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2024年1月~12月 | 社会保険労務士法人ラポール|なにわ式賃金研究所

インフォメーション(過去のメルマガ)

委託契約がある場合は要注意!!フリーランス新法が11月1日より施行されます(2024.11月号)

11月よりフリーランスとの取引に関する新しい法律が施行されました。通称「フリーランス新法」のことです。この法律の趣旨をごく簡単に言ってしまうと、弱い立場のフリーランスを法で守って行くということです。フリーランスと委託契約を締結している企業には少なからぬ影響がありますので、今回はこの新法の概要を解説します。


1.用語の定義

フリーランス:業務委託の相手方である事業者で従業員※1を使用しない者※2
       ※1 従業員とは1週20時間以上で常勤者のこと
       ※2 個人事業主または法人で一人社長のこと

発注事業者:従業員を使用している事業者のことで個人・法人は問わない

委 託:フリーランスに製造や役務の提供を任せること※1
   ※1 形式上は委託でも実質的に使用従属下にある労働契約と見なされる場合(いわゆる偽装委託)は本法ではなく、労働基準法等の労働法が適用される


2.書面等による取引条件の明示義務


業務委託をした場合、書面等により、直ちに次の取引条件を明示する必要があります。明示は書面の他、SNSなど電磁的方法でも構いません。

  「業務の内容」「報酬の額」「支払期日」「発注事業者・フリーランスの名称」「業務委託をした日」「給付を受領/役務提供を受ける日」「給付を受領/
役務提供を受ける場所」「(検査を行う場合)検査完了日」「(現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払方法に関する必要事項」


3.報酬支払期日の設定・期日内の支払義務


発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り早い日に報酬支払期日を設定し、期日内に報酬を支払うことが必要となります。支払期日を 定めなかったり、60日を超える定めをした場合にも60日ルールが適用されます。
  
支払期日とは日を特定することであり、●●日までとか、●●以内という表現は認められません。


4.発注事業者の7つの禁止行為


フリーランスに対し、1か月以上の業務委託をした場合は、次の7つの行為をしてはならないことになっています。

    (1)受領拒否
       フリーランスに責任がないのに受け取りを拒むこと

    (2)報酬の減額
       フリーランスに責任がないのに後から報酬を減額すること
  
    (3)返 品
       フリーランスに責任がないのに受領後に引き取らせること

    (4)買いたたき
       通常の対価に比して著しく低い報酬を定めること

    (5)購入・利用強制
       発注事業者が指定する物など強制して購入、利用させること

    (6)不当な経済上の利益の提供要請
       タダで役務を提供させるなど不当な要求をすること

    (7)不当な給付内容の変更・やり直し
       フリーランスに責任がないのに費用を払わず、やり直しや変更をさせること


5.募集情報の的確表示義務


広告などにフリーランスの募集に関する情報を掲載する際に、虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはなりません。特に労働契約と混同されるような表現はしてはいけません。


6.育児介護等と業務の両立に対する配慮義務


6か月以上の業務委託について、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、フリーランスの申出に応じて必要な配慮をしなければならないことになりました。

(例)
・「子の急病により予定していた作業時間の確保が難しくなったため、納期を短期間繰り下げたい」との申出に対し、納期を変更すること
・「介護のために特定の曜日についてはオンラインで就業したい」との申出に対し、一部業務をオンラインに切り替えられるよう調整すること など

やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合には、配慮を行うことができない理由について説明することが必要となります。
申し出を行ったことを理由として以下の不利益措置を行うことはできません。

(1)契約の解除を行うこと
(2)報酬を支払わないことまたは減額を行うこと
(3)給付の内容を変更させることまたは給付を受領した後に給付をやり直させること
(4)取引の数量の削減
(5)取引の停止
(6)就業環境を害すること


7.ハラスメント対策に係る体制整備義務


フリーランスに対するハラスメント行為に関し、次の措置を講じることが義務化されます。
  (1)ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発
  (2)相談や苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  (3)ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応 など

ここでいうハラスメントとは、セクハラ、パワハラ、マタマラ(妊娠・出産・育児に関するハラスメント)が想定されています。


8.中途解除等の事前予告・理由開示義務


6か月以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、原則として30日前までに予告しなければならないことになりました。予告の日から解除日までにフリーランスから理由の開示の請求があった場合には理由の開示を行わなければなりません。

この30日前予告は発注事業者に課せられるもので、フリーランスからの解除には適用されません。 発注事業者とフリーランスの間で、「一定の事由がある場合に事前予告なく解除できる」と定めていた場合も、例外事由※1に該当しない限り、直ちに事前予告が不要とはなりませんので留意が必要です。

  ※1 例外事由
   (1)災害などのやむを得ない事由により予告が困難な場合
   (2)フリーランスに再委託している場合で、上流の事業者の契約解除などにより直ちに解除せざるを得ない場合
   (3)業務委託の期間が30日以下など短期間である場合
   (4)フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合
   (5)基本契約がある場合で、フリーランスの事情で相当な期間、個別契約が締結されていない場合


9.違反行為への対応

フリーランスは、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省に対して、発注事業者に本法違反と思われる行為があった場合には、その旨を申し出ることができます。行政機関は、その申出の内容に応じて、報告徴収・立入検査といった調査を行い、発注事業者に対して指導・助言のほか、勧告を行い、勧告に従わない場合には命令・公表をすることができます。命令違反には50万円以下の罰金があります。

発注事業者は、フリーランスが行政機関の窓口に申出をしたことを理由に、契約解除や今後の取引を行わないようにするといった不利益な取扱いをしてはなりません。

またフリーランス・トラブル110番が設置され、弁護士にワンストップで相談できる体制も整備されています。

こうして概観してみると、「6.育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」や「7.ハラスメント対策に係る体制整備義務」、「8.中途解除等の事前予告・理由開示義務」などは、労働者との関係に近いもので、労働者と同様に保護して行こうとする姿勢が見て取れます。

また4.発注事業者の7つの禁止行為も気を付けたい行為類型でです。この紙面では概要に留めていますが、、委託契約を結んでいる企業、または締結しようとする企業は更に詳細な留意事項がありますので、専門家に相談するなどしてフリーランスとトラブルにならないように気を付けて頂きたいです。


(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

自然災害と労務管理について考える (2024.10月号)

●自然災害と労務管理について考える (2024.10月号)

先日の南海トラフ地震臨時情報や台風10号の被害など自然災害に関する報道が後を絶ちません。そのような中で当事務所においても、自然災害(地震、洪水、台風、雷など自然現象によって引き起こされる災害)において想定される労務上の対応の相談を多く頂いております。

今回はそのような自然災害時の、労基法上の取扱いについて考えていければと思います。

○労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合 には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。 ただし、天災事変等の不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、1.その原因が事業の外部より発生した事故であること、2.事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。図でまとめると以下のようになります。(実際には、具体的な状況により法的判断や取扱いが変わる可能有り)


◇被害状況            ◇休業判断  ◇給与  ◇有給取得   ◇特別休暇(有給) ◇休業手当
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A不可抗力の直接被害         ↓      ↓     ↓      ↓         ↓           
(事業所の倒壊、
停電など休業せざるを得ない場合)      
B不可抗力の間接被害※1      会社判断   無給   可能※2     可能        不要
(公共交通機関の運休などで
休業せざるを得ない場合)
                            
 


※1 不可抗力の間接被害
公共交通機関が事前に運休する可能性が高いとして休業するような場合、通勤できるのに休業した場合、全員休業させなくても一部でも就業できるのにその一部も休業させた場合、テレワークなどの代替手段があるにもかかわらず休業した場合は不可抗力とは言えず、休業手当の支払いが必要になる。

