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令和8年度の賃上げをどのように考えるべきか (2026.4月号
賃上げ圧力がかつてないほど高まっています。経営者として頭の痛い問題ですが、どのように考えればよいのでしょうか?
1.賞与と違い賃上げは相場がある
賃金には月例賃金と賞与があります。どちらもどの程度出せば(上げれば)良いのか悩むところですが、この二つの賃金相場には明確な違いがあります。どういうことかと言いますと、月例賃金の賃上げは相場感がありませので意識すべきですが、賞与は相場があってないものと考えてよいと思います。
私は28年間、社会保険労務士という職業に携わっており、この間企業の賞与明細を見てきていますが、平均値や中央値の感覚は得難く、まさに千差万別なのです。金額もバラツキが多いのですが、そもそも賞与を出す慣習がない企業も小規模企業の中には相当数あります。従って、日経新聞などに踊る景気の良い賞与支給額に踊らされる必要はありません。
しかし月例賃金の場合は千差万別ではなく、おおよその支給範囲に中で集約され、それをベースに額や率が決まるため、バラツキの少ない相場が出来上がるのです。従って、まず世間はどうなっているのかを知る必要があります。
2.世間相場はどうなっているのか
ここでは3つの統計をお示しして、相場感を皆さんと共有したいと思います。
「令和7年 賃金引上げ等の実態に関する調査(厚生労働省)」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/jittai/25/dl/10.pdf
「2025年度の中小企業の賃上げに関する調査(日本商工会議所)」https://www.jcci.or.jp/file/sangyo2/202511/202511_survey.pdf
「中小企業における2025年の賃上げ動向(大阪シティ信用金庫)」https://www.osaka-city-shinkin.co.jp/houjin/pdf/2025/2026-3-26.pdf
厚生労働省 日本商工会議所 大阪シティ信用金庫
■1人平均改定額 13,601円 13,183円 ―
(11,089円 20人以下)
※大阪シティは額を出していないが、13,000円平均と見てよい。
■1人平均の改定率 4.4% 4.73% 3.14%
※大阪シティの調査が少し低めだが、おおよそ4.0%程度は見ておく必要がある
■賃上げ実施企業の割合 91.5% 64.5% 57.3%
(予定含む) (45.8% 10人以下)
※日本商工会議所や大阪シティ信用金庫の調査では、35%から40%の企業で賃上げ自体を実施していないこともわかる。
■1人平均の改定額及び改定率の推移(厚生労働省 令和以降)
令和元年 5,592円 2.0%
令和2年 4,940円 1.7%
令和3年 4,694円 1.6%
令和4年 5,534円 1.9%
令和5年 9,437円 3.2%
令和6年 11,961円 4.1%
令和7年 13,601円 4.4%
※令和5年以降に急激に上がり始めたことが読み取れる。
■実在者賃金の相場(令和6年賃金構造基本統計調査 大阪 全産業 100人未満平均)
~19歳 211,200円
20~24歳 254,100円
25~29歳 273,400円
30~34歳 338,400円
35~39歳 337,700円
40~44歳 370,300円
45~49歳 429,500円
50~54歳 366,100円
55~59歳 392,300円
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450091&tstat=000001011429&tclass1=000001224440&tclass2=000001225782&tclass3=000001225794
3.賃上げを行う理由はどうなっているか
厚生労働省 大阪シティ信用金庫
1位 企業業績 業績見通しを先取り
2位 労働力の確保・定着 業績向上回復を反映
3位 雇用の維持 雇用維持・士気高揚
4位 世間相場 ―
※企業業績(業績向上を反映)が各々高いのは、無い袖は振れないということか。それでも労働力の確保定着(雇用維持士気高揚)のために頑張っている姿が見える。
4.高卒初任給相場 急上昇の脅威
今秋も最低賃金の上昇により、高卒採用賃金の相場がアップすることは確実です。大阪の場合、直近3年間の上昇幅は41円、50円、63円と急激に上がってきており、今年も70円程度の上昇は覚悟する必要があると考えています。仮に70円上昇して1,247円となった場合、月間の平均所定労働時間別に見た最低額は以下の通りとなります。
173H 215,731円(週40時間制においてギリギリの年間休日数の場合)
170H 211,990円
165H 205,775円
160H 199,520円(1日8時間で完全週休2日制の場合)
150H 187,050円(1日7.5Hで完全週休2日制の場合)
これをご覧になって分かるように、週40時間ギリギリで設定している会社は最低でも215,731円出さないと、そもそも高卒求人が出来ないのです。週40時間ギリギリとは、年間休日を以下の休日数で設定している場合です。
1日8時間の場合 年間105日
7時間45分の場合 年間96日
7時間30分の場合 年間87日
この215,731円には皆勤手当や通勤手当、残業代(固定残業代を含む)を除外してクリアしなければなりません。高卒ですから各種手当が付くことは余り想定されず、基本給のみで215,731円必要となるのです。これはあくまでも最低賃金をクリアするだけのことであり、採用相場とは異なります。おそらく大阪では高卒初任給で22万円を超える水準が当たり前になるでしょう。
(参考 令和7年 全国平均学卒初任給 高卒202,000円 大卒 249,500円 厚生労働省)
5.具体的にどうしたらよいか
自然科学の方程式のような確固たる回答が有る訳ではありません。しかし何らかの指針がないと判断に迷いますので考え方の流れを整理したいと思います。
(1)世間相場を確認する
↓
(2)今後の企業業績見込みから、年間(または毎月)いくらの原資アップに耐えられるかを概算で見積もる
↓
(3)定期昇給がある会社はまず定期昇給する
↓
(4)ベースアップを考える
(1)世間相場を確認する
これはすでに記載しましたが、ポイントは昇給額平均13,000円(昇給率では4.0%)、高卒初任給は220,000円、30歳で30万円程度を抑えておきましょう。
(2)今後の企業業績見込みから、年間(または毎月)いくらの原資アップに耐えられるかを概算で見積もる
直近の決算書のPLとBSを基に今期の見込みを立て、年間(または毎月)どのくらいの人件費が上がっても耐えられるかを検討しましょう。人件費は給与額におおよそ20%を上乗せして見積もりましょう(法定福利費分がおおよそ20%弱)。
PLから見て赤字を避けたい場合は黒字を確保できる範囲で、赤字になっても賃上げしたい場合はBSから見て資金余力があるか検証します。これにておおよそどのくらいまで原資が確保できるかを見積もっておきます。
原則13,000円×120%×正社員数で見積もり、これが過大であれば逓減させ、余力があれば加算します。
(3)定期昇給がある会社はまず定期昇給
定期昇給とは「年齢給表」や「勤続給表」といった時間軸で自動的に上がってゆく賃金のことですが、小規模企業ではほとんど持っていないため、これを考慮する必要はありません。
こういった賃金表をもっている場合は、これは約束事になっていますから機械的に上げざるを得ません。ただし(2)により検証した結果、経営に著しい危険を及ぼす可能性がある場合は、社員の同意を得たうえで一時ストップすることもあり得ます。
(4)ベースアップを考える
(4)の1 賃金表がある場合
賃金表(上記の「年齢給」「勤続給」に加えて「職能給表」など)がある場合、これ自体を上方に書き換えることをベースアップ(ベア)といいます。これを検討する必要があるケースは、生計費に見合わなくなってきている場合です。つまりこの表のままでは食える賃金を支払えないといったケースです。小規模企業では賃金表を持っている所は僅少なのでここでではこれくらいに留めます。
(4)の2賃金表がない場合
このケースが大半かと思いますので、簡略化した手順を申します。
①生計費として耐えうるか考える
