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10月からカスタマーハラスメント、就活ハラスメント措置が義務化されます(2026.9月号)

●10月からカスタマーハラスメント、就活ハラスメント措置が義務化されます(2026.9月号)
~カスタマーハラスメント・就活ハラスメント対策義務化のポイント~

 

2026年10月1日より、厚生労働省が定める指針に基づき、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」および「求職者等に対するセクシュアルハラスメント(就活ハラスメント)」について、事業主に防止措置の実施が義務づけられます。 本号では、施行前に押さえておくべきポイントを簡潔に整理いたします。

 

1.カスタマーハラスメント対策義務化の概要

(改正労働施策総合推進法)
◇カスタマーハラスメントとは、以下の3要件をすべて満たす顧客等の言動を指します。

(1)顧客・取引先・施設利用者等の言動であること
(2)社会通念上許容される範囲を超えていること
(3)労働者の就業環境を害すること

典型例として、暴言・侮辱、過度な要求、長時間の居座り、SNS等での執拗な攻撃などが挙げられます。 なお、正当なクレームや合理的配慮の要請はカスハラには該当しません。

 

◇事業主が講じるべき義務
指針では、以下の措置が事業主に義務化されています。

① 方針の明確化・周知
・カスハラには毅然と対応する旨の方針を定め、労働者へ周知
・カスハラの内容、対応手順(管理者への報告、単独対応の回避、警察通報等)を明確化

② 相談体制の整備
・相談窓口の設置と労働者への周知
・相談担当者が適切に対応できる体制整備

③ 事後対応
・事実関係の迅速・正確な確認
・被害者への配慮措置
・再発防止策の実施

④ 抑止措置
・悪質ケースへの対処方針(警告、出入り禁止、警察通報等)の事前整備

⑤ その他必要な措置
・相談者のプライバシー保護
・相談を理由とした不利益取扱いの禁止

 

◇ 実務上の留意点
・パワハラ防止措置の枠組みを活用可能
・派遣労働者については派遣先も義務を負う
・消費者の権利や障害者差別解消法の合理的配慮義務に留意する必要あり

 

2.就活ハラスメント(求職者等セクシュアルハラスメント)対策義務化

(改正男女雇用機会均等法)
◇就活ハラスメントとは、事業主が雇用する労働者による性的な言動により、 求職者等の求職活動・実習等が阻害される行為を指します。

◇対象となる「求職者等」
・求人応募者
・採用活動に参加する者(会社説明会・面接参加者等)
・インターンシップ参加者
・教育実習・看護実習等の実習生
・オンラインでの採用関連活動も含む

 

◇典型的なハラスメント例
・インターン中の性的な冗談・からかいの継続
・面談時に性的関係を求める
・SNSでの不適切な接触 これらにより、求職活動の意欲低下や活動阻害が生じるケースが対象となります。

 

◇事業主が講じるべき義務
指針では、以下の措置が求められます。

① 方針の明確化・周知
・求職者等へのセクハラ禁止方針
・行為者への厳正な対処方針
・面談場所・時間、SNS利用ルール等の明確化

② 相談体制の整備
・相談窓口の設置と求職者等への周知
・担当者が適切に対応できる体制整備

③ 事後対応
・事実関係の迅速・正確な確認
・被害者への配慮措置
・行為者への適切な措置
・再発防止策の実施

④ その他必要な措置
・相談者のプライバシー保護
・協力した労働者への不利益取扱い禁止

 

3.企業が今すぐ着手すべき準備
(施行までの実務ポイント)

(1)基本方針・対応ルールの策定

・カスハラ・就活ハラの定義の確認と禁止方針
・対応手順(初動対応、管理者報告、警察通報基準等)
・悪質ケースの線引き
・採用活動における面談ルール(場所・時間・SNS利用等)

 

(2)就業規則・社内規程の整備

・ハラスメント規程への追加
・懲戒規程との整合性確認

 

(3)相談窓口の整備

・既存のハラスメント窓口との統合も可能
・担当者研修の実施(判断基準・初動対応)


(4)周知・啓発

・社内研修(正当なクレームとの線引き、採用時の注意点)
・採用担当者・現場責任者への重点教育
・求職者向け相談窓口案内文の整備

 

(5) 運用体制の点検

・発生時の対応フローの確認
・年間の運用サイクル(研修・点検・改善)

 

 

4.義務化の背景と企業メリット

・厚生労働省調査では、約10人に1人がカスハラ被害を経験
・就職活動経験者の約30%がセクハラ被害を経験とされており、対策の必要性が高まっています。

適切な対策は、? 労働者の離職防止、採用活動の信頼性向上、顧客・取引先との健全な関係構築につながり、企業価値の向上にも寄与すると思います。

 

 

5.まとめ

2026年10月の施行に向け、「方針の明確化」「相談体制の整備」「事後対応」「抑止措置」「周知・啓発」 の5本柱を中心に、社内体制を整えていくことが求められます。

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

2026年10月からパート・有期・派遣労働者の雇用契約書の変更が必要となります(2026年8月号)

●2026年10月からパート・有期・派遣労働者の雇用契約書の変更が必要となります(2026年8月号)

 

今年の10月以降に新たに締結するパート(短時間労働者のこと)・有期・派遣労働者の労働契約から、労働条件明示のルールが変更され、雇用契約書または労働条件通知書に新たに追加して記載する項目が増えます。追記する概要は以下の通りです。

 

◎概要

「待遇の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」を必ず記載。派遣労働者の場合は派遣元へ説明を求めることができる旨を必ず記載(違反には10万円の過料)。

 

◎書き方例

パート・有期労働者の場合:相談窓口に対して正社員との待遇の相違(内容や理由)等について説明を求めることができる
派遣労働者の場合:派遣元相談窓口に対して通常の労働者との待遇の相違(内容や理由)等について説明を求めることができる

 

◎解説

「相談窓口」とは、「雇用管理の改善等に関する事項にかかる相談窓口」のことで、従来から記載が義務付けられていたものです。中小企業においては以下のように記載していることが多いかと思います。

相談窓口:社長及び社長配偶者  人事総務部  担当●● など

中小企業の場合は今回の改正で求めている「正社員との待遇の相違(内容や理由)等」に絞った相談窓口を新たに設けるのは人員的にも機能的にも困難ですから、従来からある「相談窓口」で統一するのが現実的です。

 

そもそも従来から「パートタイム・有期雇用労働法」では、正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間で待遇差がある場合、事業主は、パートタイム・有期雇用労働者から求めがあれば、

(1)待遇差の内容や理由、
(2)パートタイム・有期雇用労働法第6条から第13条までの措置を講じるに当たって考慮した事項

を説明しなければなりません。これは今年の法改正前から義務とされていたものです。上記において「待遇の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」を必ず記載とありますが、この中の「等」が(2)のパートタイム・有期雇用労働法第6条から第13条までの措置を講じるに当たって考慮した事項のことを言っています。

 

その第6条から13条とは概略、以下の情報のことです。

6条:労働条件の文書交付
7条:就業規則の作成について
8条:不合理な待遇の禁止(均衡待遇)
9条:正社員と同等の者に対する差別取り扱いの禁止(均等待遇)
10条:賃金
11条:教育訓練
12条:福利厚生
13条:正社員への転換

 

ここまでのことをごく簡単に申しますと、パート(短時間労働者のこと)・有期契約労働者・派遣労働者に対して、正社員との待遇差に疑問を感じたら、決められた相談窓口に説明をもとめることができることを文書で周知しなければならなくなったということです。