※2 無給で休業手当支給なしの年休取得
休業となった日においては所定労働日ではなくなる為、有給休暇の取得対象にはならず、認める義務もないが希望者には認める取扱いは問題でない。但し取得の強制はできない。


○災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等について
「災害等臨時の必要がある場合」とは、自然災害や事故などの突発的な事象が発生し、緊急対応が必要な状況を指します。この場合、通常の規則や手続きを一時的に変更したり、省略したりして、迅速な対応を取ることが求められます。
労働基準法第33 条第1項では例外として以下のように定められております。


1.原則

労働時間・休日の原則及び上限規制

【法定労働時間、法定休日】
労働時間の限度は、原則として、1日8時間、1週40時間です。
また、少なくとも1週間に1日、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。

【時間外・休日労働の上限規制】
法定労働時間を超えて時間外労働させる場合や法定休日に労働させる場合には、あらかじめ労使協定(36協定)を結び(※)、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。
(※)過半数労働組合、または過半数労働組合がない場合は労働者の過半数代表者との書面による協定
36協定を結んだ場合でも、時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45 時間・年360時間です。

臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)には、この上限を超えることができますが、その場合でも

・時間外労働(休日労働は含まず):年720 時間以内
・時間外労働+休日労働:月100時間未満、2~6か月平均80時間以内
・時間外労働が45時間を超える月:年6か月が限度
とする必要があります。


2.例外

(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)

第33条第1項 災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第32条から前条まで若しくは第40条の労働時間を延長し、又は第35条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。

労働基準法第 33 条の効果
災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合、上記の原則の法定労働時間を延長して、又は法定休日に働かせることができます。
なお、この場合、上記の時間外・休日労働の上限規制にかかわらず、時間外・休日労働をさせることも可能となります。

最後に、自然災害の発生リスクの増加により最近ではBCP策定の検討や取引先からの策定の確認などがあったとの声も伺います。
特段対策をされていない会社においては、今からでも自然災害における社内での取決めや緊急連絡先の整備、就業規則における規定内容の確認などをされてはいかがでしょうか?
できることからご一緒に考えていければと思います。

(文責 社会保険労務士 坂口 将)

最低賃金 10月より史上最大幅の引上げ その影響を考える(2024.9月号)

●最低賃金 10月より史上最大幅の引上げ その影響を考える(2024.9月号)

 

今年も10月より最低賃金が変わります。今年は全国平均で50円という史上最大の上げ幅であり、関西圏の改定状況は以下の通りです。

三重 973円→1023円(+50円)
滋賀 967円→1017円(+50円)
京都 1008円→1058円(+50円)
大阪 1064円→1114円(+50円)
兵庫 1001円→1052円(+51円)
奈良 936円→986円(+50円)
和歌山 929円→980円(+51円)

 

1.最低賃金の基礎知識

(1)強行性

最低賃金以下の時給額で雇うことは許されず、当事者がこれを下回る合意があったとしても、強行的に最低賃金まで引き上げられ、これに違反すると50万円以下の罰金に処せられることがあります。例えば大阪で就職先が見つからない高齢者から900円でいいから雇って欲しいと懇願され、900円なら安いとして雇入れた場合、当事者はともに満足しているのですが、法律がお節介に介入し、強制的に1064円(R6.9月現在)に引き上げられることとなるのです。

 

(2)地域別と産業別

最低賃金には地域別最低賃金と産業別最低賃金の2種類があり、冒頭にお示しした数字は地域別最低賃金です。概ね毎年10月前後に改定されます。これに対して産業別最低賃金とは特定の産業について設定されるもので、どちらか高い方が適用されます。産業別は地域別より遅れて改定されることが多く、現在大阪では塗料製造業、鉄鋼業など7つの産業分類において地域別より高い最低賃金が設定されています(この原稿の執筆段階では2024年の産業別は未定)。


(3)適用除外者

最低賃金は、パートアルバイト、日雇、嘱託など雇用形態や呼称に関係なくすべての労働者に適用されます。派遣労働者は派遣先の最低賃金が適用されます。しかし一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため障害のある方など一定の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件に個別に最低賃金の減額の特例が認められています。但しこの許可は簡単に降りるものではありません。


(4)最賃以上となっているかの計算方法

a 時間給の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)

b 日給の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

c 月給の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

d 出来高払制によって定められた賃金の場合
出来高払制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制によって労働した総労働時間数で除した金額≧最低賃金(時間額)

e 上記a?dの組み合わせの場合
例えば基本給が日給制で各手当(職務手当等)が月給制などの場合は、それぞれ上のb、 cの式により時間額に換算し、それを合計したも のと最低賃金額(時間額)と比較します。

上記計算において、以下の賃金は最賃計算から除外します。

ア 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
イ 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
ウ 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外・休日、深夜割増賃金など)
エ 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当


2.令和6年の大幅アップにより考えられる影響


今秋も高卒採用賃金の相場がアップすることは確実です。何故なら大阪府の1,114円で見た場合、月間の平均所定労働時間別に見た最低額は以下の通りとなります。

173H  192,722円(週40時間制においてギリギリの年間休日数の場合)

170H 189,380円

165H 183,810円

160H 178,240円(1日8時間で完全週休2日制の場合)

150H  167,100円(1日7.5Hで完全週休2日制の場合)


これをご覧になって分かるように、週40時間ギリギリで設定している会社はおおよそ192,722円出さないと、そもそも高卒求人が出来ないのです。週40時間ギリギリとは、年間休日を以下の休日数で設定している場合です。

1日8時間の場合 年間105日
7時間45分の場合 年間96日
7時間30分の場合 年間87日

この192,722円には皆勤手当や通勤手当、残業代(固定残業代を含む)を除外してクリアしなければなりません。高卒ですから各種手当が付くことは余り想定されず、基本給のみで192,722円必要となるのです。これはあくまでも最低賃金をクリアするだけのことであり、採用相場とは異なります。おそらく大阪では高卒初任給で20万円を超える水準が出て来るでしょう。

影響はこれに終わりません。大阪近隣県の企業は大阪の企業に人材が流出しないように考える必要があるのです。例えば奈良の場合、計算上は170,575円以上出せば最賃はクリアしますが、その隣の大阪で20万円以上で求人が出ている場合、求職者はどちらを選ぶでしょうか?大阪勤務を選択する可能性が高いですよね。

(参考 令和5年 全国平均 高卒186,800円 大卒 237,300円)


さらに在職者への影響も考えなければなりません。中小企業の場合、入社して2、3年経過しても20万円に達しない総支給額であることがあります。大阪では今秋から高卒者が20万円以上で入社してくるなら、在職者との賃金バランスが非常に悪くなり、必然的に在職者の昇給も考えなければなりません。

さらにさらに、固定残業代を採用している会社は、固定残業代を除いた賃金が最賃をクリアしているか再検証が必要です。例えば月間平均173時間の会社の場合で固定残業時間別に見た場合、以下の金額以上出してないと最賃割れします。

固定残業時間数 10H     20H      30H      40H      45H
       207,000円   221,000円   235,000円   249,000円    256,000円

 

4.政府の方針~働き方改革~ 


政府は安倍政権時代に全国の過重平均が1,000円になることを目指していましたが、これは昨年度達成されています。ところが岸田首相は新たに2030年度までに全国平均を1,500円にすると宣言しました。首相が変わってもこの方針が踏襲されると、今年10月の全国平均が1,054円であり、30年までには年平均75円上げないと到達しないこととなります。ついて行けない零細企業が相当数出ることが予想されます。


最低賃金の引上げ自体は働き方改革関連法とは別のものですが、私には同趣旨に見えてしまいます。コロナの影響でコロナ前にあれほどマスコミに取り上げられた「働き方改革」の言葉もすっかり影を潜めましたが、着々と進行中です。その大本の趣旨は諸外国に比較して生産性の低い日本企業の新陳代謝にあると見ています。賃金の上昇、労働時間の削減…。

つまり大幅に減少してゆく労働人口を生産性の高い企業へシフトさせ、そこを成長のテコにし、逆に生産性向上に着いて来れない企業のふるい落としだと見ているのです。原材料高、採用難、後継者問題・・・。本当に厳しい時代に経営者は孤独に立ち向かって行くしかないのでしょうか?