まず先述したように世間相場を頭に入れた上で、自分の会社の賃金水準が生活できる賃金になっているかを検証します。つまり生計費として物足りなくはないか?ということです。評価で配分する以前に、そもそも食える賃金でないと人材が辞めて行きますし、採用もできません。
私の私見を申せば、普通クラスの社員の場合、採用時初任給から10年かけておおよそ10万円くらいアップするカーブを意識すべきです。23万円で採用したら、10年後には33万円(手取りで27万円くらい)にはなっているということです。
この水準までは雇った以上経営者の責任とし、それ以降は従業員の頑張り次第、といったところでしょうか。
②評価により配分する
人事制度がない場合、社員を次の4ランクに分けてください。
A 辞められると困る大切な社員
B Aではながこの1年間の頑張りに報いてやりたい社員
C ABではない普通の社員
D ダメ社員
今期の総昇給原資は既に決まっていますので、その範囲内での世間の昇給額(率)を参考にそれを少し下回るくらいの感覚で比例配分してゆきます。例えばAランク10,000円、Bランク7,000円、Cランク4,000円、Dランク0円といった感じです。そのように分配して原資に余りが出れば、Aランクの社員の中で個別に加算します。
③社員マトリクスで微調整する
社員マトリクスとは、縦軸にAからDランクを、横軸に給与額をおき、碁盤の目になるマスを作って社員名を入れて行きます。右上のマスになるほど社長の評価が高くかつ給与も高い方、逆に左下には評価も給与も低い社員が入るはずですが、俯瞰してバランスが悪いところがあれば、微調整します。
長々と述べてきましたが、社長の頭を悩ます昇給のあり方について参考にしていただければ幸いです。
(特定社会保険労務士 西村 聡)
101人以上の企業へ、女性活躍推進法が4月1日より改正されます(2026.3月号)
●101人以上の企業へ、女性活躍推進法が4月1日より改正されます(2026.3月号)
~「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」が公表義務に~
女性の職業生活における活躍に関する取組の推進等を図るため、情報公表の必須項目の拡大を含めた女性活躍推進法等を改正する法律が令和8年4月1日から施行されることになりました。今回はその概要をご案内いたします。
これまで従業員数301人以上の企業に公表が義務付けられていた「男女間賃金差異」について、 101人以上の企業に公表義務を拡大するとともに、新たに「女性管理職比率」についても101人以上の企業に公表を義務付けています(従業員数100人以下の企業は努力義務になります)。
◆情報公表の必須項目の拡大(今回改正された義務)
◎企業等規模 ◎改正前 ◎改正後
301人以上 「男女間賃金差異」に加えて、2項目以上を公表 → 「男女間賃金差異」及び「女性管理職比率」に加えて、2項目以上を公表
101人 ~ 300人 1項目以上を公表 → 「男女間賃金差異」及び「女性管理職比率」に加えて、1項目以上を公表
従って改正点を踏まえて101人以上の企業と、301人以上の企業の義務を纏めると、、、、、
【従業員数301人以上の企業】
従業員数が301人以上の企業に、以下の4項目以上の情報公表が義務付けられます。
1.男女間賃金差異(令和4年7月8日から義務付けられています)
2.女性管理職比率(令和8年4月1日から新たに義務付けられます)
3.女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績
(下の左の表の7項目から1項目以上を選択して公表)
4.職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績
(下の右の表の7項目から1項目以上を選択して公表)
=======================================================================
◎「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」 ◎「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」
(以下の7項目から1項目以上を選択) | (以下の7項目から1項目以上を選択)
1.採用した労働者に占める女性労働者の割合 | 1.男女の平均継続勤務年数の差異
2.男女別の採用における競争倍率 2.10事業年度前及びその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合
3.労働者に占める女性労働者の割合 3.男女別の育児休業取得率
4.係長級にある者に占める女性労働者の割合 | 4.労働者の一月当たりの平均残業時間
5.役員に占める女性の割合 5.雇用管理区分ごとの労働者の一月当たりの平均残業時間
6.男女別の職種又は雇用形態の転換実績 6.有給休暇取得率
7.男女別の再雇用又は中途採用の実績 | 7.雇用管理区分ごとの有給休暇取得率
=======================================================================
【従業員数101~300人の企業】
従業員数が101~300人の企業に、以下の3項目以上の情報公表が義務付けられます。
1.男女間賃金差異(令和8年4月1日から新たに義務付けられています)
2.女性管理職比率(令和8年4月1日から新たに義務付けられています)
3.「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績」、または「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」に関する実績
(前記の2つの表の合計14項目のうち1項目以上を選択して公表)
初回の「男女間賃金差異」及び「女性管理職比率」の情報公表は、改正法の施行後に最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表する必要があります。
例えば 令和8年4月末に事業年度が終了する企業は、おおむね令和8年7月末までに公表
令和8年12月末に事業年度が終了する企業は、おおむね令和9年3月末までに公表
令和9年3月末に事業年度が終了する企業は、おおむね令和9年6月末までに公表
その後もおおむね1年に1回以上、最新の数値を公表する必要があります。
なお、情報公表の方法は、厚生労働省が運営する下記「女性の活躍推進企業データベース」が最も適切ですが、自社のホームページへの掲載でも構いません。
URL : https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)
うつ病など長期に欠勤する従業員への会社の対応方法~使える休職規定を整備をしよう~(2026.2月号)
●うつ病など長期に欠勤する従業員への会社の対応方法~使える休職規定を整備をしよう~ (2026.2月号)
うつ病や適用障害などの精神障害や、癌で長期に会社を休む従業員が非常に増えています。一般的な病気や怪我なら回復期も予見可能なことから、そう問題にならないかも知れません。しかし回復の見込みが立たない疾病によって従業員が欠勤する場合、この間の取り扱いは会社としてどのように対応すればいいのでしょうか。今回は会社の労務管理として、その対応方法を考えてみたいと思います。
結論から申し上げますと、中小企業がまずやるべきことは就業規則の中にきちっと休職に関する規定を整備しておくことです。この休職とは、一定の私事事由により従業員が労務不能となったときに、一定の期間、就労義務を免除して職場復帰を待つという性格のもので、解雇の猶予措置と位置付けられています。これは法によって規定が義務付けられているものではなく、公序良俗に反しない限り会社が自由に制度設計することができるのです。そして就業規則の中で、一番活躍する規定でもあります。
ある程度の規模の会社の場合はこれに加えて、リワークプログラムなどの職場復帰支援制度を検討することがありますが、ここでは休職制度に特化してご案内します。
さて、中小企業の就業規則を拝見していると、使える休職規定になっていないことが多く、長期欠勤の従業員がいるとのご相談をいただいても、本人との個別同意が必要になるなど対応に苦慮することがあります。またそもそも就業規則自体を作成していない場合は、言うまでもありません。
私がいままで多くの休職事案を見てきた限りにおいて、おおよそ休職規定を作成するポイントは以下の通りです。
1.休職を発令する事由が適切か?