今までも求めがあれば説明する義務はあったのですが、いわばこれを文書化して「疑問があれば説明を求めることができるんですよ」と文字でお知らせしなければならなくなったのです。

ただお知らせの記載は義務化されましたが、説明の求めがあれば対応しなければならないという法文は変わっていません。つまり求めがないのに説明しなければならない義務ではありません。但し厚労省は求めがなくとも分かりやすい資料を交付することなどでの対応を行うことが望ましいとは言っていますが。。。。

 

 

これによって雇用契約書に必ず記載しなければならない事項を纏めますと以下の通りとなります。

1.契約期間に関すること(有期契約労働者が対象)

2.期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること(有期契約労働者が対象)

3.更新上限の有無と内容を明示(有期契約労働者が対象)

4.無期転換申込機会と無期転換後の労働条件の明示(5年を超える有期契約労働者が対象)

5.就業場所、従事する業務(こ関すること

6.就業場所と業務の変更の範囲

7.始業•終業時刻、休憩、休日、休暇などに関すること

8.賃金の決定方法、支払時期などに関すること

9.退職、解雇に関すること

10.昇給の有無(パート、有期契約労働者が対象)

11.退職手当の有無(パート、有期契約労働者が対象)

12.賞与の有無(パート、有期契約労働者が対象)

13.雇用管理に関する相談窓口(パート、有期契約労働者が対象)

14.待遇の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨(パート、有期契約労働者が対象)←今回の2026年10月から法改正で新たに追加
、

 

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

労使協定の労働者代表は適正に選任されていますか?(2026.7月号)

●労使協定の労働者代表は適正に選任されていますか?(2026.7月号)

~裁判で否認されると会社にとって怖い結果になります~

 

皆さんの会社でも毎年、36協定や1年単位の変形労働時間制の協定届を締結して労基署に届け出しておられるところが多いと思います。これらは労使協定と呼ばれるもので、中小企業が締結する主な労使協定には以下のようなものがあります。

(1)36協定(時間外・休日労働に関する協定)※
(2)賃金の一部控除に関する協定(賃金控除協定)
(3)1年単位の変形労働時間制に関する協定※
(4)フレックスタイム制に関する協定
(5)育児・介護休業法に基づく協定

 

※印は労基署への届出が義務となっているもの

 

労使協定とは免罰効果を有するもので、適正に協定することで刑罰を科されない効果があります。例えば最も一般的な36協定を例に挙げますと、本来労基法では1週40時間、1日8時間を超える労働を禁じており、これに違反した場合は6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科される可能性があるのです。つまり残業は刑事罰の対象となる違法行為になるのですが、36協定を締結して届け出しておくと、その範囲内で残業させても刑罰が科されることはありません。これを免罰効果といいます。

 

ただ、適正に協定されていないと紛争となった場合にその労使協定は無効となってしまいます。そして適正でないとみなされる最大の原因は、労働者代表の選出方法に瑕疵があることなのです。簡単に申しますと、「労働者代表が民主的手続きによって過半数労働者の信認を得ていない」ことが多いということです。

 

労使協定の一義的な意味は免罰効果ですが、付随的に民事的効力を持つ場合があります。適正に協定されていなければ、未払い残業代の問題としてリスクとなることがあるのです。

 

具体的に申しましょう。1年単位の変形労働時間制に関する協定はよく中小企業で登場する労使協定です。完全週休2日制でない限り、この協定を結ばないと1週平均40時間とならないことから、よく登場するものです。

この1年単位の変形労働時間制に関する協定とは、特定の週に40時間を超えることがあっても、1年間(約52週)を通じて平均して40時間以内に収まっておれば違法とはなりません。

例えば1日8時間の会社の場合、年間105日の休日を割り振れば、1週平均は40時間に収まります。この場合、いくつかの週で週6日勤務となり、週48時間となって1週40時間を超えてしまいますが、「適正な1年単位の変形労働時間制の協定」があれば違法となならず、かつ40時間を超過している8時間分について割増賃金を支払う必要はありません。

 

しかし「適正な1年単位の変形労働時間制の協定」でない場合、つまり「労働者代表が民主的手続きによって選出されていない場合」は様相が異なります。
適正でないとみなされると、きちんと届出していても無効となり、1週40時間の大原則に引き戻されるのです。
ということは、週48時間の週の8時間分についてすべて割増賃金が必要となり、しかも過去3年に遡って従業員全員に多額の負債を負うこととなるリスクがあるのです。

 

先ほどから申している「労働者代表が民主的手続きによって選出されていない場合」とは以下のようなケースです。

 

◎使用者側が事実上特定の人物を代表者として扱っている

◎労働者による投票や挙手、話し合い、持ち回り決議などの民主的手続がない

◎選出の記録がなく、民主的選出が行われたことの立証ができない

◎労使協定締結のための代表者を選ぶことが明示されていない

◎前に話し合いで選出された代表者が、その後任期更新も選出手続もなく毎年協定を締結している

◎親睦会代表が自動的に労働者代表とされている

◎過半数労働者の信認を得ているか不明

◎正社員だけで信任投票をしており、パートやアルバイトなど全ての労働者を代表していない

◎管理監督者が代表となっている

◎事業場(場所単位)ごとに選出されていない

 

こういったリスクは1年単位の変形労働時間制の協定だけでなく、他の労使協定においても同様です。

例えば、「36協定(時間外・休日労働に関する協定)」に瑕疵があれば、そもそも残業させたこと自体が違法となります。「育児・介護休業法に基づく協定」に瑕疵があれば勤続1年以内の労働者や週2日以内しか来ない労働者から育児介護休業の申し出があっても拒否することはできません。

たかが労使協定、と思わずに非常に大切なものであることを認識頂いて、適切に労働者代表を選んでください。

 

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

令和8年4月より、駐車場代が通勤手当に加算できます(2026.6月号)

●令和8年4月より、駐車場代が通勤手当に加算できます(2026.6月号)


本年4月以降に支払われる通勤手当に駐車場代(5,000円を上限)を加算して非課税として処理することが可能となっています。国税庁より本件に関するQ&Aが公開されていますので、掻い摘んでご紹介いたします。

Q1.令和8年度税制改正による通勤手当の非課税限度額の改正について、改正の概要を教えてください。

A.令和8年度税制改正により、通勤のため自動車などの交通用具を使用している給与所得者に支給する通勤手当の非課税限度額について、次の改正が行われました
・ 一定の要件を満たす駐車場等を利用し、その料金を負担することを常例とする人の1か月当たりの非課税限度額については、その通勤距離の区分に応じた非課税限度額に1か月当たりのその駐車場等の料金相当額(上限5,000円)を加算した金額とすることとされました。


補足:1)通勤距離が片道2km未満の場合は除かれます。
   2)自動車等の交通用具と公共交通機関を併用している場合でも対象となりますが、自動車等による通勤距離が2km未満の場合は除かれます。
   3)駐車場は消費税を含んで算定します。
   4)月極駐車場だけでなく、コインパーキングも対象となります。

Q2.改正後の非課税限度額は、いつから適用されるのですか?