(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

社会保険適用拡大について考える(2024.8月号)

●社会保険適用拡大について考える(2024.8月号)

2024.10月より社会保険適用拡大の規模要件が従業員数101人以上から51人以上へと変更になります。


1.9月までと10月からの加入要件の違い

◎2024年9月までの加入要件 
・1週の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が常時雇用者の3/4以上


◎2024年10月より 従業員数51人以上の企業の加入要件
・週の所定労働時間が20時間以上 ※残業時間は含みません。
・所定内賃金が月額8.8万円以上  ※基本給、諸手当を指し残業代、通勤手当、賞与、最低賃金に算入しない賃金(家族手当、精皆勤手当は含みません。
・2カ月を超える雇用見込がある
・学生でない          ※休学中、定時制、通信制の方は対象です。


従業員数51人以上とは以下のA+Bの合計で、要するに「現在の厚生年金保険の適用対象者」でカウントします。
Aフルタイムの従業数 + B 週労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員数                               
※従業員数には、パート・アルバイトを含みます。

2.51人を超える(見込み)企業で9月までに行っておく対策

社会保険の加入要件が変更される前の9月までに以下のような対応が必要と考えられます。

① 社会保険の適用拡大に関する内容について認識・把握
② 事前準備(人件費の負担額試算・説明資料の作成等)
③ 経営陣や幹部への説明・報告・承認
④ 現場責任者(各拠点の労務管理者・所属長)への案内・説明
⑤ 対象となる従業員への周知、説明、対象となる従業員の把握(一番大事!!)

今回は⑤の「対象となる従業員への周知、説明、対象となる従業員の把握」について触れていきたいと思います。
対象となる従業員への周知、説明については日本年金機構が発行しておりますリーフレット等(当事務所でも簡単な「社会保険の加入について」の案内を作成しております。HP書式ダウンロードコーナー参照)を活用しながら、社会保険加入のメリットなどを従業員に説明し理解して頂く必要があります

対象となる従業員の把握については要件を満たすかどうかの労働時間の確認をエクセルシートなどで一覧化して確認する方法などが考えられます。
一番の目安は週の所定労働時間が20時間以上のパートさんを抽出することです。おそらくこれらの方は雇用保険には加入しているはずです。


また加入要件を満たす従業員については、今後の働き方について本人と相談の上、様々なケースが想定されます。おおよそ以下のようなケースが想定されます。
① これまで通りの労働時間、勤務形態で働く。→社会保険にも加入してもらう
② ①のままだと社会保険加入で手取り額が減少するので労働時間をもっと増やしたい。
③ 10月以降については、加入要件に満たない労働時間、勤務形態に変更したい。
④ これまでの労働時間がちょうどいいので、これまで通りの労働時間で社会保険の加入要件を満たさない他社(50人以下の会社)への転職


昨今、採用難が続いております。10月にはおそらく最低賃金の改定も行われます。10月間際になって上記のような想定していないことが起きることにより現場が混乱する可能性もあります。今からでも早くはありませんので、対象従業員の把握と10月以降の働き方の希望、意向確認(当事務所においても「社会保険適用拡大に関するアンケート」の案内を作成しております。HP書式ダウンロードコーナー参照)をおこない社会保険の適用拡大に備えて頂ければと思います。

3 まとめ

最後に当社はまだ50人も従業員がいないので大丈夫とお考えの経営者の方もいらっしゃるかもしれませんが、加入規模の人数要件はいずれは撤廃される可能性が高いと思われます。実際に先日開催されました、働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会では「経過措置として設けられた本用件については他の要件に優先して、撤廃の方向で検討を進めるべきである。・・・」と提言されております。

働き方自体が多様化されてきているこの時代、今後のことも踏まえご一緒に考えていければと思います

 

(文責 社会保険労務士 坂口 将)

空前の求人難、、、多様な働き方の提示で乗り切れるか?その2(2024.7月号)

●空前の求人難、、、多様な働き方の提示で乗り切れるか? その2(2024.7月号)


採用状況が逼迫しています。バブル期を上回る売り手市場となり、人手不足による倒産や縮小も現実のものになってきました。2,000年代に入ってから構造的に労働力人口が減っていること、コロナが明けて経済活動が回復していることが大きな要因かと思われますが、仮説として従来の働き方が崩壊してきていることも要因のように思われます。どういうことでしょうか?

皆さまは「タイミー」ってご存知でしょうか?最近はメルカリが「メルカリ ハロ」というのを開始したとの報道もありますが、いわゆる「スキマバイト」のマッチングアプリのことです。

いま飲食業を中心に猛烈に勢いを伸ばしているこれらの仕事マッチングアプリ。これらを利用する若者は昭和的な働き方とは無縁の人達です。自分が働きたいときだけ働き、即金でもらう。そんなことの繰り返しです。いわば日雇いバイトなのです。私のように古い人間から見ると信じがたい働き方ですが、これが受けているのです。

先ほど昭和的な働き方と言いましたが、これはつまり朝9時に出社して18時まではおり、月~金曜まで毎日働くモデルのことです。これが当たり前と思ってきましたが、「タイミー」で仕事を探す彼らは対極にいます。

そうすると現在の人手不足は労働力人口の絶対的な減少要因だけではなく、昭和的な従来の働き方へ応募する若者が相対的に減少していることも要因ではないかと考えられるのです。

ほとんどの企業が日雇いバイトで対応するのは無理があり、やはり昭和的な働き方を中心に考えざるを得ないとしても、単一の正社員モデルだけでなく、日雇いマッチングまでとは行かなくとも多様な働き方を提供して行かないと、乗り遅れるのではないかと考えられるのです。多様な雇用形態が登場してきています。従来の典型的な勤務シフトである毎日フルタイム勤務が静かに崩壊し出しているのです。


これからは好むと好まざるに拘わらず、求職者の多様な就労ニーズ、言いかえると「わがまま」に応えて行けるかどうかが人材確保の成否を分けることとなる可能性が高いのです。今まで企業は顧客のニーズ(わがまま)に対しては対応をしてきましたが、今後は求職者を顧客と見立てて、そのニーズに応えて行ける企業が、採用活動で生き残る企業になって行くのかもしれません。

企業の論理としては、毎日決まった時間に決まった人が働いてくれる方が、何かと都合が良いのは明らかです。しかし現代の多様化した求人ニーズに応えていかなければ、競り負けることとなってしまいかねません。では多様な働き方とはどんなものがあるのでしょうか?