うつ病などの精神障害にみられる、欠勤を細切れに繰り返す場合や、欠勤はしていないが明らかに労務提供が不完全という状態でも発令できる根拠があるか。
2.休職期間は適切か?
大手企業の就業規則や出来合いのものを転記しただけのものは、傷病手当金の受給期限に合わせた1年6ヶ月とか、中小企業では異様に長い休職期間が見られる。皆でカバーしあって待てる期間はどれくらいか。
3.休職の通知ができない場合の意思伝達はどうするのか?
勝手に休みだして、思うように連絡が取れないことがある。いつからどうやって休職を発令すればいいのか。
4.休職期間の通算制度があるか?
特に精神障害は一旦回復しても、また繰り返すことが良くある。前後の期間を通算できるか。また途中で疾病名が変わったときにも通算できるか。
5.復職のルールは明確か?
主治医の診断書だけでなく、主治医への情報提供依頼や同行、会社指定医の再診断など、厳格な職場復帰のルールが明確になっているか。
6.休職満了時の取り扱いは?
休職が満了したときは解雇ではなく、自然退職扱いになっているか、また復職する場合でも、元の職場へ復帰できない可能性や、労働条件が変更される余地があることも加味しているか。
7.休職期間中の給料や賞与の取り扱いは?
この期間の給料やボーナスの支給は無給で明確になっているか。
8.休職期間中の預かり金の取り扱いは?
休んでいても社会保険料や住民税はかかるので、この取り扱いはどうするのか。
9.完全復帰はできないが軽易な業務ならできる場合はどうするか?
特に精神障害は軽易業務から開始すれば復帰できるとして主治医から職場復帰を促されることがある。そんな場合どうするのか。
10.有給休暇の取り扱いは?
休職期間中に有給休暇を使いたいとの要望があったとき、認める必要があるのか(法的には必要ない)。
11.明らかに復職不可の場合の解雇条項
休職はあくまでも建前上、復職を前提とした制度です。明らかに復帰の見込みが期待できない場合は休職発令せず解雇できる条項があるか。
これらは規定しておくべきことの一例ですが、休職規定を見たときにこれらのことにきちんと規則が答えていれば、いざ困った事案が発生したときも迷うことなく、会社として粛々と制度に乗せて対応すればいいことになります。個別同意は必要ありません。実際の運用ではこういった根拠規定を持っていることを前提に、「休職発令通知」などの書式を使って運用してゆくことになります。
また付言しておきたいこととして・・・・
これらは休職規定自体がないか、規定の作りこみが甘い場合のことを言っていますが、きちんとした休職規定を持っているにもかかわらず、会社がその運用を失念しており、休職発令せずに長期間欠勤や不安定勤務を放置してからご相談をいただくこともありますので、そういった場合も対応が困難になることがあります。
長期間にわたり不就労の可能性があると分かった段階で、ご相談いただけると幸いです。
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)
2026年1月より下請法が改正されます(2026.1月号)
●2026年1月より下請法が改正されます(2026.1月号)
令和8年(2026年)1月1日から、「下請法」が改正され、「中小受託取引適正化法(通称: 取適法 とりてきほう )」として新たに施行されます。これにより、適用対象となる取引や事業者の範囲が拡大され、中小受託取引の公正化と受託側の中小企業の利益保護が強化されます。
近年、労務費や原材料費などのコストが急激に上昇している中、中小企業を始めとする事業者が賃上げの原資を確保し、適切な価格転嫁を定着させることを目指すために、取引の適正化と価格転嫁の促進を図る法改正が行われました。今回は従来の下請法の概要をおさらいしながら、改正内容について解説いたします。
■主な改正内容
1.用語の変更
法律名が「下請け代金支払遅延等防止法」(略称:下請法)から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:取適法)に変更
下請代金→製造委託等代金
親事業者→委託事業者
下請事業者→中小受託事業者
つまり、従来の親企業、下請という用語は法律上はなくなることとなります。
2.適用対象の拡大
(1)事業者の基準の見直し
これまでの資本金基準に加え、従業員数による基準が新たに追加されます。委託事業者・中小受託事業者が資本金基準又は従業員基準のいずれかの基準を満たす場合、取適法の適用対象となります(取適法とフリーランス法の両方に抵触する場合は、フリーランス法が優先されます)。
【製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託※の場合】
○委託事業者 ○中小受託事業者(個人を含む)
・資本金3億円超 → 資本金3億円以下
・資本金1千万円万円超3億円以下 → 資本金1千万円以下
・従業員300人超 → 従業員300人以下 ←今回の改正で追加
【情報成果物作成委託・役務提供委託※※の場合】
○委託事業者 ○中小受託事業者(個人を含む)
・資本金5千万円超 → 資本金5千万円以下
・資本金1千万円万円超5千万円以下 → 資本金1千万円以下
・従業員100人超 → 従業員100人以下 ←今回の改正で追加
役務提供委託※・・・プログラム作成、運送、物品の倉庫保管、情報処理に限る
役務提供委託※※・・・プログラム作成、運送、物品の倉庫保管、情報処理を除く
(2)対象取引の追加
従来の製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加え、新たに「特定運送委託」が追加されました。特定運送委託は、事業者が販売する物品や、製造や修理を請け負った物品などについて、その取引の相手方に対して運送する場合に、運送業務を他の事業者に委託する取引のことをいいます。これまでは独占禁止法の枠組みにより規制されていましたが、無償で荷役・荷待ちをさせられている問題などを受け、取適法の対象に追加されたものです。
3.禁止行為の追加
(1)協議に応じない一方的な代金決定を禁止
中小受託事業者から価格協議(値上げ)の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、協議の申し出を無視したり、協議を理由なく繰り返し先延ばしにする場合は、違反になります。
(2)手形払い等を禁止
「手形の交付」や「電子記録債権や一括決済方式のうち、中小受託事業者が支払期日までに代金相当額の金銭と引き換え困難なもの」が禁止されます。
(3)面的執行の強化(相談窓口の拡大)
委託事業者との取引で、「価格協議に応じてもらえない」「代金が全然支払われない」など、取適法に違反しているのではと思ったときは、公正取引委員会だけでなく、事業所管轄省庁においても相談できるようになります。相談内容が委託事業者に知られることはありません。
(4)減額による遅延利息の支払い
正当な理由なく委託事業者が支払代金を減額した場合は、減額した日又は物品等の受領日から60日を経過した日のいずれか遅い日から減額分を支払う日までの期間の遅延利息を支払う義務が追加されました。
以上が主な改正点になります。これを踏まえて、委託事業者の義務と禁止事項の概要をまとめると以下の通りとなります。
■義務事項
(1)発注内容等を明示する義務
発注に当たって、発注内容(給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法)等を書面又は電子メールなどの電磁的方法により明示すること
(2)書類等を作成・保存する義務
取引が完了した場合、給付内容、代金の額など、取引に関する記録を書類又は電磁的記録として作成し、2年間保存すること
(3)支払期日を定める義務
検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めること
(4)遅延利息を支払う義務
支払遅延や減額等を行った場合、遅延した日数や減じた額に応じ、遅延利息(年率14.6%)を支払うこと
■禁止事項
(1)受領拒否
中小受託事業者に責任がないのに、発注した物品等の受領を拒否すること
(2)支払遅延
支払期日までに代金を支払わないこと(支払手段として手形払等を用いること)
(3)減額
中小受託事業者に責任がないのに、発注時に決定した代金を発注後に減額すること
(4)返品
中小受託事業者に責任がないのに、発注した物品等を受領後に返品すること
(5)買いたたき
発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べ著しく低い代金を不当に定めること
(6)購入・利用強制
正当な理由がないのに、指定する物品や役務を強制して購入、利用させること
(7)報復措置