A.改正後の通勤手当の非課税限度額は、令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当(同日前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するものを除きます。)について、適用されます。
なお、「令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」とは、それぞれ次に掲げる日が令和8年4月1日以後のものをいいます。
イ 契約又は慣習等により支給日が定められているものについてはその支給日、その日が定められていないものについてはその支給を受けた日
ロ 給与規程の改訂が既往に遡って実施されたため既往の期間に対応して支払われる新旧通勤手当の差額に相当する通勤手当で、その支給日が定められているものについてはその支給日、その日が定められていないものについてはその改訂の効力が生じた日
(※)上記ロに掲げる日が令和8年4月1日以後であっても、同日前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するものについては、改正後の非課税限度額は適用されません。


Q3.駐車場等の料金相当額の通勤手当が非課税となる「一定の要件を満たす駐車場等」とは、どのようなものをいうのですか?

A.駐車場等の料金相当額(上限5,000円)の通勤手当が非課税となる「一定の要件を満たす駐車場等」とは、通勤のために使用する交通用具の駐車のための施設のうち、その通勤手当の支払を受ける人の勤務する場所の周辺又はその人が通勤のために利用する交通機関の駅若しくは停留所その他の施設の周辺にあるものをいいます。
(※)上記の「その他の施設」とは、例えば、フェリー乗り場や空港などの交通機関の施設をいいます。

Q4.自転車やバイクの駐輪場も「駐車場等」に含まれますか?

A 駐車場等の料金相当額(上限5,000円)の通勤手当が非課税となる「一定の要件を満たす駐車場等」の「駐車場等」には、通勤のために使用する自転車やバイクの駐輪場も含まれます。


Q5.通勤のために複数の駐車場等を利用している場合には、利用する駐車場等の料金の合計額に相当する金額の通勤手当が非課税となりますか?

A. 通勤のため自動車などの交通用具を使用することを常例とする人が、その通勤のために複数の駐車場等の料金を負担することを常例としている場合は、それらの駐車場等が「一定の要件を満たす駐車場等」に該当するときは、利用する駐車場等の料金の合計額に相当する金額(上限5,000円)の通勤手当が非課税となります。


Q6.自宅付近の駐車場等を利用している場合のその駐車場等の料金相当額の通勤手当は非課税となりますか?

A. 駐車場等の料金相当額(上限5,000円)の通勤手当が非課税となる「一定の要件を満たす駐車場等」とは、通勤のために使用する交通用具の駐車のための施設のうち、その通勤手当の支払を受ける人の勤務する場所の周辺又はその人が通勤のために利用する交通機関の駅若しくは停留所その他の施設の周辺にあるものをいい、自宅付近の駐車場等はこれに該当しませんので、自宅付近の駐車場等を利用している場合のその駐車場等の料金相当額の通勤手当は非課税となりません。


Q7.自動車等の交通用具の使用と「一定の要件を満たす駐車場等」の料金の負担を常例とする人に対して支給する通勤手当の非課税限度額はどのように計算すればよいですか?

A. 自動車等の交通用具を使用することを常例とする人で、「一定の要件を満たす駐車場等」の料金を負担することを常例とする人(通勤距離が片道2km未満である人を除きます。)に支給する通勤手当の非課税限度額は、①通勤距離の区分に応じた非課税限度額と、②1か月当たりの駐車場等の料金相当額(上限5,000円)の合計額となります。


Q8.電車等の交通機関の利用と、自動車等の交通用具の使用と、「一定の要件を満たす駐車場等」の料金の負担とを常例とする人に対して支給する通勤手当の非課税限度額はどのように計算すればよいですか?

A.電車等の交通機関を利用するほか、自動車等の交通用具を使用することを常例とする人で、「一定の要件を満たす駐車場等」の料金を負担することを常例とする人(交通用具を使用する通勤距離が片道2km未満である人を除きます。)に支給する通勤手当の非課税限度額は、①1か月当たりの合理的な運賃等の額と、②通勤距離の区分に応じた非課税限度額と、③1か月当たりの駐車場等の料金相当額(上限5,000円)の合計額(上限150,000円となります。


Q9.駐車場等の料金相当額の通勤手当を非課税として支給するに当たり、従業員から駐車場等の料金が記載された契約書や領収書等の書類の提示等を受ける必要がありますか?

A. 駐車場等の料金相当額の通勤手当を非課税として支給するに当たり、従業員の方から駐車場等の料金が記載された契約書や領収書等の書類の提示等を受ける法令上の義務はありませんが、従業員の方が駐車場等の料金の負担を常例としている場合の通勤手当の非課税限度額の計算に当たっては、「1か月当たりの駐車場等の料金相当額」を算出する必要がありますので、従業員の方から「1か月当たりの駐車場等の料金相当額」の算出に当たり必要な金額が確認できる書類の提示等を受けるなどして、その金額を確認する必要はあります。
(※)上記の確認について、通勤手当の支給の都度行う必要はありませんが、駐車場等の料金に変更があった場合には、従業員の方から申出を受けて、「1か月当たりの駐車場等の料金相当額」の算出に当たり必要な金額を確認する必要があります(「1か月当たりの駐車場等の料金相当額」が既に5,000円を超えている場合であって、利用する駐車場等の料金の値上げがあった場合などは、あえて、非課税限度額の計算のために従業員の方から申出を受ける必要はありません。)


Q10.当社では、従業員が選んだ会社付近の駐車場を従業員に代わって契約し、毎月6,000円の駐車場代を負担しています。この場合の当社が負担した駐車場代は通勤手当として非課税となりますか(このほか、通勤距離(片道50km)に応じた通勤手当として32,300円の支給があります。)?

A.ご質問の駐車場代の負担については、実態として、従業員に対して駐車場代相当額の通勤手当を支給しているものと変わりありませんので、駐車場代として負担した6,000円について、駐車場等の料金相当額の通勤手当を支給したものとして通勤手当の非課税限度額の計算を行うこととなります。
ご質問の場合は、駐車場代の負担分も含めた通勤手当の支給額は38,300円(32,300円+6,000円)であり、通勤手当の非課税限度額は37,300円(※)となりますので、超過した部分の1,000円が課税となります。
(※)・ 通勤距離に応じた非課税限度額:32,300円(片道45km以上55km未満)
・ 1か月当たりの駐車場等の料金相当額:5,000円(1か月当たりの料金6,000円が5,000円を超えるため、5,000円)
・ 非課税限度額:37,300円(32,300円+5,000円)

更に詳細をお知りになりたい場合は、
https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026tsukin/index.htm


(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

ひたひたと迫る石油危機、リーマン、コロナのように休業手当が再び必要になるのか?(2026.5月号)

●ひたひたと迫る石油危機、リーマン、コロナのように休業手当が再び必要になるのか?(2026.5月号)


アメリカとイスラエルによるイラン攻撃に端を発する石油危機が懸念されています。この原稿の執筆時点(4月22日)ではまだ過去のオイルショック時のようなパニックは生じておらず、レギュラーガソリン価格も1ℓ160円台をキープしており、スーパーなど市民生活における物資の欠乏は起きていません。政府もホルムズ海峡経由外の石油航路を開拓して、本年中は耐えられる備蓄を確保したと発表しています。補助金を出して石油価格を抑え平穏に日常生活を続けるようなメッセージであり、特段の節約要請も出していません。


しかし顧問先企業に伺うと、「確かに今現在は直ちに影響は出ていないが、今後の見通しは極めて不透明」とか、「このままでいくと6月頃には材料供給が止まる可能性がある」とか、また「代替石油を確保できても中東の油質と異なるため、今までと同じナフサは精製できない」など、様々なご意見をいただきます。
そして一部企業からは、「また休業を考えないといけないかも知れない」との懸念も出てきています。またとはかつてのリーマンショックやコロナのことを想起したものです。
ただこの執筆現在では、コロナ禍において講じられた「ゼロゼロ融資」「持続化給付金」「雇用調整助成金の緩和」などの救済策はまだ聞こえてきません。本当に物資が枯渇するような状況になってくると、それなりに救済策を出してくるものとは思いますが・・・・。