取り上げる多様なな働き方のバリエーションは、
1.週休3日制
2.短時間正社員
3.兼業・副業
4.テレワーク
5.限定正社員(配置転換のない勤務地限定、職種変更のない職務限定、時間外労働のない時間限定)
6.時差出勤(全員一律出社に拘らず、段階的に出勤時間をずらす)
7.勤務間インターバル(終業後から一定時間を空けること。例えば夜遅くまで残業した場合に、始業時刻をずらす)
8.フレックスタイム(自分で自由に勤務時間を決められる)
9.裁量労働制(自由出勤制)
です。


このうち1から4は前回解説しておりますので、今回は5以降について解説します。


5.限定正社員

昭和的な働き方では一度就社すると、辞令1枚であらゆる仕事、あらゆる場所で勤務することが命じられました。従業員はジョブローテーションや転勤を業務命令で受け入れてきたわけですが、この異動を制限し、本人の望まない仕事や場所では就労させない者を、限定正社員といいます。

これには職種変更のない職務限定、配置転換のない勤務地限定、残業や休日出勤がない時間限定があります。ちなみに本年4月より雇用契約を締結する場面では、就業場所と職種の明示に関し、採用時の配属先だけでなく、将来に渉る変更の範囲を記載する義務が生じています。これにつきましては3月号で述べていますが、基本的に変更の範囲の書き方は「会社の定める業務」「会社の定める場所」と記載いただくのが望ましいとの見解を述べました。
しかし限定正社員の場合はこれと異なり、このような記載となります。

【雇用契約書 記載例】
職種:(採用直後)一般事務  (変更の範囲)なし  または一般事務に限定する
就業場所:(採用直後)●●営業所勤務 (変更の範囲)なし または●●営業所勤務に限定する

これにより事務しかしたくない方には事務でキャリアを積んでもらうことで安心してもらいます。また地元採用など就労場所を異動したくないと考えている方に安心してもらうのです。ただこうした契約をした場合は仮にその後異動してもらいたい事由が生じたとしても、会社の業務命令で異動させることはできず、必ず本人の個別同意が必要になります。そういった意味で会社が従来保持していた異動の裁量権を手放すこととなりますので、以下のような条項を雇用契約時に合意しておき、就業規則の退職事由の条項にも加えておくことを推奨します。

【雇用契約書 記載例】
退職:●●業務または●●営業所が無くなった場合は、その最終日から1週間経過後をもって自然退職とする。

これにより少なくとも当該業務や場所がなくなったときに、本人に他の職務や場所を一応打診し、合意が得られなければそれ以上の配慮をする必要はなく、自動退職とするものです。また募集のときの例示は以下の通りです。

【求人広告 記載例】
勤務場所の異動はありません。ご自宅から近い場所を離れることなく安心して勤務できます!!


6.時差出勤

これはコロナ禍において中小企業でも試みられたところが多いのではないかと思います。実際やってみると、そんなに大きな混乱はなかったのではないでしょうか?
全員一律出社に拘らず、グループごとに出勤時間をずらすとか、個人的事情に配慮して出勤時刻をずらすことで様々なニーズに応じるものです。例えば朝は旦那が子供を保育所に預けに行き、帰りは妻が迎えに行くという家庭事情の場合、旦那は本来9時から18時のところ、朝の始業時刻を1時間ずらして10時から19時まで勤務するというような感じです。


【求人広告 記載例】
時間:9時から18時
   ※育児等、ご家庭の事情に配慮した時差出勤制度あります(例 10時から19時など。ご相談ください)


7.勤務間インターバル


勤務間インターバルとは、終業後から始業時刻までに間を一定時間空けるもので、例えば夜遅くまで残業した場合に、始業時刻をずらす制度のことです。実は2019年から開始されている働き方改革関連法において、努力義務となっているものですが、これをアピールして行きます。
どうしても夜遅くなる残業が避けられない会社の場合、労働から解放される休息時間を確実に確保できることを謳って有効に活用できる可能性があります。

【求人広告 記載例】
勤務間インターバル制度あり、仮に夜遅い残業があっても翌日の始業時刻をずらして最低11時間の休息を保証します!!
(例) 23時まで残業した場合の翌日は10時出社で可!

8.フレックスタイム


これは始業終業の時刻を本人の自由に任せるもので、1日あたりで労働時間を管理せず、1ヶ月とか3か月の期間ごとに労働時間を管理すればよいものです。従って1日8時間を超過していても月の労働時間が法定内であれば、割増賃金を支払う必要はありません。
またコアタイムと言って、必ず出社して欲しい時間帯を決めておくこともできます(例えば11時から14時をコアタイムとするなど)。あくまでも出退社の時刻を自由に決められるということで、勤務日まで自由になるわけではありません。

採用できる職務は限られてくるかもしれませんが、大人の働き方(自己完結できる方)には採用を検討できます。これを導入する場合は、必ず就業規則にフレックスタイムの規定を入れ、労使協定を締結しておく必要があります。


【求人広告 記載例】
時間:1か月フレックスタイム制(フレキシブルタイム:7時から11時、14時から22時。コアタイム:11時から14時)
※※育児、介護、習い事など、ご自身の事情で自由に勤務できます!


9.裁量労働制(自由出勤制)

最もフレキシブルな制度です。ここでの裁量労働制は様々な誓約事項のある労働基準法上の裁量労働制を言っているのではなく、労働時間は通常通り計測する必要がありますが、本人の自由な意思で出勤時間を決めるjことができ、場合によっては労働日も裁量に任せるものです。
企画開発関係の職務や、定年再雇用後の勤務形態として検討できるのではないかと思います。


【求人広告 記載例】
究極の自由出勤制!!貴方のご都合のよい日時で働いてください!!


【雇用契約書 記載例】
労働時間: 9時00分~18時00分(この間で自由出勤制) 
     ※上記所定労働時間の範囲内において乙は原則的に自由に勤務時間を決定することができる。勤務記録は乙の責任において勤怠簿に記録すること。但し甲が特別に時間を指定したときはそれに従う。

 

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

空前の求人難、、、多様な働き方の提示で乗り切れるか?(2024.6月号)

●空前の求人難、、、多様な働き方の提示で乗り切れるか?(2024.6月号)


採用状況が逼迫しています。バブル期を上回る売り手市場となり、人手不足による倒産や縮小も現実のものになってきました。2,000年代に入ってから構造的に労働力人口が減っていること、コロナが明けて経済活動が回復していることが大きな要因かと思われますが、仮説として従来の働き方が崩壊してきていることも要因のように思われます。どういうことでしょうか?

皆さまは「タイミー」ってご存知でしょうか?最近はメルカリが「メルカリ ハロ」というのを開始したとの報道もありますが、いわゆる「スキマバイト」のマッチングアプリのことです。

いま飲食業を中心に猛烈に勢いを伸ばしているこれらの仕事マッチングアプリ。これらを利用する若者は昭和的な働き方とは無縁の人達です。自分が働きたいときだけ働き、即金でもらう。そんなことの繰り返しです。いわば日雇いバイトなのです。私のように古い人間から見ると信じがたい働き方ですが、これが受けているのです。

先ほど昭和的な働き方と言いましたが、これはつまり朝9時に出社して18時まではおり、月~金曜まで毎日働くモデルのことです。これが当たり前と思ってきましたが、「タイミー」で仕事を探す彼らは対極にいます。

そうすると現在の人手不足は労働力人口の絶対的な減少要因だけではなく、昭和的な従来の働き方へ応募する若者が相対的に減少していることも要因ではないかと考えられるのです。

ほとんどの企業が日雇いバイトで対応するのは無理があり、やはり昭和的な働き方を中心に考えざるを得ないとしても、単一の正社員モデルだけでなく、日雇いマッチングまでとは行かなくとも多様な働き方を提供して行かないと、乗り遅れるのではないかと考えられるのです。多様な雇用形態が登場してきています。従来の典型的な勤務シフトである毎日フルタイム勤務が静かに崩壊し出しているのです。


これからは好むと好まざるに拘わらず、求職者の多様な就労ニーズ、言いかえると「わがまま」に応えて行けるかどうかが人材確保の成否を分けることとなる可能性が高いのです。今まで企業は顧客のニーズ(わがまま)に対しては対応をしてきましたが、今後は求職者を顧客と見立てて、そのニーズに応えて行ける企業が、採用活動で生き残る企業になって行くのかもしれません。

企業の論理としては、毎日決まった時間に決まった人が働いてくれる方が、何かと都合が良いのは明らかです。しかし現代の多様化した求人ニーズに応えていかなければ、競り負けることとなってしまいかねません。では多様な働き方とはどんなものがあるのでしょうか?