公正取引委員会、中小企業庁、事業所管省庁に違反行為を知らせたことを理由に、中小受託事業者に対して取引数量の削減・取引停止など不利益な取り扱いをすること
(8)有償支給原材料等の対価の早期決済
有償支給する原材料等で中小委託事業者が物品の製造等を行っている場合に、代金の支払日より早く原材料等の対価を支払わせること
(9)不当な経済上の利益の提供要請
自己のために、中小受託事業者に金銭や役務等を不当に提供させること
(10)不当な給付内容の変更、やり直し
中小受託事業者に責任がないのに、発注の取消しや発注内容の変更を行ったり、無償でやり直しや追加作業をさせること
(11)協議に応じない一方的な代金決定
中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定すること
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)
困った社員がいる場合は、指導記録を残そう その4(2025.10月号)
●困った社員がいる場合は、指導記録を残そう その4(2025.10月号)
前回からの続き
改善プログラムを組んで3か月経過後、改善が見られればそのまま経過観察、見られなければ再度退職勧奨を行います。
ここまでくれば、相当外堀が埋まった状況になっていますので、再度の退職勧奨で応じる可能性が高くなっています。
「3ヶ月が経過したけれども、自分で振り返って見てどうですか? 大して難しいことを要求しているわけでもなかったはずなのに、できなかった(やらなかった)ですよね。こんな調子だと、いずれ解雇せざるを得なくなってしまいかねません。辛い思いをする前に、自分で身の処し方を考えてもらえませんか? 今なら多少の退職金を出すことも可能ですが、解雇となればそうもいかないでしょう。自分でよく考えてみてください」
歩み寄ってくれば、前回で解説した1回目の退職勧奨を受け入れたと同様に、直ちに手続きを進めていくこととなります。これでも応じなければ、再度チャンスを与えるか、リスクを承知の上で解雇するかは経営判断となります。
■準備が必要! 退職勧奨の面談はここに注意して進める
退職勧奨の面談は、背中を押してあげるためのものです。退職に消極的な人に対して何としても退職を説得するためのものではなく、辞めてくれればラッキーくらいの感覚です。 面談の中で明らかに拒否反応を示し、説得が難しいと思えば、それ以上の無理は決してしないほうが無難です。また面談は録音されていると心得た方が良いでしょう。
しつこく迫る、多勢で取り囲む、長時間監禁する、脅迫じみたことを言ったり罵声を浴びせることは、違法となり却って問題を複雑化させますので、注意を要します。
面談はできれば2名で行い、1名が面談の進行を、もう一人が書記を担当します。書記担当の方は、話された内容を逐一メモにとっておきます。万が一、面談進行役がヒートアップしてしまった場合に書記担当の方はなだめる役割も担います。
面談時間は30程度に留めます。それ以上は話が拡散することが多いからです。2回目以降を行う場合も原則30分以内に留め、長くても1時間を超えることがないようにします。
退職勧奨における面談の基本は、これ以上会社にいても浮かばれないことをきちんと説明し、本人の将来のためを慮った姿勢を貫くことです。口論する場ではありません。また面談は必ず就業時間中に行ってください。
目的は話し合いにより合意して退職を決定することにあるので、本人が退職を迷っている間は何度か面談を重ねても構いません。但し、「退職しない」「応じない」との意思が明確に示された場合は、それ以上の勧奨は退職強要と評価される可能性が高いので控えなければいけません。
退職勧奨面談前には、必ず以下のことを検討しておきます。
(1)退職合意書の雛形準備(前回 例示しています)
(2)割増退職金(いわゆる手切れ金)の検討
必須ではないですが、多少の金銭を積むことによってまとまる可能性があります。
(3)有給休暇の買取り(何日残っていて、1日いくらにするか)
必須ではないですが、未消化の有給休暇を買い取ることで受け入れやすくなります。
(4)退職日までの就労の扱いとその間の賃金
退職は受け入れたが、退職日まで相当期間が空く場合、再就職のためにその間の就労免除して給与は満額保障することもあります。
(5)雇用保険の受給資格はあるか(自己都合で1年、退職勧奨の場合は6ヶ月)
受給資格がなければ、一定の割増退職金を覚悟する必要があります。
その他の付帯事項としては、本人の性格、家族構成、未払い残業代はないか、パワハラはなかったかなどにも留意しておく必要があります。特に普段の労務管理で会社側に落ち度がある場合、反撃されるリスクがあるので注意しましょう。
■常に冷静に! 退職勧奨では話し方にも配慮が必要となる
退職勧奨では、決して言い争いはしないことです。退職合意してもらうのが最大のミッションで、論破することが目的ではありません。仮に「何くそっ!」と思う感情があっても、それは出さず、淡々と冷静に話をすべきです。 ここで話し方の例を紹介しておきます(これは1回目の勧奨でも使用できます)。
◎勧奨例1
「今までの勤務状況をみていると、このままウチの会社で続けるのは難しいのではないか。このままでは○○さんを会社は評価できないし、これ以上重要なポジションで仕事を任せることもできない。給料も上がらないし、賞与査定も低くなる。恐らく同僚や後輩にも抜かれ、プライドを傷つけられることになるだろう。まだまだ今ならやり直しは効くと思う。年齢も○歳なら再就職も可能だと思うが、年を重ねるごとにそのチャンスは確実に減って行く。定年まであと○年もウチでくすぶっているのは君にとってもマイナスだ。
残念ながらウチとは合わず浮かばれなかったが、きっと世の中には○○さんに合う環境で、もっといい上司の元、もっと評価してくれて、もっと輝いて自己実現できるところがあると思う。今のうちにきれいな形で分かれた方がお互いの為になるのではないか。じっくりよく考えてみてはどうか」
◎勧奨例2
「○○さんは○○さんで信念を持ってその考え(やり方)をしていること、それ自体は立派なことかもしれない。でも会社には会社の考え方がある。仮に会社の方針が間違っていて失敗しても、最終的に全責任を負うのは私(経営者)の方である。私はお客様や取引業者に対して、そして他の社員とその家族に対しても、最終的に全責任を負う。極論すれば墓場まで会社を背負って行く。
そういう意味では私は会社を選ぶことができない。逃げることもできない。最後に責任を取るのは私の方だから、方針が合わなくとも、最終的には私の方針に従うべきではないのか。もしそれができないというなら、むしろ会社や経営者を選べるのは○○さんの方だ。この相反する状況を変えられるのは、会社を選べる○○さんの方だよ。私はずっとここにいるわけだから。どうしても従えないなら、○○さんの方から状況を変えるべきじゃないのか」
◎勧奨例3
「会社は○○さんを解雇するつもりはない。○○さんにとっても安易に解雇して欲しいなどと経歴に傷を付けるべきではないと思う。なぜなら会社にとって前の会社をいかなる理由で辞めたのかは重大な関心事であって、あなたの再就職に良い影響は与えない。再就職の道をわざわざ狭めるようなものだ」
◎勧奨例4
「もし円満に退職に応じてもらえるなら、今なら特別に退職金を●円(●か月分)を出すことができる、残っている有給を買い上げてもよい。退職日までの就労免除も検討するし、雇用保険もすぐにもらえるようにしてあげる」
万が一、解雇と受け取られる誤解を与えた場合は、すぐに解雇するつもりはないとして誤解を解いておいてください。
■後腐れなく! 離職日には社長にしてほしいことがある
とにかくモノは言い様です。また、いくら従業員に非があっても、退職した従業員から反撃をくらい、そこで費やす不毛な時間、労力、金銭、精神的負担を考えると、後腐れなく別れたほうが賢明です。
労働関係のトラブル事案は、この手の離職をめぐって起こることが一番多いからです。しかもトラブルになっているときは、得てして法的な問題というよりも、「恨み」による、感情的なしこりによるものが多いのです。これは普段から鬱積してきた不満もありますからなかなか難しいものがありますが、それでも経営者は別れ際に一工夫欲しいものです。
そこで私が常に別れ際に関して一つだけアドバイスしていることを申し上げます。そしてこれにより離職後、トラブルを拡大させることなく終了することが多いのです。これからはいかなる事由であれ、従業員と別れるときはこのようにされてはいかがでしょうか。
(1)握手する
離職日には必ず社長が立ち会い、別れ際に握手をしてください。それも片手ではいけません。両手です。こちらから両手を差し出して相手の手を握る感じです(選挙の時、議員が両手を差し出して有権者と握手するイメージ)。心理学的には接触効果といわれるもので、印象の向上につながります。
(2)頭を下げる