その第一候補に挙がるのが雇用を維持し、離職率を下げる効果を持つとされる雇用調整助成金ですが、これには以下のようなネガティブな指摘もあるところです。

「受給終了後に大きな離職が生じている」
「受給事業所の廃業が受給終了後に集中する」
「雇調金はいたずらに無駄な雇用を温存する」
「いわゆるゾンビ企業の延命に手を貸している」
「産業構造の転換を遅らせている」


ご存じのことと思いますが、雇用調整助成金とは企業が経済的不調に陥ったときに、労働者を直ちに解雇せず、企業活動が休止となっても休業手当を支払うことによって雇用を守り、回復後の生産活動に備える助成金です。
この休業手当とは、労働基準法第26条に以下のように定められています。これに違反する場合は30万円以下の罰金に処せられる刑罰法規でもあります。

「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」


一方で民法では第536条2項において以下のような条文があります。

「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない」

この場合の債権者は会社のことで、債務の履行ができないとはつまり休業のことであり、反対給付とは給料のことです。ごく簡単に言えば、従業員は休業時に会社に対して100%の給料を請求できるということなのです。
一見すると、労働者保護法である労基法の方が60%と低いため、労基法の方が労働者に不利のように思えますが、民法の「債権者の責めに帰すべき事由」とは、会社の故意、過失またはこれと同視すべきものであるのに対し、労基法の「使用者の責に帰すべき事由」とは会社の経営者として不可抗力を主張し得ないすべての事由を含むと考えられており、過失がなく防止が困難なものであっても、会社側の領域において生じたすべてを含む広い概念となっており、判例・学説共に共通の理解となっています。簡単に図示すると、以下の通りです。


■会社に責任のある休業(休業手当支払い義務あり)
・使用者の故意・過失による休業
・経営上の理由による休業
(不況、受注減少、資材・資金不足、設備の欠陥など)
※但し原料・資材等の不測であっても、会社の関与範囲外の原因(不可抗力)による場合には支払い義務は発生しない

■会社に責任のない休業(休業手当支払い義務なし)
・地震・台風など天災事変による休業
・ストライキによる休業
・法令順守のための休業
(感染症法や労働安全衛生法によって就業禁止とされている疾病罹患など)

これから発生するであろう石油危機時における休業において休業手当の支払いが必要になるかどうかのポイントは、上述した※印の部分、つまり「不可抗力」にあたるかどうかです。石油危機による原料不足は明らかに会社の故意・過失ではありませんから、不可抗力にあたるかどうかが重要になるのです。


ここでいう「不可抗力」とは、次の二要件を満たす必要があります。

第一要件 会社の外部より発生した事故であること
第二要件 会社が通常の経営努力をしてもなお避けることのできない事故であること

第一要件を少し詳しく申しますと、会社の監督や干渉の範囲における人的・物的のすべてのモノが会社内部に含まれると解されており、第二要件は会社として休業を回避する具体的努力を最大限尽くしたかどうかと解されています。例えば在宅勤務とか他に就業可能な業務があるにもかかわらず、休業していないかなどが考慮されます。

一般論として資材・原料不足による休業は、会社営業圏内の事故であり、原則として休業手当が必要とされており、学説において「生産に必要な資材または動力は使用者が常に調達しておくべきであり、資材または動力の不足による不利益な結果を労働者に転嫁することは許されない」との見解もあり、行政通達においても休業手当の支払い義務のある例として「親工場の経営難から下請工場が資材、資金の獲得ができず休業した場合」が挙げられています。

その一方で労基法に権威のある解説書において、休業手当の支払いが不要になるケースとして「その他原料、資材等の不足であっても、いわば一般的原因(事業主の関与範囲外のもの)に基づく場合においては、例外として事業の外に起因するものとして解するのが相当であり、原則として使用者の責めに帰すべき事由による休業に該当しない」との記載があり、これが上述の※印のことを言っています。


しからば、仮にイラン戦争の影響で石油の輸入自体が滞り、それを原因として事業活動を休止せざるを得なくなった場合、「会社の関与範囲外の原因(不可抗力)によるもの」との理解も不可能ではなく、そうであれば休業手当の支払いは不要との結論もないわけではありません。石油の確保は一企業の責任の範囲外であり、常に安定的に調達できるようにしておく責任が企業外部の国にあると考えられるからです。


かつてのリーマンショック時やコロナ禍においては、事業活動の停止につき休業手当が支払われていました。特にコロナは外的要因であることは明らかであったにもかかわらずです。しかしこれらの時は雇用調整助成金の支給要件が大幅に緩和され、休業手当を支払うことを後押しする保護政策がとられました。それによって外的要因であったとしても、あたかも当たり前に休業手当を支給できたのです。

今回の石油危機において雇用調整助成金の緩和政策がとられなかった場合、果たして企業は休業手当を支払う余力があるのか懸念されます。仮に法的に休業手当の支給義務が発生しないとしても、従業員を引き留めるため、支払わない選択肢は現実的にとれません。


一刻も早く停戦し、中東と同質の石油が安定的に確保できる状況が維持されることを切望しますが、そうならなかった場合には非常に厳しい経営判断を迫られることになりそうです。

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

 

令和8年度の賃上げをどのように考えるべきか (2026.4月号

賃上げ圧力がかつてないほど高まっています。経営者として頭の痛い問題ですが、どのように考えればよいのでしょうか?

1.賞与と違い賃上げは相場がある


賃金には月例賃金と賞与があります。どちらもどの程度出せば(上げれば)良いのか悩むところですが、この二つの賃金相場には明確な違いがあります。どういうことかと言いますと、月例賃金の賃上げは相場感がありませので意識すべきですが、賞与は相場があってないものと考えてよいと思います。

私は28年間、社会保険労務士という職業に携わっており、この間企業の賞与明細を見てきていますが、平均値や中央値の感覚は得難く、まさに千差万別なのです。金額もバラツキが多いのですが、そもそも賞与を出す慣習がない企業も小規模企業の中には相当数あります。従って、日経新聞などに踊る景気の良い賞与支給額に踊らされる必要はありません。

しかし月例賃金の場合は千差万別ではなく、おおよその支給範囲に中で集約され、それをベースに額や率が決まるため、バラツキの少ない相場が出来上がるのです。従って、まず世間はどうなっているのかを知る必要があります。


2.世間相場はどうなっているのか

ここでは3つの統計をお示しして、相場感を皆さんと共有したいと思います。

「令和7年 賃金引上げ等の実態に関する調査(厚生労働省)」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/jittai/25/dl/10.pdf
「2025年度の中小企業の賃上げに関する調査(日本商工会議所)」https://www.jcci.or.jp/file/sangyo2/202511/202511_survey.pdf
「中小企業における2025年の賃上げ動向(大阪シティ信用金庫)」https://www.osaka-city-shinkin.co.jp/houjin/pdf/2025/2026-3-26.pdf

           厚生労働省    日本商工会議所   大阪シティ信用金庫

■1人平均改定額   13,601円  13,183円      ―  
                   (11,089円 20人以下)    