取り上げる多様なな働き方のバリエーションは、
1.週休3日制
2.短時間正社員
3.兼業・副業
4.テレワーク
5.限定正社員(配置転換のない勤務地限定、職種変更のない職務限定、時間外労働のない時間限定)
6.時差出勤(全員一律出社に拘らず、段階的に出勤時間をずらす)
7.勤務インターバル(終業後から一定時間を空けること。例えば夜遅くまで残業した場合に、始業時刻をずらす)
8.フレックスタイム(自分で自由に勤務時間を決められる)
9.裁量労働制(自由出勤制)
です。


1.週休3日制

特に日曜日や祝日など、通常多くの人が休日である日に労働者を確保したいサービス関係業種は検討に値する方法です。その仕組みは簡単で、法で認められた変形労働時間制(1ヵ月または1年単位)を活用して、以下のような設計にします。

(1)1日の所定労働時間を10時間とする。
(2)1週に3日の休日を与える。
(3)出勤日に土日祝の日を入れる(マストではない)。
(4)就業規則を変更する。

これだけです。つまり人が集まり難い休日に出てもらう代わりに、週3日の休日を約束するのです。しかも1日10時間までは残業代もかかりません。おそらく家族と休日を合わす必要の薄い独身層や、休日の確保を重視する求職者には訴求力があるでしょう。こういった人の立場で考えれば、1回出勤すれば、10時間も8時間もさして変わりはなく、それなら休日が多い方を選択するはずです。しかも総労働時間は通常フルタイム勤務者と同じですから、給与体系を変更する必要もありません。


【求人広告記載例】
◎完全週休3日制社員募集!!1日10時間ですが、毎週必ず3日休めます(年間休日156日)!!
~給与水準は通常の正社員と同じです~

2.短時間正社員

正社員は毎日8時間で皆と同じ、という先入観に囚われる必要はありません。役割や人材活用の仕組みが同じなら、正社員であっても1日6時間勤務など、変化を付けても構わないのです。例えば小さな子どもを持つ労働者を例に考えて見ましょう。保育所への送り迎え、子どもの晩御飯の支度等々、通常の始業終業時刻で拘束されることは躊躇するでしょう。

そもそも現在の育児介護休業法では、1日6時間とする育児のための短時間勤務制度があり、既に全ての企業に義務付けられているのです。従って、フルタイム勤務には制約があるが、正社員として働きたいと考える層にとっては、この短時間正社員制度は魅力的に映るでしょう。但し、給与体系は通常の正社員と同じとはならず、削減される時間に比例して逓減させることとなります。


【求人広告規制例】
◎1日6時間  短時間正社員制度 あります!!
※小さなお子さんをお持ちの方、家庭や趣味と両立をしたい方に最適!!
※給与水準以外は、全てフルタイム正社員と同待遇です。

3.兼業・副業

従来は多くの企業で、兼業・副業は認めて来ませんでした。しかし政府では、この兼業・副業を企業に普及させる方向で考えており、今までは原則禁止にしていた厚生労働省のモデル就業規則でも、原則容認で改訂がなされています。

昨今、残業削減の影響で、実質賃金が目減りする人たちが発生しています。残業削減の中で、もっと稼ぎたいと思う方にとって、ちょこっと副業で稼げるのは魅力的でしょう。兼業副業には、労働時間の通算方法や、災害時の補償のあり方など複雑な部分もありますが、週2,3日とか、夕方以降だけでもシフトに入ってもらえれば助かるような企業には、検討の余地が有るかと思います。

【求人広告規制例】
兼業・副業をお考えの方、大歓迎!! 短時間、週2から3日相談
※本業の他に、ちょこっと収入を増やしませんか?
※配偶者控除の関係、生活保護の関係、兼業先との関係でたくさんは働けないけれど、少しだけ働きたい方には最適!!

4.テレワーク

情報通信機器が発達し、企画や製作、事務関係の仕事では、会社を離れて仕事ができる環境が整いました。コロナ下で導入した企業も多いと思いますが、ZOOMやチャットワークなどにより、遠隔地でもビデオ通話ができ、電話とFAXだけの時代では不可能だったことが出来る時代となったのです。テレワークとひと言で言っても、その形態は在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務とありますが、その中でも在宅勤務は有力な検討候補の一つです。
育児や介護と仕事を両立させたいと考える人、通勤が困難な地域に居住する人などには、魅力的な働き方として映るでしょう。

【求人広告規制例】
◎事務員募集、テレワーク(在宅勤務)もOK!
~自宅に居ながら、好きな時間にお仕事可能。通信機器は貸与します~

(以下次号)

 

 

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

6月からの給与(賞与)計算は定額減税が導入されます(2024.5月号)

●6月からの給与(賞与)計算は定額減税が導入されます(2024.5月号)

 

本年6月以降に計算する給与又は賞与から定額減税が導入され、給与計算担当者は事務負担が増えますので、事前準備が必要となります。
今回はその概要と、事前準備に何が必要なのかということと、この問題に対する私見(愚痴)をお伝えします。

なお、定額減税は住民税においても行われますが、これは各自治体が通知してくる決定通知書により控除すれば良いだけで、所得税のように事務担当者が負担することはないため、今回は割愛します。
また所得税における今回の定額減税事務は最終的に年末調整において調整されますが、今回は年末調整は割愛し、月々の給与計算について解説します。

1.定額減税で給与計算する対象者

令和6年の合計所得金額が1,805万円(給与収入2,000万円)以下の国内居住者で扶養控除等申告書を提出しており(甲欄適用者)、かつ6月1日現在勤務している者
※但し合計所得金額が1,805万円(給与収入2,000万円)は12月に確定するものであるから、6月時点ではこれを超える見込みであっても一旦定額減税計算をする
※対象外となるのは乙欄及び丙欄適用者、6月2日以降入社した者、5月31日以前に退職した者
※甲欄適用者である従業員が定額減税の適用を受けるかを自分で選択することはできない

2.定額減税額

(1)本人 3万円  (2)同一生計配偶者及び扶養親族1名あたり3万円
 ※共に、本人の所得税額を限度とする
 ※例えば扶養親族のいない方であれば減税額は3万円、扶養親族が2名いれば減税額は本人分と併せて合計9万円

3.同一生計配偶者及び扶養親族とは

(1)同一生計配偶:令和6年12月31日時点で、本人と生計を一にする年間合計所得金額が48万円(給与収入103万円)以下の者
(2)扶養親族:令和6年12月31日時点で、本人と生計を一にする年間合計所得金額が48万円(給与収入103万円)以下の者で16歳未満の子を含む