握手の際相手の目を見るとともに、頭を下げましょう。「今迄ご苦労さんでした。ありがとう」の一言を添えて。演技でも構いません。
(3)今後の幸せを祈念して送り出す
「ウチの会社では○○さんの力を充分活かせなかったかもしれないが、次の会社では、もっともっといい人に出会って、幸せになってくれ」という感じで、今後の人生の成功を祈る気持ちを伝えましょう。
ただこれだけです。相手に問題がある場合でもそうです。社長にプライドがあるのはわかります。むしろ社長から見て問題のあるその従業員に、文句を言いたい気持ちも分かります。しかしそこはぐっと我慢です。これだけのことでその後の不毛なトラブルを回避できるとしたらそれでいいではありませんか?
2回目の退職勧奨に応じなければ、解雇を選択せざるを得ません。
以下次号
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)
最低賃金 今秋よりまたまた史上最大幅の引上げ その影響を考える(2025.9月臨時号)
●最低賃金 今秋よりまたまた史上最大幅の引上げ その影響を考える(2025.9月臨時号)
今年も関西では10月から11月にかけて、最低賃金が変わります。今年は全国平均で66円という史上最大の上げ幅であり、関西圏の改定状況は以下の通りで、すべて1,000円を超えることとなりました。発効日は各県バラバラになります。
三重 1023円→1087円(+64円)11月21日発効
滋賀 1017円→1080円(+63円)10月5日発効
京都 1058円→1122円(+64円)11月21日発効
大阪 1114円→1177円(+63円)10月16日発効
兵庫 1052円→1116円(+64円)10月4日発効
奈良 986円→1051円(+65円)11月16日発効
和歌山 980円→1045円(+65円)11月1日発効
1.最低賃金の基礎知識
(1)強行性
最低賃金以下の時給額で雇うことは許されず、当事者がこれを下回る合意があったとしても、強行的に最低賃金まで引き上げられ、これに違反すると50万円以下の罰金に処せられることがあります。例えば大阪で就職先が見つからない高齢者から900円でいいから雇って欲しいと懇願され、900円なら安いとして雇入れた場合、当事者はともに満足しているのですが、法律がお節介に介入し、強制的に1114円(R7.9月現在)に引き上げられることとなるのです。
(2)地域別と産業別
最低賃金には地域別最低賃金と産業別最低賃金の2種類があり、冒頭にお示しした数字は地域別最低賃金です。概ね毎年10月前後に改定されます。これに対して産業別最低賃金とは特定の産業について設定されるもので、どちらか高い方が適用されます。産業別は地域別より遅れて改定されることが多く、現在大阪では塗料製造業、鉄鋼業など7つの産業分類において地域別より高い最低賃金が設定されています(この原稿の執筆段階では2025年の産業別は未定)。
(3)適用除外者
最低賃金は、パートアルバイト、日雇、嘱託など雇用形態や国籍に関係なくすべての労働者に適用されます。派遣労働者は派遣先の最低賃金が適用されます。しかし一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため障害のある方など一定の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件に個別に最低賃金の減額の特例が認められています。但しこの許可は簡単に降りるものではありません。
(4)最賃以上となっているかの計算方法
a 時間給の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
b 日給の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
c 月給の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
d 出来高払制によって定められた賃金の場合
出来高払制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制によって労働した総労働時間数で除した金額≧最低賃金(時間額)
e 上記aからdの組み合わせの場合
例えば基本給が日給制で各手当(職務手当等)が月給制などの場合は、それぞれ上のb、 cの式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)と比較します。
上記計算において、以下の賃金は最賃計算から除外します。
ア 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
イ 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
ウ 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外・休日、深夜割増賃金など)
エ 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
2.令和7年の大幅アップにより考えられる影響
今秋も高卒採用賃金の相場がアップすることは確実です。何故なら大阪府の1,177円で見た場合、月間の平均所定労働時間別に見た最低額は以下の通りとなります。
173H 203,621円(週40時間制においてギリギリの年間休日数の場合)
170H 200,090円
165H 194,205円
160H 188,320円(1日8時間で完全週休2日制の場合)
150H 176,550円(1日7.5Hで完全週休2日制の場合)
これをご覧になって分かるように、週40時間ギリギリで設定している会社は最低でも203,621円出さないと、そもそも高卒求人が出来ないのです。週40時間ギリギリとは、年間休日を以下の休日数で設定している場合です。
1日8時間の場合 年間105日
7時間45分の場合 年間96日
7時間30分の場合 年間87日
この203,621円には皆勤手当や通勤手当、残業代(固定残業代を含む)を除外してクリアしなければなりません。高卒ですから各種手当が付くことは余り想定されず、基本給のみで203,621円必要となるのです。これはあくまでも最低賃金をクリアするだけのことであり、採用相場とは異なります。おそらく大阪では高卒初任給で21万円を超える水準が当たり前になるでしょう。
影響はこれに終わりません。大阪近隣県の企業は大阪の企業に人材が流出しないように考える必要があるのです。例えば奈良の場合、計算上は181,823円以上出せば最賃はクリアしますが、その隣の大阪で21万円以上で求人が出ている場合、求職者はどちらを選ぶでしょうか?電車一本で1時間以内で大阪に出られ、交通費も出るなら大阪勤務を選択する可能性が高いですよね。
(参考 令和6年 全国平均 高卒197,500円 大卒 248,300円 厚生労働省 賃金構造基本統計調査)
さらに在職者への影響も考えなければなりません。中小企業の場合、入社して2、3年経過しても20万円に達しない総支給額であることがあります。大阪では今秋から高卒者が21万円以上で入社してくるなら、在職者との賃金バランスが非常に悪くなり、必然的に在職者の昇給も考えなければなりません。
さらにさらに、固定残業代を採用している会社は、固定残業代を除いた賃金が最賃をクリアしているか再検証が必要です。例えば月間平均173時間の会社の場合で固定残業時間別に見た場合、皆勤手当と家族手当を除いて以下の金額以上出してないと最賃割れします。
固定残業時間数 10H 20H 30H 40H 45H
218,400円 233,100円 247,800円 262,500円 269,900円
4.政府の方針~働き方改革と実質賃金~
政府は岸田政権時代に2029年度までに全国平均を1,500円にすると宣言しました。現在もその方針は踏襲されており、今秋の全国加重平均が1,121円であり、2029年年までには年平均95円上げないと到達しないこととなります。賃上げについて行けない零細企業が相当数出ることが予想されます。
最低賃金の引上げ自体は働き方改革関連法とは別のものですが、私には同趣旨に見えてしまいます。コロナの影響でコロナ前にはあれほどマスコミに取り上げられた「働き方改革」の言葉もすっかり影を潜めましたが、着々と進行中です。その大本の趣旨は諸外国に比較して生産性の低い日本企業の新陳代謝と物価上昇を上回る賃上げにあると見ています。
つまり大幅に減少してゆく労働人口を生産性の高い企業へシフトさせ、そこを成長のテコにし、逆に賃上げと生産性向上に着いて来れない企業のふるい落としだと見ているのです。原材料高、採用難、後継者問題・・・。本当に厳しい時代に経営者は孤独に立ち向かって行くしかないのでしょうか?