※大阪シティは額を出していないが、13,000円平均と見てよい。


■1人平均の改定率   4.4%     4.73%     3.14%

※大阪シティの調査が少し低めだが、おおよそ4.0%程度は見ておく必要がある


■賃上げ実施企業の割合 91.5%  64.5%     57.3%
        (予定含む)            (45.8% 10人以下) 

※日本商工会議所や大阪シティ信用金庫の調査では、35%から40%の企業で賃上げ自体を実施していないこともわかる。


■1人平均の改定額及び改定率の推移(厚生労働省 令和以降)   
                       
令和元年  5,592円    2.0%
令和2年  4,940円    1.7%
令和3年  4,694円    1.6%
令和4年  5,534円    1.9%
令和5年  9,437円    3.2%
令和6年 11,961円    4.1%
令和7年 13,601円    4.4%

※令和5年以降に急激に上がり始めたことが読み取れる。


■実在者賃金の相場(令和6年賃金構造基本統計調査 大阪 全産業 100人未満平均)

  ~19歳    211,200円
20~24歳    254,100円    
25~29歳    273,400円
30~34歳    338,400円
35~39歳    337,700円
40~44歳    370,300円
45~49歳    429,500円
50~54歳    366,100円
55~59歳    392,300円   
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450091&tstat=000001011429&tclass1=000001224440&tclass2=000001225782&tclass3=000001225794


3.賃上げを行う理由はどうなっているか

       厚生労働省         大阪シティ信用金庫

1位     企業業績           業績見通しを先取り
2位     労働力の確保・定着      業績向上回復を反映
3位     雇用の維持          雇用維持・士気高揚
4位     世間相場             ―
    

※企業業績(業績向上を反映)が各々高いのは、無い袖は振れないということか。それでも労働力の確保定着(雇用維持士気高揚)のために頑張っている姿が見える。

4.高卒初任給相場 急上昇の脅威


今秋も最低賃金の上昇により、高卒採用賃金の相場がアップすることは確実です。大阪の場合、直近3年間の上昇幅は41円、50円、63円と急激に上がってきており、今年も70円程度の上昇は覚悟する必要があると考えています。仮に70円上昇して1,247円となった場合、月間の平均所定労働時間別に見た最低額は以下の通りとなります。

173H  215,731円(週40時間制においてギリギリの年間休日数の場合)

170H  211,990円

165H  205,775円

160H  199,520円(1日8時間で完全週休2日制の場合)

150H  187,050円(1日7.5Hで完全週休2日制の場合)


これをご覧になって分かるように、週40時間ギリギリで設定している会社は最低でも215,731円出さないと、そもそも高卒求人が出来ないのです。週40時間ギリギリとは、年間休日を以下の休日数で設定している場合です。

1日8時間の場合  年間105日
7時間45分の場合 年間96日
7時間30分の場合 年間87日

この215,731円には皆勤手当や通勤手当、残業代(固定残業代を含む)を除外してクリアしなければなりません。高卒ですから各種手当が付くことは余り想定されず、基本給のみで215,731円必要となるのです。これはあくまでも最低賃金をクリアするだけのことであり、採用相場とは異なります。おそらく大阪では高卒初任給で22万円を超える水準が当たり前になるでしょう。


(参考 令和7年 全国平均学卒初任給   高卒202,000円   大卒 249,500円 厚生労働省)
  

5.具体的にどうしたらよいか


自然科学の方程式のような確固たる回答が有る訳ではありません。しかし何らかの指針がないと判断に迷いますので考え方の流れを整理したいと思います。


(1)世間相場を確認する
    ↓

(2)今後の企業業績見込みから、年間(または毎月)いくらの原資アップに耐えられるかを概算で見積もる
    ↓

(3)定期昇給がある会社はまず定期昇給する
    ↓

(4)ベースアップを考える
      


(1)世間相場を確認する


これはすでに記載しましたが、ポイントは昇給額平均13,000円(昇給率では4.0%)、高卒初任給は220,000円、30歳で30万円程度を抑えておきましょう。

(2)今後の企業業績見込みから、年間(または毎月)いくらの原資アップに耐えられるかを概算で見積もる

直近の決算書のPLとBSを基に今期の見込みを立て、年間(または毎月)どのくらいの人件費が上がっても耐えられるかを検討しましょう。人件費は給与額におおよそ20%を上乗せして見積もりましょう(法定福利費分がおおよそ20%弱)。

PLから見て赤字を避けたい場合は黒字を確保できる範囲で、赤字になっても賃上げしたい場合はBSから見て資金余力があるか検証します。これにておおよそどのくらいまで原資が確保できるかを見積もっておきます。
原則13,000円×120%×正社員数で見積もり、これが過大であれば逓減させ、余力があれば加算します。


(3)定期昇給がある会社はまず定期昇給

定期昇給とは「年齢給表」や「勤続給表」といった時間軸で自動的に上がってゆく賃金のことですが、小規模企業ではほとんど持っていないため、これを考慮する必要はありません。
こういった賃金表をもっている場合は、これは約束事になっていますから機械的に上げざるを得ません。ただし(2)により検証した結果、経営に著しい危険を及ぼす可能性がある場合は、社員の同意を得たうえで一時ストップすることもあり得ます。

(4)ベースアップを考える


(4)の1 賃金表がある場合

賃金表(上記の「年齢給」「勤続給」に加えて「職能給表」など)がある場合、これ自体を上方に書き換えることをベースアップ(ベア)といいます。これを検討する必要があるケースは、生計費に見合わなくなってきている場合です。つまりこの表のままでは食える賃金を支払えないといったケースです。小規模企業では賃金表を持っている所は僅少なのでここでではこれくらいに留めます。

(4)の2賃金表がない場合

このケースが大半かと思いますので、簡略化した手順を申します。

①生計費として耐えうるか考える


まず先述したように世間相場を頭に入れた上で、自分の会社の賃金水準が生活できる賃金になっているかを検証します。つまり生計費として物足りなくはないか?ということです。評価で配分する以前に、そもそも食える賃金でないと人材が辞めて行きますし、採用もできません。

私の私見を申せば、普通クラスの社員の場合、採用時初任給から10年かけておおよそ10万円くらいアップするカーブを意識すべきです。23万円で採用したら、10年後には33万円(手取りで27万円くらい)にはなっているということです。
この水準までは雇った以上経営者の責任とし、それ以降は従業員の頑張り次第、といったところでしょうか。


②評価により配分する

人事制度がない場合、社員を次の4ランクに分けてください。

A 辞められると困る大切な社員
B Aではながこの1年間の頑張りに報いてやりたい社員
C ABではない普通の社員
D ダメ社員

今期の総昇給原資は既に決まっていますので、その範囲内での世間の昇給額(率)を参考にそれを少し下回るくらいの感覚で比例配分してゆきます。例えばAランク10,000円、Bランク7,000円、Cランク4,000円、Dランク0円といった感じです。そのように分配して原資に余りが出れば、Aランクの社員の中で個別に加算します。


③社員マトリクスで微調整する

社員マトリクスとは、縦軸にAからDランクを、横軸に給与額をおき、碁盤の目になるマスを作って社員名を入れて行きます。右上のマスになるほど社長の評価が高くかつ給与も高い方、逆に左下には評価も給与も低い社員が入るはずですが、俯瞰してバランスが悪いところがあれば、微調整します。

長々と述べてきましたが、社長の頭を悩ます昇給のあり方について参考にしていただければ幸いです。


(特定社会保険労務士 西村 聡)

101人以上の企業へ、女性活躍推進法が4月1日より改正されます(2026.3月号)