ここで注意が必要です。これらの扶養家族のデータは、基本的に令和5年の年末調整時に提出してもらっている令和6年分扶養控除等申告書によって確認することとなるのですが、年末調整の対象となる配偶者または子と必ずしも一致しないからです。

扶養控除等申告書に記載された配偶者は源泉控除対象配偶者であり、今回の定額減税の対象となる同一生計配偶者とは異なります。
同一生計配偶:本人と生計を一にする年間合計所得金額が48万円(給与収入103万円)以下の者
源泉控除対象配偶者:本人と生計を一にする年間合計所得金額が95万円(給与収入150万円)以下の者


つまり配偶者の給与が103万円超から150万円の間であれば、年末調整時の扶養親族としては控除の対象にできるのですが、1人3万円の定額減税の対象者にはならないということです。ですから収入のある配偶者は103万円以下かどうかを確認する必要があります。

逆に年末調整時には控除の対象に出来なかった年少扶養親族(16歳未満の子)は、今回の1名3万円のR定額減税の対象者になります。この辺りがややこしいところで、きちんと扶養親族の仕分けが出来ていないと、誤った計算をしてしまう可能性がありますから要注意です。

例えばこのようなことになるのです。

(Aさん) 
本人年収500万円
Aの配偶者 年収150万円
子1名(小学生)        合計2名分で6万円の定額減税

(Bさん)
本人年収500万円
Bの配偶者 年収103万円
子1名(小学生)        合計3名分で9万円の定額減税 


また6月1日以降に扶養家族の増減があったとしても、それは年末調整または確定申告によって調整することになりますので、月次減税額を再計算する必要はありません。

逆に昨年の年末調整時に提出された令和6年分扶養控除等申告書には記載がされていなかった扶養親族がある場合はこの度新たに作られた「源泉徴収に係る減税のための申告書」に記載してもらうことにより把握することとなりますが、仮にこれが抜けていたとしても、最終的に年末調整で調整されるため、心配は要りません。

蛇足かも知れませんが、6月までに扶養親族の増加があってそれを見過ごしていたいたとしても、年末調整で還付額として反映されるため影響はそれほどないと思っていますが、逆に6月までに扶養親族の減少があってそれを知らずに扶養しているとして月次減税事務を実施した場合、年末調整時に追徴金となる可能性がありできればそれは避けたいはずなので、扶養親族が年初より減っている場合も要注意です。

4.実施方法   

6月以降に支払いのある給与または賞与から月次減税事務開始。6月で減税仕切れなかった場合は翌月以降の計算に順次繰り越して減税(これを月次減税事務という)

(例1)
減税枠 3万円(つまり扶養親族なし)を持っているCさん
毎月の所得税が35,000円
この場合は6月の給与計算で3万円を全額控除できるため次月以降の持越しはなしで、6月で終了

(例2)
減税枠 6万円(つまり扶養親族1名)を持っているDさん
毎月の所得税が10,000円
この場合は6月で引ききれないため、7月、8月と順次1万円ずつ繰越し(つまり6,7,8月は所得税ゼロ)、9月から通常通り10,000円を控除


ただこの月次減税事務は給与計算ソフトを使用している会社であれば、おそらくベンダー企業がシステム改良し、この度の定額減税に対応するものと考えられますが、ソフトを使用している会社は自分が使っているソフトが対応してくれるのか確認しておく必要があります。
ソフトを使用していない会社の場合は、国税庁が公開している「各人控除事績簿」によって管理して行くほかありませんが、結構面倒くさい管理になります。

蛇足ながら、、、、、

最初にこの制度を見た時は、「なんじゃ、こりゃ?」と思いました。なぜこんな複雑で面倒なことを年度の途中から始めるのか?結局最終的には年末調整で調整されるのであれば、年調時に一気にやってしまえば良いし、年内に控除しきれなかった定額減税額は来年自治体から給付されると聞いています。なら、最初から1名3万円のクーポン券を渡せば良いことです。
今年だけのためにややこしい制度を作り、分厚いリーフレットを印刷して全事業所に郵送しているのも無駄です。

増税眼鏡と揶揄され、低支持率にあえぐ岸田首相としては、解散前に何としても減税の恩恵を国民に感じてもらい、今後の政権基盤や解散総選挙を有利に導こうとする意図が見えます。そのために官僚に無理やり制度設計させた突貫工事といった印象です。給与事務担当者やベンダー企業、自治体職員はむしろいい迷惑でしょう。はなはだ愚痴っぽくなりましたが、、、、

 

 

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

障害者雇用を考える(2024年4号)

●障害者雇用を考える(2024年4号)

 

昨今、女性が男性と差がなく活躍できる環境づくりや、男性の育児休業取得率を上げることなど、企業求められている社会的責任は拡大していっています。その一つである、障がい者雇用については企業規模に応じて一定の人数の障がい者を雇用する義務が企業に課され、果たしていなければ納付金というペナルティが課されています。そのように重い責任が課されているものにも関わらず、障がい者雇用は進んでいるとは言い難いのが現状のように思いますので、私自身、精神障がい者の方の福祉の仕事で学んだ経験も踏まえて企業が障がい者雇用しやすくするための福祉施設側の取り組みや制度などをお伝えしていきたいと思います。

 

まず、現在の障がい者雇用制度ですが、企業の従業員数に2.3%という法定雇用率を掛けた人数(1未満の端数切捨て)を雇用する義務が課されており、この基準では43.5人(週20時間以上30時間未満のパートの方などは0.5人として計算)以上雇い入れている企業は1人は障がい者の方を雇い入れないといけないことになります。この2.3%の法定雇用率ですが、令和6年4月には2.5%、令和8年7月には2.7%となることが決まっています。また、業種によっては簡単に障がい者雇用を行えない企業もあるため、雇用義務人数を減らすため業種により除外率というものが定められているのですが、この除外率も令和7年4月以後引き下げが決まっており、より多く障がい者の方を雇用することが企業に求められます。そして、この法定雇用率を満たしていない企業については、不足している人数×5万円を国に納めることになるのですが、これは1カ月ごとの計算となるため1年間ずっと1人不足であれば5万円×12ヶ月=60万円の負担となります。ただ、現在この納付金を納めるのは従業員の人数が100人以上となっているため100人未満の企業については負担することはありませんが、義務は果たしていないこととなるため行政の指導が入る可能性が有り、また今後の100人未満の企業も納付金を納めるようになる可能性も否定できません。

 

そのように障がい者雇用の法定雇用率を満たしていない場合、企業には負担が生じる訳ですが、それでも法定雇用率を満たしていない企業は多い印象を受けます。その理由として、身体障がいであれば会社内の設備のバリアフリー化に係る費用の問題もあるでしょうし、知的障がいや精神障がいであれば何が起こるか分からないという不安もあると思います。また、限られた人数で回さないといけない中小企業では、一人がこなすことを求められる業務内容も多く、障がい者雇用の為だけに一つのポジションを用意する余裕がないことも障がい者雇用が進まない要因のように思います。

 そのように障がい者雇用を進めることが難しい企業側の事情もあると思いますが、実際に障がい者雇用をしたことが無く、イメージが先行して踏み切れないのであれば、障がい者福祉施設などを通して一度雇ってみると良いかもしれません。現在、障がい者の方の就労をサポートする為の施設として就労移行支援事業所等の施設があり、そこで毎日遅刻や早退せずに通えることをベースに、データ入力などのPCを使った作業や梱包などの身体を使う作業に一日取り組むことが出来るよう訓練を行っています。また、企業側にお願いして雇用ではなく実習として実際に企業で働き、適性を見てもらうこともしています。そのような訓練を経て福祉施設側も就職につなげようとしているため、実習でも有期雇用でも実際に障がい者の方を受け入れてみると、思っていたよりも雇用は大変ではないと感じてもらえるかと思います。もし、障がい者雇用をやってみようと思われる場合、やみくもにハローワークなどで募集を掛けるよりも、そういった福祉施設と協力して障がい者雇用を進めることが、企業にとっても障がい者の方にとっても良い職場環境につながると思います。