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)
困った社員がいる場合は、指導記録を残そう その3(2025.9月号)
●困った社員がいる場合は、指導記録を残そう その3(2025.9月号)
前回からの続き
まず口頭で注意→指導書交付→警告書交付→(軽い懲戒処分) と段取りを踏んでも改まらない場合、解雇の前にまずは退職勧奨を検討します。特に反抗的な社員は、解雇すると反撃を受けるリスクが高いため、よっぽどでない限り伝家の宝刀として解雇は最後に温存しておきます。
できるだけ解雇は避け、合意解約に持ち込みします。仮に解雇で紛争になった場合、弁護士やユニオンの介入を許し、1年間は付き合う覚悟が必要になります。この間にかかる無駄な労力、時間、費用、精神的負担は相当なものです。仮に1年後に勝訴判決を得たとしても、会社には何も益が残りません。しかも仮払いが認められれれば、解雇した社員に給料を支払い続ける必要が生じ、勝訴してもまず戻ってきません。
よっぽど会社の主張を公に認めさせたいなどの強い動機がない限り、解雇は最終手段として取っておきましょう。まずは退職勧奨です。
1.自由に行える! 解雇とはまったく別の退職勧奨を理解する
退職勧奨はよく解雇と勘違いされるのですが、解雇とは全く別のもので、自由に行うことができます。 離職には、従業員からの一方的な解約である辞職と、使用者からの一方的な解約である解雇があり、その間に合意解約があります。この合意解約にも二つあり、一つは従業員から退職したいとの申し入れであり、一般的に自己都合と言われるものです。
これに対し、会社から辞めてもらえませんかと打診するのが退職勧奨であり、その結果、従業員が受け入れればこれも合意解約となります。退職を促す行為である退職勧奨自体は自由に行うことができるのです。
ただ自由とは言っても、以下のような場合は違法と判断される可能性があるので、注意を要します。
(1)明らかに拒否しているのに執拗に迫る
(2)大人数で取り囲む
(3)いたずらに長時間迫ったり、監禁する
(4)暴言、罵倒、脅迫じみたことを行う
2.解雇は危険! 問題社員にはこの流れで退職勧奨をする
問題社員だからといって、いきなり解雇するのは非常に危険です。日本の労働法制は採用はかなり自由度が高いのですが、解雇は厳しい制限があり司法は簡単に認めてくれません。労働者側弁護士やユニオンの介入を招くリスクがあり、解雇紛争を避けるためケースにもよりますが、概ね以下のようなスケジュールで退職勧奨を考えます。
ア まず退職勧奨してみる→受け入れれば即退職手続きに入る
↓
イ アで受け入れなければ、改善プログラムを3か月間組む
↓
ウ 3か月経過後、改善が見られれば経過観察、見られなければ再度退職勧奨、応じなければ解雇も
ア まず退職勧奨してみるについて
まず退職勧奨してみます。退職することに同意した場合は、気が変わらないうちに、直ちに社長が退職を承認(合意)し、早急に退職日を確定させます。一旦人事権者と合意した退職の意思表示は、その後撤回することができないからです。 そして退職願を書いてもらうか、退職合意書を作成します。但し、退職に迷いを見せる言動がある場合には、強引に書かせることは避け、1日空けてから書いてもらうこともあります。これはケースバイケースです。
退職合意書とはおおよそ以下のような内容の文書を双方で交わすものです。
(退職合意書の例)※実際の記載内容はケースバイケースです。次号で内容について解説します。
------------------------------------------------------------
退 職 合 意 書
株式会社甲商店(以下「甲」という)と乙山太郎(以下「乙」という)とは、甲乙間の雇用契約に関して、以下の通り合意する。
1 甲と乙は、当事者間の雇用契約を令和●年●月●日(以下「退職日」という)限り、合意解約する。
2 甲は乙に対して、特別退職金として金●●円を支払うものとし、これを令和●年●月●日限り、乙の通常の給与振込口座に振込送金する方法で支払う。なお振込手数料は甲の負担とする。
3 甲は本件合意解約に関し、雇用保険の離職証明書の離職事由は、甲からの退職勧奨の受け入れ扱いで処理する。
4 甲は乙に対して、令和●年●月●日から退職日までの就労義務を免除し、令和●年●月分給料として令和●年●月●日限り、金●●円から公租公課を控除した残額を第2項の預金口座に振込送金する方法で支払う。
5 乙は、本合意書の成立及び内容並びに本件の経緯を第三者に漏洩しないものとし、今後甲乙共に誹謗中傷しないものとする。
6 甲は、本合意書締結以降、乙の不利益となる情報を開示せず、第三者から乙の退職原因を問われた場合には、円満に合意退職したことのみを告げるものとする。
7 乙は甲の営業秘密及び個人情報にかかる資料並びに甲からの貸与物は、正本、複写等の別を問わず、すべて退職日までに甲に返却し、退職日以降一切所持しないことを誓約すると共に、甲の在職中に知り得た甲の営業秘密及び個人情報について、退職後も第三者に漏洩しないものとする。
8 甲と乙は本合意書に定める他、乙の退職後の守秘義務等乙が退職後も負うべきものとされる義務を除き、甲乙間において何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する。
9 乙は本合意書締結前の事由に基づき、甲の役員、従業員、株主に対し、一切の訴訟上、訴訟外の請求を行わないことをここに同意し、確認する。
10 退職日以降、甲の施設内に乙の私有物がある場合、乙は甲にその処分を委任する。
甲乙間の合意の証として本合意書を2通作成し、署名または記名押印して各々1通を保管するものとする。
令和●年●月●日
(甲) 株式会社甲商店
代表取締役 甲川 一郎
(乙) 乙山太郎
------------------------------------------------------------
イ 改善プログラムを3か月間組むとは
1回目の退職勧奨に成功しなかった場合は、次のステップに進みます。漫然とやり過ごすのではなく、必ず期間を切った改善プログラムを組み、このように伝えます。
「よしわかった。でもまだウチで頑張るということなら、今のままでは駄目だ。向う3か月間の改善指導プログラムを組むので、真剣に取り組んで結果を出して欲しい。また3か月後に話し合おう」
この改善プログラムですが、決して難しいことを要求するものではなく、やる気さえあれば誰でもできる課題を10項目程度で書き出し、毎日自己チェックさせます。応じない場合は業務命令を出してでも行います。これにより本当に改善してくれればそれに越したことはありませんが、経験上そのケースは稀です。
結論から言いますと、この目的は3か月間指導したけれども、こんな簡単なことすらできない、守れない、やらないという事実を残すためなのです。とにかく3か月間、会社も本人も、この課題に対して、コミットし続けます。ほったらかしはいけません。不真面目なときは、文書で注意書、警告書を出します。仮に受けとらないケースがあれば、その事実を日記のように時系列に記録しておいてください。その他気づいたことも、何でも記録しておいてください。