●101人以上の企業へ、女性活躍推進法が4月1日より改正されます(2026.3月号)
~「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」が公表義務に~

 

女性の職業生活における活躍に関する取組の推進等を図るため、情報公表の必須項目の拡大を含めた女性活躍推進法等を改正する法律が令和8年4月1日から施行されることになりました。今回はその概要をご案内いたします。


これまで従業員数301人以上の企業に公表が義務付けられていた「男女間賃金差異」について、 101人以上の企業に公表義務を拡大するとともに、新たに「女性管理職比率」についても101人以上の企業に公表を義務付けています(従業員数100人以下の企業は努力義務になります)。


◆情報公表の必須項目の拡大(今回改正された義務)

◎企業等規模       ◎改正前                     ◎改正後
                                
301人以上       「男女間賃金差異」に加えて、2項目以上を公表 → 「男女間賃金差異」及び「女性管理職比率」に加えて、2項目以上を公表

101人 ~ 300人   1項目以上を公表               →  「男女間賃金差異」及び「女性管理職比率」に加えて、1項目以上を公表


従って改正点を踏まえて101人以上の企業と、301人以上の企業の義務を纏めると、、、、、


【従業員数301人以上の企業】

従業員数が301人以上の企業に、以下の4項目以上の情報公表が義務付けられます。

1.男女間賃金差異(令和4年7月8日から義務付けられています)
2.女性管理職比率(令和8年4月1日から新たに義務付けられます)
3.女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績
  (下の左の表の7項目から1項目以上を選択して公表)
4.職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績
  (下の右の表の7項目から1項目以上を選択して公表)

=======================================================================
◎「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」       ◎「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」
 (以下の7項目から1項目以上を選択)         |      (以下の7項目から1項目以上を選択)


1.採用した労働者に占める女性労働者の割合      |   1.男女の平均継続勤務年数の差異
2.男女別の採用における競争倍率               2.10事業年度前及びその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合
3.労働者に占める女性労働者の割合              3.男女別の育児休業取得率
4.係長級にある者に占める女性労働者の割合      |   4.労働者の一月当たりの平均残業時間
5.役員に占める女性の割合                  5.雇用管理区分ごとの労働者の一月当たりの平均残業時間
6.男女別の職種又は雇用形態の転換実績            6.有給休暇取得率
7.男女別の再雇用又は中途採用の実績         |   7.雇用管理区分ごとの有給休暇取得率
======================================================================= 

【従業員数101~300人の企業】

従業員数が101~300人の企業に、以下の3項目以上の情報公表が義務付けられます。


1.男女間賃金差異(令和8年4月1日から新たに義務付けられています)
2.女性管理職比率(令和8年4月1日から新たに義務付けられています)
3.「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績」、または「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」に関する実績
(前記の2つの表の合計14項目のうち1項目以上を選択して公表)

初回の「男女間賃金差異」及び「女性管理職比率」の情報公表は、改正法の施行後に最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表する必要があります。

例えば 令和8年4月末に事業年度が終了する企業は、おおむね令和8年7月末までに公表
    令和8年12月末に事業年度が終了する企業は、おおむね令和9年3月末までに公表
    令和9年3月末に事業年度が終了する企業は、おおむね令和9年6月末までに公表
    その後もおおむね1年に1回以上、最新の数値を公表する必要があります。

なお、情報公表の方法は、厚生労働省が運営する下記「女性の活躍推進企業データベース」が最も適切ですが、自社のホームページへの掲載でも構いません。

URL : https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/

 

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

うつ病など長期に欠勤する従業員への会社の対応方法~使える休職規定を整備をしよう~(2026.2月号)

●うつ病など長期に欠勤する従業員への会社の対応方法~使える休職規定を整備をしよう~ (2026.2月号)


 うつ病や適用障害などの精神障害や、癌で長期に会社を休む従業員が非常に増えています。一般的な病気や怪我なら回復期も予見可能なことから、そう問題にならないかも知れません。しかし回復の見込みが立たない疾病によって従業員が欠勤する場合、この間の取り扱いは会社としてどのように対応すればいいのでしょうか。今回は会社の労務管理として、その対応方法を考えてみたいと思います。


 結論から申し上げますと、中小企業がまずやるべきことは就業規則の中にきちっと休職に関する規定を整備しておくことです。この休職とは、一定の私事事由により従業員が労務不能となったときに、一定の期間、就労義務を免除して職場復帰を待つという性格のもので、解雇の猶予措置と位置付けられています。これは法によって規定が義務付けられているものではなく、公序良俗に反しない限り会社が自由に制度設計することができるのです。そして就業規則の中で、一番活躍する規定でもあります。
 ある程度の規模の会社の場合はこれに加えて、リワークプログラムなどの職場復帰支援制度を検討することがありますが、ここでは休職制度に特化してご案内します。


 さて、中小企業の就業規則を拝見していると、使える休職規定になっていないことが多く、長期欠勤の従業員がいるとのご相談をいただいても、本人との個別同意が必要になるなど対応に苦慮することがあります。またそもそも就業規則自体を作成していない場合は、言うまでもありません。

 
 私がいままで多くの休職事案を見てきた限りにおいて、おおよそ休職規定を作成するポイントは以下の通りです。

1.休職を発令する事由が適切か?

 うつ病などの精神障害にみられる、欠勤を細切れに繰り返す場合や、欠勤はしていないが明らかに労務提供が不完全という状態でも発令できる根拠があるか。

2.休職期間は適切か?

 大手企業の就業規則や出来合いのものを転記しただけのものは、傷病手当金の受給期限に合わせた1年6ヶ月とか、中小企業では異様に長い休職期間が見られる。皆でカバーしあって待てる期間はどれくらいか。

3.休職の通知ができない場合の意思伝達はどうするのか?

 勝手に休みだして、思うように連絡が取れないことがある。いつからどうやって休職を発令すればいいのか。

4.休職期間の通算制度があるか?

 特に精神障害は一旦回復しても、また繰り返すことが良くある。前後の期間を通算できるか。また途中で疾病名が変わったときにも通算できるか。

5.復職のルールは明確か?

 主治医の診断書だけでなく、主治医への情報提供依頼や同行、会社指定医の再診断など、厳格な職場復帰のルールが明確になっているか。

6.休職満了時の取り扱いは?

 休職が満了したときは解雇ではなく、自然退職扱いになっているか、また復職する場合でも、元の職場へ復帰できない可能性や、労働条件が変更される余地があることも加味しているか。

7.休職期間中の給料や賞与の取り扱いは?

 この期間の給料やボーナスの支給は無給で明確になっているか。

8.休職期間中の預かり金の取り扱いは?

 休んでいても社会保険料や住民税はかかるので、この取り扱いはどうするのか。

9.完全復帰はできないが軽易な業務ならできる場合はどうするか?

 特に精神障害は軽易業務から開始すれば復帰できるとして主治医から職場復帰を促されることがある。そんな場合どうするのか。

10.有給休暇の取り扱いは?