 

 最後に、障がい者雇用については法定雇用率が未達であれば納付金というペナルティがありますが、法定雇用率を超えて雇っている場合は超えている人数に応じて障がい者雇用調整金という報奨金のようなものもあります。また、初めて障がい者雇用を行う場合はいきなり正社員というのはお互いにとってリスクも大きいと思いますので、まずはトライアル雇用制度を利用して有期で雇用してみることで、その有期雇用の間はトライアル雇用助成金というものを利用できますし、その有期雇用での様子を見て正規雇用でもということになれば特定求職者雇用開発助成金という助成金も利用可能だったりするなど企業側にとっても一定のメリットはありますので、まだ取り組んだことが無ければ一度取り組んでみても良いかもしれません。

 

(文責 社会保険労務士 田中 数基)

2024年4月から雇用契約書の変更が必要となります(2024年3月号)

●2024年4月から雇用契約書の変更が必要となります(2024年3月号)

今年の4月以降に新たに締結する労働契約から、労働条件明示のルールが変更され、雇用契約書に新たに追加して記載する項目が増えます。概要は以下の通りです。

1.「就業場所」と「業務」の変更の範囲を追記すること(すべての労働者が対象)
2.更新上限の有無と内容を明示(有期契約労働者が対象)
3.無期転換申込機会と無期転換後の労働条件の明示(5年を超える有期契約労働者が対象)

以下順に見て行きます。

 

1.「就業場所」と「業務」の変更に範囲を追記すること(すべての労働者が対象)

 

(1)追記の対象となる労働者

正社員だけでなく、パート、有期契約者、派遣労働者、定年再雇用者などすべての雇用形態が対象となります。

(2)追記が必要になる時期

2024年4月1日以降に契約を締結したり、更新たりする時期より必要です。契約日が4月1日でも契約締結が3月中の場合は法的には追記の必要はありませんが、先んじて新ルールで行う方が望ましいと思います。

(3)追記が必要な明示事項

「就業場所」と「業務」の変更の範囲を労働契約締結時と、有期契約の更新時に書面で明示する必要があります。これは予め、就業場所や業務内容に異動がある可能性の有無を明示することにより、配転を巡って後々トラブルが起こらないようにする主旨であると考えられます。
よく「私は事務で雇われたので倉庫作業は関係ありません」とか、「私は自宅に近い営業所採用なので、本社には行きません」などというトラブルを避けるためです。

企業にとって都合の良い追記事例を以下に示します。

就業場所:(雇入れ直後)大阪営業所 (変更の範囲)会社の定める場所
職  種:(雇入れ直後)ルート営業 (変更の範囲)会社の定める業務


変更の範囲につき、もっと具体的に、例えば平野支店、八尾工場とか、検品出荷作業、営業事務などと記載する方が予測可能性が高いのですが、このように限定された記載であると、これら以外の場所や業務に就かせる場合にいちいち本人の同意が必要となるため、包括的な表現にしておく方が企業にとっては都合が良いかと思います。

但し職務または就業場所を限定する契約を結ぶ場合は、(変更の範囲)は「変更なし」と記載して頂くことになります。この場合も本人の同意がなければ異動を行うことはできません。


2.更新上限の有無と内容を明示(有期契約労働者が対象)


有期労働契約において更新の回数や年数に上限を設ける場合は必ず明示しなければならなくなりました。この明示できる年数の上限は5年以内となります。上限を定めない場合は追記の必要はありません。
この明示は最初の契約時のみでなく、有期契約の更新のタイミングごとに行う必要があります。

記載例は以下の通りです。

契約期間:令和6年4月1日から令和7年3月31日
     (1)更新する場合は以下の基準を満たす場合に更新する
       ※基準は割愛
     (2)例1 契約を更新する場合でも通算4年を上限とする
        例2 契約の更新回数は3回までを上限とする

また。今まで更新上限がなかったところ、これを新設する場合や、更新年数や回数を短縮しようとする場合は、必ずその事由を事前に説明することが必要となります。あくまでも説明であり、納得までは必要ありません。


3.無期転換申込機会と無期転換後の労働条件の明示(5年を超える有期契約労働者が対象)


(1)無期転換とは

同一の会社との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期契約労働者からの申し込みにより無期労働契約に転換されるルールです。パートが正社員に変わるという意味ではなく、あくまでも契約期間が有期から無期に変更されるというこです。申し込みがあった場合、会社はこれを拒否することはできません。


(2)明示の対象となる労働者

同一の会社で契約期間が5年を超える有期契約労働者が対象となります。仮に無期転換を行使しないと明言していても関係ありません。


(3)無期転換機会の明示

無期転換権が発生する契約更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨を追記する必要があります。これまでは有期契約労働者が自ら申し込んで来ない限り、会社の方から告知などの必要はなく、言わば受け身で良かったのですが、今後は会社の方からプッシュして行く必要が生じるということです。


(4)無期転換後の労働条件の明示

無期転換権が発生する契約更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件を明示する必要があります。要するに契約期間の他に変更される条件があるのかどうかを明示する必要があるということです。


(5)記載例

(3)及び(4)につき、会社にとって良いと考えられる記載例は以下の通りです。

※本契約期間中に会社に対し、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の申し込みをすることにより、本契約期間の末日の翌日(●月●日)から無期労働契約に転換することができる。
※無期に転換した場合の労働条件は従前と同一とする。但し職務及び就業場所に限定がある場合は、これが解除され、異動を命ずることがある。また定年は60歳の誕生日とし、60歳以降で無期転換した場合は、定年を65歳の誕生日とする。適用される就業規則は●●規程とする。

最後に、そもそも中小企業においてはきちんと雇用契約書を交わさず、口頭で済ませているケースが散見されますが、今回の法改正を契機として、トラブルの無いようにきちんと書面を交わすようにしましょう。


(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

2024年は経営計画に、「労務管理向上策」を盛り込もう その2

●2024年は経営計画に、「労務管理向上策]を盛り込もう その2
~経営を向上させるために労務管理を改善するための8つのポイント~ (2024.2月号)

さて、1月は「経営計画に、労務管理向上策を盛り込もう」と題して、その為に留意すべき8つのポイントがあるとお話しました。

企業業績向上のための、労務管理向上策8つのポイント
1.社長が明確な経営のビジョンを語り、従業員が共感すること(経営理念・方針)
2.人事の要諦、雇ってはいけないヒトを雇わないこと(募集・面接・採用)
3.職場のルールを明確にし、文書化すること(就業規則・雇用契約書)
4.労働法や労働社会保険の加入等法令を守ること(法令遵守)
5.賃金、人事評価などの人事制度を分かりやすく示すこと(賃金・人事考課制度)
6.コミュニケーションを重視し、モチベーションアップとトラブル防止を図ること(心の報酬)
7.従業員は自然に育たないので、強制と継続の仕組みで教育指導を行うこと(管理職研修・社員教育)

このうち、1から4は前回申しましたので、今回はその続きです。


5.賃金、人事評価などの人事制度を分かりやすく示すこと(賃金・人事考課制度)


中小企業の労務コンサルタントをしております経験上、人事制度を整備しなければならない理由は2つあると思っています。一つは、子供への円滑な事業承継のため、もう一つは有為な従業員を失わないためです。どういうことでしょうか?