(以下次号)
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)
困った社員がいる場合は、指導記録を残そう その2(2025.8月号)
●困った社員がいる場合は、指導記録を残そう その2(2025.8月号)
前回からの続き
2.問題があると認識したら黙認せず、まず口頭で数回注意をすること
これは試用期間に限らず、本採用後であっても問題があると感じているなら、黙認してはいけません。特に問題社員は、自分が問題行動を起こしているという自己認識が低いことが多く、むしろ自分は問題なくちゃんとやっている、と思っていることがあるのです。
それを黙認していると、問題行動を間接的に肯定していることになり、後から注意すると「なぜ今まで言われなかったのに、今頃急に言われなくてはいけないのか」と反省するどころか、逆に不信感を買うか、反抗的な態度を返してくる可能性があります。
問題行動があると認識した段階で速やかに口頭注意をします。それで改善されれば苦労はしないのですが、一度や二度の注意で改善しないのが問題社員です。
改善しない場合は、次の段階へ進みます。次は文書による指導書を発行します。
【例】
●●殿
貴殿に対して、今まで口頭で何度も注意してきましたが、改善が見られないため、これまでの勤務及び業務遂行状況からみて改善をお願いしたい下記の事項について文書により指導しますので直ちに改善向上を求めます。
1.上司等の指示命令に従い誠実かつ忠実に勤務して下さい。
(勝手に自己流で判断しないで、十分指示等の意図を確かめてから取り掛かること。特に独自の見解で、独断で業務を遂行せず会社の意図に沿って業務を進めること。)
2.同僚杜員と協調融和し、また後輩に対し親切かつ適切に指導して下さい。
(上司の指示に合理的な理由なく反抗し、同僚杜員を批判したり不服を直接言うことによって職場の協調・一致を乱さないようにすること。他部署社員との打合せにあたっても円満で目的達成上有効な言動を行い、後輩又は部下社員に対し怒鳴ったり、大声で叱ったり、些細なことで文句を言ったりしないで、親切かつ適切な指導をすること。)
3.職場を無断で離脱することなく用件、行き先等を告げ連絡がとれるようにして下さい。
(勤務時間中しばしば無断で離席し、また社外に外出する等して連絡がとれないことがあるのできちんと離席手続を守ること。)
できれば2部作成して一部を交付し、もう一部に「内容を理解し改善に取り組みます」等と記した欄に直筆のサインをもらっておくことが望ましいですが、サインしない場合は手渡しだけでも構いません。●月●日に交付、署名を求めたが●●と言ってサインせず、などと直ぐに欄外に書いて記録しておいてください。万が一受け取り自体を拒否した場合も読み聞かせた上で、同様に受け取り拒否した事実を欄外に記録しておいてください。
注意指導書の様式には実に様々なものがあります。ケースバイケースで使い分けします。上記は一例に過ぎず、問題社員に手渡す文書を作るときはその都度弊社までご相談ください。
これでも改善されないときは、警告書を交付します。
【例】
貴殿には、令和●年●月●日付、「指導書」を交付して改善してほしい事項を明示しました。しかし貴殿は真摯に反省しないばかりか、反抗的な態度すら見られ、一向に改善されず、今回新たに●●という非違行為を起こしました。
今後、改善されず、または更に非違行為を行う場合は、当社は懲戒(解雇を含む)処分を含めて厳しく対処することとしますので、充分に注意してください。ここに社長名にて警告します。
これでも改善されなければ、けん責(始末書を取ること)や減給など軽い懲戒処分を行うことがあります。
ここまでを整理すると、
まず口頭で注意→指導書交付→警告書交付→(軽い懲戒処分) というような感じです。期間をどれくらい見るかは悩ましいところですが、改善の機会を付与する意味では最低3か月程度はかかるものと心得ておいた方がよいでしょう。これは一般的な流れであり、相手や行為態様により必ずしもこの通りであるとは限りません。
そして口頭注意から警告までの問題行動については、その都度日記のように時系列で記録しておくことです。後で思い出して書くのではなく、その日に記録しておきます。問題社員とともに過ごす機会の多い社員に記録をお願いすることもあります。
ここまでやってダメな場合はいよいよ最終段階へ進んでゆくことになります。最終段階とは退職勧奨か解雇を選択するということです。
(以下次号)
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)
困った社員がいる場合は、指導記録を残そう その1(2025.7月号)
●困った社員がいる場合は、指導記録を残そう その1(2025.7月号)
私共は社労士事務所として、社員に関する様々なご相談をお受けしますが、その中で結構多いご相談が、問題社員に関するご相談です。トラブル社員、モンスター社員などいろんな言い方をされますが、同じものです。
これには大きく分けて3つの類型があります。
1.仕事自体ができない社員(遅い、ミスが多い、覚えが悪い、気が利かないなど)
2.執務態度が悪い社員、(協調性がない、自己主張が強い、自分勝手、反抗的、やる気が感じられないなど)
3.勤怠不良型社員(遅刻・欠勤が多い、直前での休暇請求、メンタルヘルスによる休職など)
今回はこれらのうち、1及び2の類型についての対応方法を考えたいと思います。といいますのも1と2の類型は基本的に同じ対応方法になるからです。では具体的に見てゆきましょう。
1.まずは試用期間で排除できるように、試用期間をきちんと運用する
これは問題社員のご相談をいただいた時には入社から結構時間が経過しており、何で今頃、と思うことがあるからです。試用期間で排除できる可能性があったのに、その機会を失っているケースが多いと推測されます。特に能力不足の場合は執務態度にように取り繕うことが難しいため、試用期間中に露見するケースが多いと思われます。
試用期間の意味や適切な運用方法については今まで何度も述べてきたところですが、最大のポイントは「本人が何をテストされているのかを認識し、そして会社も何をテストしているのかを理解してお互いに明確に合意しておくこと」に尽きます。
明確な合意とは採用前または採用初日に必ず、雇用契約書において「試用期間から本採用へ移行する基準」を明確に記載しておくことです。
【雇用契約書 記載例】歯科クリニックを想定
試用期間:令和●年●月●日(出勤初日)~令和●年●月●日(●か月間)
会社は次の各号の全てが充足された場合に限り、本採用へ移行する。本採用する場合は再度労働条件を見直す。
(1)院長の指示、医院のルールを遵守できること
(2)他の従業員と協調して職務を遂行できること
(3)無断欠勤、遅刻をしていないこと
(4)懲戒事由に該当するよう非行行為がないこと
(5)心身ともに健康であること
(6)患者(ご家族を含む)とトラブルがないこと
