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事業主は嫌がり、社員は喜ぶ・・・・・・悩ましい有給休暇を如何に考えるべきか? (H19.11月号) | 社会保険労務士法人ラポール|なにわ式賃金研究所

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平成19年1月~12月

事業主は嫌がり、社員は喜ぶ・・・・・・悩ましい有給休暇を如何に考えるべきか? (H19.11月号)

事業主は嫌がり、社員は喜ぶ・・・・・・悩ましい有給休暇を如何に考えるべきか? (H19.11月号)

 就業規則をお作りすると、事業主の方が決まって眉をひそめる条項があります。それは年次有給休暇です。また就業規則を従業員に開示すると、一番関心を持って見ているところは休暇に関する条項です。休暇に関する事項は絶対的必要記載事項のため触れないわけにも行かなく、これはどこの企業にも見られる一般的な傾向であります。この相反する感覚をどこで整合すればいいのでしょうか?
 このことを考える前に、まず法律はどうなっているのか、基本的なことからおさらいしましょう。労働基準法第39条第1項で「使用者はその雇い入れの日から起算して6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない」と規定しています。そして付与日数は以下の通りとなっています。

年  数 6ヶ月 1年6ヶ月 2年6ヶ月 3年6ヶ月 4年6ヶ月 5年6ヶ月 6年6ヶ月以上
日  数 10日  11日  12日  14日  16日  18日  20日

 この日数は翌年度に限り持ち越されるので、例えば7年6ヶ月以上の勤務で今まで一度も有給を消化していない場合は、合計40日の日数を有することとなります。この有給は従業員が請求してくれば、事業主は拒否できないことになっています。どうしても事業運営上不都合が生じる場合に、「他の日に変更してください」とお願いする権利しかないのです。これを時季変更権といいます。
 また先述のように有給は就業規則に必ず書かなければならない事項なのですが、仮に記載を省略しても労基法は強行法規であるため、従業員の権利は当然に発生することになります。しかもこの権利は正社員だけのものではなく、いわゆるパートにもあるのです。ただ週の労働時間が30時間未満のパートの場合は正社員よりも少ない日数の付与でよく、以下の通りとなっています。パートに有給なんて、と驚かれる経営者も多くおられます。

週所定  1年間の所定           勤     続     年     数
労働日数  労働日数  6ヶ月  1年6ヶ月   2年6ヶ月 3年6ヶ月  4年6ヶ月 5年6ヶ月  6年6ヶ月以上
4日  169日~216日  7日   8日   9日 10日   12日 13日   15日
3日  121日~168日  5日   6日   6日  8日    9日 10日   11日
2日  73日~120日  3日   4日   4日  5日    6日  6日    7日
1日  48日~72日  1日   2日   2日  2日    3日  3日    3日

 私は経営者側に立つ社労士として旗色を鮮明にしていますが、この有給に関しては中小企業でも認めて行かなければならないという立場を取っています(注:もともと請求権があるため、承認という概念はないのだが)。何故ならその方が結果的に企業にとってもプラスになると思うからです。その理由は二つあります。一つはトラブル防止のため、もう一つは労務管理戦略上の理由です。
 1.トラブル防止のため
近年、個別労使紛争が激増しています。統計上も明らかで、実際、私のクライアントでも従業員からの労基署への申告、裁判所への訴え、合同労組への加入などが増加しています。
この原因は色々考えられますが、最も有力な一因はインターネットの普及にあると考えています。例えばほんの10年前までは、労基法を知ろうと思えば、書店へ行って解説書を購入するか、図書館で調べるくらいしか術がありませんでした。つまり従業員は知らなかったのです。ところがインターネットの普及により、居ながらにして無料で大量の情報を得ることが可能になりました。つまり、今までは一部の人しか持たなかった「答え」が、川上から川下へ広がるように拡大していったのです。その結果、従業員は自分たちの権利に確信を持つようになり、残業代や解雇などで自由に権利を主張するようになってきています。
もはやこの流れは止めようもなく、中小企業だからといって許容される範囲は確実に狭まっており、事業主が考え方を根本的に改めないと、意識の差は拡大するばかりです。その衝突が有給休暇でも見られます。普段、文句が出ないから問題がないと合点するのは誤解です。往々にして従業員の方は潜在的に不満を持っていて、ただ顕在化していないだけというケースが相当数あるように思います。例えば毎月給与明細書を見て、「残業代が付いていないなあ」「有給の欄があるのに日数が書いていないなあ」なんて、継続的に思っているのです。それが何かのきっかけで爆発し、深刻なトラブルとなります。事業主としては「何で、今になってそんなこと言うの?」といった感じで、戸惑うことが少なくありません。

 2.労務管理を戦略的に
 トラブルの火種を抱えたまま経営するより、それなら一層のこと認めるものはあっさり認めてしまって、その代わりキチンと従業員としての権利と義務に線を引いて労務管理した方が、むしろ事業主にとっても堂々と労働力の受領を得られると思うのです。つまり、こちらもやることはやっているのだから、そちらもやることはやってくれ」というメッセージを伝えやすくなりはしないでしょうか。人間の心理として、僅か1円でも損をしたと思えば不満が残り、納得すれば高価なものでも対価を払うというところがあります。事業主としてやることはやって、その労働対価を正当に求めるほうが、はるかに御しやすいと思うのです。
 さらにこのことは求人でも効果を発揮します。何故なら、中小企業で採用する人材は大半が中途採用ですから、従業員は過去に複数社を経験しています。経験値として労務管理が法律通りに行われていないことを認識しており、そこにきちんとした会社を発見すると、法律通りの当たり前のことでも他と比較して魅力的に映ります。例えば「有給休暇あります」なんて記載するのです。当たり前のことですが、それが行われていない現況では、特別に上積みの労働条件を用意しなくても勝負できるのです。
 
 ただそんなことを言っても、皆が我も我もと請求してきたらどうするんだ!との反論を持つ方もおられるでしょう。しかしそれは組織風土の問題です。一部に濫用する従業員も出るかもしれませんが、我も我もとなるのは社風に問題があると考えたほうが良いでしょう。
 行政の目を気にしたコンプライアンス(法令順守)ではなく、経営を向上させるための労務管理上必要なコンプライアンスと認識したいものです。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com

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