まず子供への円滑な事業承継についてですが、大手企業とは違い、中小企業の事業承継は、ほぼ社長の息子さんが継がれます。他人が承継するケースはほとんどありません。これが現実です。そしてこれが、最も全うな事業承継の形であるとも考えています。何故なら、経営者の家系に育った子供は、有形無形に経営の薫陶を受けることができるからで、いわゆる親父の背中を見て育った財産は、反面教師の部分も含めて貴重な財産であるからです。サラリーマン家系の人材には、 残念ながらこれが伝わりません。

また企業経営は多くのリスクを取る事でもあるのですが、このリスクを他人に負わせるより、経営家系に育った子供が引き受けるのが、性(さが)だと思っているからです。
ただ、そうは言っても、2代目以降になって代が代わって来ると、どうしてもオーナー社長が持っている「カリスマ」や「オーラ」が弱まって行く傾向があります。今までは、オーナー社長がパワーで封じ込めたていたことが、通用しなくなっていくため、どうしても「制度や仕組み」で下支えする必要が出てくるのです。労務管理に関して制度や仕組みとは、賃金や評価制度等の人事制度がこれに当たるわけです。

もう一つの理由が有為な人材を失わないためです。

中小企業の組織風土に欠落しがちな要素に「適度な競争原理」と「上昇志向」があります。人材が活性化するにはこの二つは欠かせません。しかし新卒採用が少なく、同期やライバルがいないために競争原理が働きにくく、また将来、上の方へ上がって行ける道筋が整備されていないことと、モデルになる社員がいないことから、上昇志向を引き出すことも出来ず、有為な人材でも見切りを付けて辞めてゆくことがあります。

特に小規模企業の場合、ほとんどが同族経営で運営されています。ですからいくら頑張っても、経営家系でない限り、経営者の立場に上り詰めることはあり得ません。つまり社長を目指す!という人は、その会社で力を発揮する可能性はなく、仮に一時従業員であったとしても、その人には単なるステップアップの踏み台でしかありません。こういう人は引き留める人材というより、初めから割り切って考える必要のある人でしょう。

中小企業にとって必要なのは、経営を任せる後継者ではなく、部長をそつなく安定的にこなしてくれる、信頼のおける人材のことです。つまり経営者と同等の立場までは求めない、しかし会社のことを考えて仕事はして欲しい、かつ信頼できる存在であることが重要です。

ただ、こういった上昇志向のある人材も中小企業の場合、たくさんいるわけではありません。非常に限られた人材の中から、財産となる「人財」を育てて行かなければならないのです。会社を伸ばして行きたいのであれば、やはり信頼のおける部長の存在は欠かせないのです。

私自身もサラリーマンで数社の転職経験がありますが、残念ながら多くの中小企業には「将来に対する見える化」が充分ではありません。これを働く従業員の立場でみると、「今はいいとしても、年をとったときにこの会社でずっと頑張る意味があるのかな」とか、自分の先輩を見るにつけ「俺の50歳の姿はこの人と同じか・・・・・」となると、その潜在能力を発揮できないままに埋もれてしまうことになるのです。または転職する動機ともなるでしょう。

ここで注意が必要なのは、全従業員が必ずしも、上昇志向があるとは限らないことです。全員が人事制度によって上昇して行くというのは残念ながら幻想です。ここで大事なのは、ごく一部の限られた有為の人材を失わないことです。仕組みさえあれが、上の方へ上がって行ける可能性がある人材であるにもかかわらず、その仕組みがないため、埋もれてしまうとしたら会社にとっても本人にとっても不幸なことです。ですから「将来に対する見える化」が必要なのです。これが人事制度が必要な二つ目の理由です。
以上の視点から、もし人事制度が整備されていないとお考えでしたら、ここから改善して行きましょう。

6.コミュニケーションを重視し、モチベーションアップとトラブル防止を図ること(心の報酬)


ある意味、これが労務管理では一番大切なことかもしれません。これまでコンプライアンスや制度論をお話ししましたが、語弊を恐れずに言えば、法令や制度に多少の落ち度や杜撰さがあったとしても、「心の報酬」が担保されていれば、何とか上手くやって行くことができるからです。逆に言えば、これがなければ、何をやっても上手くいかないのです。

これに関して、従来から確立された実証理論があります。それはハーツバーグという臨床心理学者が唱えた二要因理論です。人間には不満要因と満足要因 があると言われています。満足に関わるのは、「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」など。これらが満たされると満足感を感じるのですが、欠けていても職務不満足を引き起こすわけではありません。これらは「動機付け要因」と呼ばれます。

一方、不満に関わるのは「給与」「対人関係」「作業条件」など。これらが不足すると不満を引き起こしますが、満たされたからといっても満足感に繋がるわけではないとされています。単に不満足を予防する意味しか持たないという意味で「衛生要因」と呼ばれます。

私は常々「労務は感情、労務は心理学」と申しています。人間は感情を持った資源です。理屈や法律通りに動いているわけではありません。もし、職場のコミュニケーションに問題があるとお感じでしたら、如何にして心の報酬を与えることができるか、これを検討して行くことになります。

7.従業員は自然に育たないので、強制と継続の仕組みで教育指導を行うこと(管理職研修・社員教育)


社員教育も大切な経営課題の一つです。そしてこれに関しても二つのポイントがあります。一つは、強制すること、もう一つは継続することです。

結論から申し上げますと、中小企業の社員教育は、社員を信じて自主性に任せてはいけません。強制して追い込んで行く仕組みが必要なのです。特に管理職として期待する人材ほどそうしなければなりません。彼らはまともな人材ではあるのですが、決して自然発火はしないのです。いわばマッチと一緒。常に摺って火を点し続ける必要があるのです。つまり強制です。ところが意外にも、経営者は自主性に期待する傾向があります。気をつけたいものです。

継続も大切な要素です。残念ながら一度くらい研修を行ったくらいでは人は変わりません。大きな研修を単発でやるよりも、小さなものでも良いですから、繰り返し繰り返し行うことが大切です。繰り返すことによって、行動と思考パターンが徐々に変化して行くのです。

人の性格は変えられませんが、行動や思考方法は変化させることができます。また、特に中小企業にとっては、良い番頭を作れるかどうかが家業から企業になる分かれ目のような気がします。管理職の養成は非常に重要な経営課題であると言えます。

8.多様な人材の有効活用(高齢者、女性、障害者、外国人)


最近よく耳にするようになったダイバオーシティ・マネジメントのことです。和訳すると「多様な人材がいきいきと働ける職場環境を作ること」です。これは1企業の問題と言うよりも、日本社会全体に対する問題とも言えます。

今、日本社会は経験したことのない人口減少社会に突入しました。この問題に対応してゆくには、(1)移民を受け入れる、(2)AI(人工知能)化する、(3)現行労働者の生産性を上げる、(4)まだまだ眠っている女性や高齢者を掘り起こす、ことなのです。ダイバーシティ・マネジメントとはこのうち (4)に当るわけです。

少し大きいテーマですが、そう遠くない将来、こういった問題に対応できるかどうかが、企業の盛衰を左右して行くことになるのかも知れません。

労務問題は重要な経営政策ですが、後回しになりがちです。漠然と鳥瞰すると、どこから手を付けて良いかわかりません。今まで申し上げたことを切り口として、労務問題から経営を向上させる一助になれば幸いです。

 

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

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