(7)不明なことは勝手に判断せず、院長に確認すること
(8)見直し、確認は必ず行うこと
(9)歯科衛生士としての基本的な知識・技術を有し、職務を円滑に行えること
(10)その他労働契約の本旨に従った労務の提供ができること
本採用する場合は再度労働条件を見直すとは、試用期間中は時給制にするとか、1日の勤務時間を1時間短くするとか、本採用後とは異なる条件にしておく方が良いでしょう。
このように合意した上で、試用期間満了時に基準を満たさない場合は、定着してしまった社員よりも、はるかに退職勧奨や解雇がしやすくなります。ただこの場合でも、試用期間中に基準を満たさない言動があった場合は、その都度口頭で指導し、本採用への移行が難しいと感じたのなら、試用期間終了の2週間前くらいに文書で警告しておいた方が良いでしょう。
【警告文書例】
〇〇殿 令和●年●月●日 株式会社■■
貴殿に対して、試用期間中のこれまでの勤務及び業務遂行状況に対して何度も口頭にて指導してきましたが、改善が見られないため、ここに文書で指導します。改善を求める下記の事項について試用期間満了日である●月●日までに改善してください。
難しいことを要求している訳ではありませんので、直ちに取り組んでください。改善しない場合は試用期間満了をもって解約し、本採用へは移行しませんのでここに申し添えます。
(改善を求める下記の事項については略)
2.問題があると認識したら黙認せず、まず口頭で数回注意をすること
これは試用期間に限らず、本採用後であっても問題があると感じているなら、黙認してはいけません。特に問題社員は、自分が問題行動を起こしているという自己認識が低いことが多く、むしろ自分は問題なくちゃんとやっている、と思っていることがあるのです。
それを黙認していると、問題行動を間接的に肯定していることになり、後から注意すると「なぜ今まで言われなかったのに、今頃急に言われなくてはいけないのか」と反省するどころか、逆に不信感を買うか、反抗的な態度を返してくる可能性があります。
(以下 次号)
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)
●2025.6月より 熱中症対策義務化について(2025.6月号)
●2025.6月より 熱中症対策義務化について(2025.6月号)
気象庁の季節予報によりますと2025年夏(6月~8月)の気温は例年に比べて高い予想だそうです。日本では、熱中症による労働災害の増加が増えてきており、そういったことも背景にあり、2025年6月1日から職場における熱中症対策が法的に義務化されます。これは、労働安全衛生規則の改正によるもので、事業者に対して以下の具体的な対策の実施が求められます。
■義務化される主な内容
改正労働安全衛生規則では、以下の3点が事業者に義務付けられます。
1. 報告体制の整備:熱中症の自覚症状がある作業者や、熱中症の恐れがある作業者を見つけた者が、その旨を報告するための体制を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に周知すること。
・報告の窓口の明確化:担当者や連絡先など事業場ごとに定め、関係作業者へ周知する
・複数の報告手段の確保:電話、専用アプリ、口頭など複数の報告手段を用意する。
・報告者氏名、対象労働者氏名、症状、意識の有無などを明確にすること。
2.実施手順の作成:熱中症の症状の悪化を防止するための措置について、実施手順を定め、周知すること。
・作業からの離脱:症状が見られた作業者を速やかに作業から離脱させる手順。
・身体の冷却:涼しい場所への移動や冷却材の使用など、身体を冷却する方法。
・医師の診察または処置:必要に応じて医師の診察や処置を受けさせる手順。
・緊急連絡網の整備:緊急搬送先の連絡先や所在地を含む連絡網の整備。
★参照「職場における熱中症対策の強化について」 厚生労働省
https://jsite.mhlw.go.jp/toyama-roudoukyoku/content/contents/002212913.pdf
3.関係者への周知:上記の体制や手順について、関係作業者に対して周知を徹底すること。
・朝礼やミーティングでの周知・伝達
・会議室、掲示板や休憩所などわかりやすい場所への掲示
・メールやイントラネットでの通知
※対象となるのは、暑さ指数WBGT ※ (湿球黒球温度)28度以上または気温31度以上の作業場で、継続して1時間以上または1日当たり4時間を超えて行われる作業です。
■ 罰則について
義務を怠った場合、労働安全衛生法第119条に基づき、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
当事務所HP(書式ダウンロードコーナー)にて「熱中症対策書 見本」がダウンロード出来ますのでご活用ください。
以前から暑さ対策については様々な対策を講じられているという会社を多く聞きます。もちろん暑さ対策がメインではありますが、人を雇用、採用するといったことにおいて働きやすい職場環境作りとうのは大切な要素となっているなと改めて感じる次第です。
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※WBGT:人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい 1.湿度、 2.日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 3.気温の3つを取り入れた指標です。
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蛇足ですが、
今回、熱中症対策が罰則付きの強行法規になったことは、企業にとってリスクが高まったことを意味します。
〇刑事面において:
労働条件を定めた労働基準法と違い、人の命に関わる労働安全衛生法違反を犯し、かつその結果が重大である場合は、行政指導(是正勧告)を経ず、いきなり司法警察権を行使して犯罪捜査として扱い、検察庁に「厳重処分を求めます」との情状等に関する意見を付して送致することがあります(但し起訴されるかどうかは検察官の裁量によります)。
例えばプレス加工において安全装置を具備せず腕を切断する事故が起こったとか、高所作業において転落防止措置を取ることなく転落事故を起こして死亡したとか、安衛法に定められた措置を怠ったことが重大事故に関連している場合です。
今回の熱中症においても適切な対応手順を定めずに漫然とやり過ごし、その結果労働者が死亡したようなケースではそのような厳しい措置が取られる可能性が高まります。
〇民事面において:
今回の法改正による適切な措置を取っていなかった企業において熱中症により死亡事故や後遺障害が残った場合、本人やその遺族から高額な損害賠償を求められるリスクが高くなります。つまり安全配慮義務違反が成立しやすくなったといえ、億単位の紛争になる可能性があります。
このようなリスクに巻き込まれないためにも、適切に対応しておきたいものです。
(文責 社会保険労務士 坂口 将)