 休職期間中に有給休暇を使いたいとの要望があったとき、認める必要があるのか(法的には必要ない)。

11.明らかに復職不可の場合の解雇条項

休職はあくまでも建前上、復職を前提とした制度です。明らかに復帰の見込みが期待できない場合は休職発令せず解雇できる条項があるか。


これらは規定しておくべきことの一例ですが、休職規定を見たときにこれらのことにきちんと規則が答えていれば、いざ困った事案が発生したときも迷うことなく、会社として粛々と制度に乗せて対応すればいいことになります。個別同意は必要ありません。実際の運用ではこういった根拠規定を持っていることを前提に、「休職発令通知」などの書式を使って運用してゆくことになります。


また付言しておきたいこととして・・・・

これらは休職規定自体がないか、規定の作りこみが甘い場合のことを言っていますが、きちんとした休職規定を持っているにもかかわらず、会社がその運用を失念しており、休職発令せずに長期間欠勤や不安定勤務を放置してからご相談をいただくこともありますので、そういった場合も対応が困難になることがあります。
長期間にわたり不就労の可能性があると分かった段階で、ご相談いただけると幸いです。


(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

2026年1月より下請法が改正されます(2026.1月号)

●2026年1月より下請法が改正されます(2026.1月号)

令和8年(2026年)1月1日から、「下請法」が改正され、「中小受託取引適正化法(通称: 取適法 とりてきほう )」として新たに施行されます。これにより、適用対象となる取引や事業者の範囲が拡大され、中小受託取引の公正化と受託側の中小企業の利益保護が強化されます。
近年、労務費や原材料費などのコストが急激に上昇している中、中小企業を始めとする事業者が賃上げの原資を確保し、適切な価格転嫁を定着させることを目指すために、取引の適正化と価格転嫁の促進を図る法改正が行われました。今回は従来の下請法の概要をおさらいしながら、改正内容について解説いたします。


■主な改正内容

1.用語の変更

法律名が「下請け代金支払遅延等防止法」(略称:下請法)から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:取適法)に変更

下請代金→製造委託等代金

親事業者→委託事業者

下請事業者→中小受託事業者

つまり、従来の親企業、下請という用語は法律上はなくなることとなります。


2.適用対象の拡大

(1)事業者の基準の見直し

これまでの資本金基準に加え、従業員数による基準が新たに追加されます。委託事業者・中小受託事業者が資本金基準又は従業員基準のいずれかの基準を満たす場合、取適法の適用対象となります(取適法とフリーランス法の両方に抵触する場合は、フリーランス法が優先されます)。

【製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託※の場合】

○委託事業者                 ○中小受託事業者(個人を含む)
・資本金3億円超          →    資本金3億円以下
・資本金1千万円万円超3億円以下  →    資本金1千万円以下
・従業員300人超         →    従業員300人以下  ←今回の改正で追加


【情報成果物作成委託・役務提供委託※※の場合】


○委託事業者                 ○中小受託事業者(個人を含む)
・資本金5千万円超         →    資本金5千万円以下
・資本金1千万円万円超5千万円以下 →    資本金1千万円以下
・従業員100人超         →    従業員100人以下  ←今回の改正で追加


役務提供委託※・・・プログラム作成、運送、物品の倉庫保管、情報処理に限る
役務提供委託※※・・・プログラム作成、運送、物品の倉庫保管、情報処理を除く


(2)対象取引の追加

従来の製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加え、新たに「特定運送委託」が追加されました。特定運送委託は、事業者が販売する物品や、製造や修理を請け負った物品などについて、その取引の相手方に対して運送する場合に、運送業務を他の事業者に委託する取引のことをいいます。これまでは独占禁止法の枠組みにより規制されていましたが、無償で荷役・荷待ちをさせられている問題などを受け、取適法の対象に追加されたものです。


3.禁止行為の追加

(1)協議に応じない一方的な代金決定を禁止

中小受託事業者から価格協議(値上げ)の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、協議の申し出を無視したり、協議を理由なく繰り返し先延ばしにする場合は、違反になります。


(2)手形払い等を禁止

「手形の交付」や「電子記録債権や一括決済方式のうち、中小受託事業者が支払期日までに代金相当額の金銭と引き換え困難なもの」が禁止されます。

(3)面的執行の強化(相談窓口の拡大)

委託事業者との取引で、「価格協議に応じてもらえない」「代金が全然支払われない」など、取適法に違反しているのではと思ったときは、公正取引委員会だけでなく、事業所管轄省庁においても相談できるようになります。相談内容が委託事業者に知られることはありません。

(4)減額による遅延利息の支払い

正当な理由なく委託事業者が支払代金を減額した場合は、減額した日又は物品等の受領日から60日を経過した日のいずれか遅い日から減額分を支払う日までの期間の遅延利息を支払う義務が追加されました。

以上が主な改正点になります。これを踏まえて、委託事業者の義務と禁止事項の概要をまとめると以下の通りとなります。


■義務事項

(1)発注内容等を明示する義務

発注に当たって、発注内容(給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法)等を書面又は電子メールなどの電磁的方法により明示すること

(2)書類等を作成・保存する義務

取引が完了した場合、給付内容、代金の額など、取引に関する記録を書類又は電磁的記録として作成し、2年間保存すること

(3)支払期日を定める義務

検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めること

(4)遅延利息を支払う義務

支払遅延や減額等を行った場合、遅延した日数や減じた額に応じ、遅延利息(年率14.6%)を支払うこと


■禁止事項

(1)受領拒否

中小受託事業者に責任がないのに、発注した物品等の受領を拒否すること

(2)支払遅延

支払期日までに代金を支払わないこと(支払手段として手形払等を用いること)

(3)減額

中小受託事業者に責任がないのに、発注時に決定した代金を発注後に減額すること

(4)返品

中小受託事業者に責任がないのに、発注した物品等を受領後に返品すること

(5)買いたたき

発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べ著しく低い代金を不当に定めること

(6)購入・利用強制

正当な理由がないのに、指定する物品や役務を強制して購入、利用させること

(7)報復措置

公正取引委員会、中小企業庁、事業所管省庁に違反行為を知らせたことを理由に、中小受託事業者に対して取引数量の削減・取引停止など不利益な取り扱いをすること

(8)有償支給原材料等の対価の早期決済

有償支給する原材料等で中小委託事業者が物品の製造等を行っている場合に、代金の支払日より早く原材料等の対価を支払わせること

(9)不当な経済上の利益の提供要請

自己のために、中小受託事業者に金銭や役務等を不当に提供させること

(10)不当な給付内容の変更、やり直し

中小受託事業者に責任がないのに、発注の取消しや発注内容の変更を行ったり、無償でやり直しや追加作業をさせること

(11)協議に応じない一方的な代金決定

中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定すること


(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

困った社員がいる場合は、指導記録を残そう その4(2025.10月号)

●困った社員がいる場合は、指導記録を残そう その4(2025.10月号)


前回からの続き


改善プログラムを組んで3か月経過後、改善が見られればそのまま経過観察、見られなければ再度退職勧奨を行います。

ここまでくれば、相当外堀が埋まった状況になっていますので、再度の退職勧奨で応じる可能性が高くなっています。


「3ヶ月が経過したけれども、自分で振り返って見てどうですか? 大して難しいことを要求しているわけでもなかったはずなのに、できなかった(やらなかった)ですよね。こんな調子だと、いずれ解雇せざるを得なくなってしまいかねません。辛い思いをする前に、自分で身の処し方を考えてもらえませんか? 今なら多少の退職金を出すことも可能ですが、解雇となればそうもいかないでしょう。自分でよく考えてみてください」


歩み寄ってくれば、前回で解説した1回目の退職勧奨を受け入れたと同様に、直ちに手続きを進めていくこととなります。これでも応じなければ、再度チャンスを与えるか、リスクを承知の上で解雇するかは経営判断となります。


