとすれば、多くの中小企業の経営者はもっと役職手当に込めるメッセージを明確に伝えるべきです。ただ何となく払っているとすれば、もったいない。自分の仕事以外に会社の為に何をやって欲しいのかを、きちんと伝えましょう。役職手当はそれに対する手当であることを役職者に認識してもらいましょう。そして1年ごとにそのメッセージが履行されたかどうかを確認し合い、時価賃金に合っているかどうかを毎年見直ししましょう。役職は既得権ではないのですから。
誰をどの役職に就け、それをどのように評価するかは経営者の裁量の範囲でできる人事権の一つです。せっかく払っている役職手当をもっと生きたお金にしたいものです。ただそのためには、部下の者が残業しても逆転しないだけの厚みのある金額設定をする必要があります。課長になって残業が付かなくて、残業手当の付く係長より給与が減るのは本末転倒ですから。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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