■準備が必要! 退職勧奨の面談はここに注意して進める


退職勧奨の面談は、背中を押してあげるためのものです。退職に消極的な人に対して何としても退職を説得するためのものではなく、辞めてくれればラッキーくらいの感覚です。 面談の中で明らかに拒否反応を示し、説得が難しいと思えば、それ以上の無理は決してしないほうが無難です。また面談は録音されていると心得た方が良いでしょう。

しつこく迫る、多勢で取り囲む、長時間監禁する、脅迫じみたことを言ったり罵声を浴びせることは、違法となり却って問題を複雑化させますので、注意を要します。

面談はできれば2名で行い、1名が面談の進行を、もう一人が書記を担当します。書記担当の方は、話された内容を逐一メモにとっておきます。万が一、面談進行役がヒートアップしてしまった場合に書記担当の方はなだめる役割も担います。
面談時間は30程度に留めます。それ以上は話が拡散することが多いからです。2回目以降を行う場合も原則30分以内に留め、長くても1時間を超えることがないようにします。

退職勧奨における面談の基本は、これ以上会社にいても浮かばれないことをきちんと説明し、本人の将来のためを慮った姿勢を貫くことです。口論する場ではありません。また面談は必ず就業時間中に行ってください。

目的は話し合いにより合意して退職を決定することにあるので、本人が退職を迷っている間は何度か面談を重ねても構いません。但し、「退職しない」「応じない」との意思が明確に示された場合は、それ以上の勧奨は退職強要と評価される可能性が高いので控えなければいけません。

退職勧奨面談前には、必ず以下のことを検討しておきます。

(1)退職合意書の雛形準備(前回 例示しています)

(2)割増退職金(いわゆる手切れ金)の検討
   必須ではないですが、多少の金銭を積むことによってまとまる可能性があります。

(3)有給休暇の買取り(何日残っていて、1日いくらにするか)
   必須ではないですが、未消化の有給休暇を買い取ることで受け入れやすくなります。

(4)退職日までの就労の扱いとその間の賃金
   退職は受け入れたが、退職日まで相当期間が空く場合、再就職のためにその間の就労免除して給与は満額保障することもあります。

(5)雇用保険の受給資格はあるか(自己都合で1年、退職勧奨の場合は6ヶ月)
   受給資格がなければ、一定の割増退職金を覚悟する必要があります。


その他の付帯事項としては、本人の性格、家族構成、未払い残業代はないか、パワハラはなかったかなどにも留意しておく必要があります。特に普段の労務管理で会社側に落ち度がある場合、反撃されるリスクがあるので注意しましょう。


■常に冷静に! 退職勧奨では話し方にも配慮が必要となる

退職勧奨では、決して言い争いはしないことです。退職合意してもらうのが最大のミッションで、論破することが目的ではありません。仮に「何くそっ!」と思う感情があっても、それは出さず、淡々と冷静に話をすべきです。 ここで話し方の例を紹介しておきます(これは1回目の勧奨でも使用できます)。


◎勧奨例1

「今までの勤務状況をみていると、このままウチの会社で続けるのは難しいのではないか。このままでは○○さんを会社は評価できないし、これ以上重要なポジションで仕事を任せることもできない。給料も上がらないし、賞与査定も低くなる。恐らく同僚や後輩にも抜かれ、プライドを傷つけられることになるだろう。まだまだ今ならやり直しは効くと思う。年齢も○歳なら再就職も可能だと思うが、年を重ねるごとにそのチャンスは確実に減って行く。定年まであと○年もウチでくすぶっているのは君にとってもマイナスだ。

残念ながらウチとは合わず浮かばれなかったが、きっと世の中には○○さんに合う環境で、もっといい上司の元、もっと評価してくれて、もっと輝いて自己実現できるところがあると思う。今のうちにきれいな形で分かれた方がお互いの為になるのではないか。じっくりよく考えてみてはどうか」

◎勧奨例2

「○○さんは○○さんで信念を持ってその考え(やり方)をしていること、それ自体は立派なことかもしれない。でも会社には会社の考え方がある。仮に会社の方針が間違っていて失敗しても、最終的に全責任を負うのは私(経営者)の方である。私はお客様や取引業者に対して、そして他の社員とその家族に対しても、最終的に全責任を負う。極論すれば墓場まで会社を背負って行く。

そういう意味では私は会社を選ぶことができない。逃げることもできない。最後に責任を取るのは私の方だから、方針が合わなくとも、最終的には私の方針に従うべきではないのか。もしそれができないというなら、むしろ会社や経営者を選べるのは○○さんの方だ。この相反する状況を変えられるのは、会社を選べる○○さんの方だよ。私はずっとここにいるわけだから。どうしても従えないなら、○○さんの方から状況を変えるべきじゃないのか」


◎勧奨例3

「会社は○○さんを解雇するつもりはない。○○さんにとっても安易に解雇して欲しいなどと経歴に傷を付けるべきではないと思う。なぜなら会社にとって前の会社をいかなる理由で辞めたのかは重大な関心事であって、あなたの再就職に良い影響は与えない。再就職の道をわざわざ狭めるようなものだ」


◎勧奨例4

「もし円満に退職に応じてもらえるなら、今なら特別に退職金を●円(●か月分)を出すことができる、残っている有給を買い上げてもよい。退職日までの就労免除も検討するし、雇用保険もすぐにもらえるようにしてあげる」


万が一、解雇と受け取られる誤解を与えた場合は、すぐに解雇するつもりはないとして誤解を解いておいてください。


■後腐れなく! 離職日には社長にしてほしいことがある

とにかくモノは言い様です。また、いくら従業員に非があっても、退職した従業員から反撃をくらい、そこで費やす不毛な時間、労力、金銭、精神的負担を考えると、後腐れなく別れたほうが賢明です。

労働関係のトラブル事案は、この手の離職をめぐって起こることが一番多いからです。しかもトラブルになっているときは、得てして法的な問題というよりも、「恨み」による、感情的なしこりによるものが多いのです。これは普段から鬱積してきた不満もありますからなかなか難しいものがありますが、それでも経営者は別れ際に一工夫欲しいものです。

そこで私が常に別れ際に関して一つだけアドバイスしていることを申し上げます。そしてこれにより離職後、トラブルを拡大させることなく終了することが多いのです。これからはいかなる事由であれ、従業員と別れるときはこのようにされてはいかがでしょうか。

(1)握手する

 離職日には必ず社長が立ち会い、別れ際に握手をしてください。それも片手ではいけません。両手です。こちらから両手を差し出して相手の手を握る感じです(選挙の時、議員が両手を差し出して有権者と握手するイメージ)。心理学的には接触効果といわれるもので、印象の向上につながります。

(2)頭を下げる

 握手の際相手の目を見るとともに、頭を下げましょう。「今迄ご苦労さんでした。ありがとう」の一言を添えて。演技でも構いません。

(3)今後の幸せを祈念して送り出す

「ウチの会社では○○さんの力を充分活かせなかったかもしれないが、次の会社では、もっともっといい人に出会って、幸せになってくれ」という感じで、今後の人生の成功を祈る気持ちを伝えましょう。


ただこれだけです。相手に問題がある場合でもそうです。社長にプライドがあるのはわかります。むしろ社長から見て問題のあるその従業員に、文句を言いたい気持ちも分かります。しかしそこはぐっと我慢です。これだけのことでその後の不毛なトラブルを回避できるとしたらそれでいいではありませんか?

2回目の退職勧奨に応じなければ、解雇を選択せざるを得ません。


以下次号

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

 

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