平成20年1月~12月
能力不足、勤務態度不良で解雇したと思ったとき (H20.9月号)
● 能力不足、勤務態度不良で解雇したと思ったとき (H20.9月号)
昔から能力不足とか執務態度が悪いとかで従業員を解雇したいとの相談を良く受けます。法的には以下の2点を検討する必要があります。
1.労働基準法上の解雇手続きを踏んでいるか
2.民事上の解雇権の行使が濫用に当たらないかどうか
1.労働基準法では解雇の場合、30日以前の予告か、30日分の解雇予告手当の支払か、その両方の折半(10日前に予告して20日分の予告手当の支給など)を求めています。つまり労基署段階ではこの手続きを踏んでいれば、問題はありません。ちなみに予告手当は給与とは別で支払うことが望ましいですが、給与明細に入れるときは非課税になります。科目は退職金勘定になります。
2.ただ手続き上は上記の通りとしても、民事上有効かどうかは別問題です。いわゆる能力不足や勤務態度不良による解雇は予測可能性が困難です。一般論としては、企業の規模や職務内容、採用理由(特に職種限定採用か、管理職採用か)、勤務成績や態度の不良の程度(解雇をもって臨まなければ為らないほどか)、回数(繰り返し起こしているか)、改善の余地(指導すれば何とか為るか)、指導教育の程度(何度も警告、教育したか)、他の労働者との均衡(同様事案で不問にしている人はないか)など、総合的に判断されることとなります。
後ほど解雇の効力をめぐって紛争に至った場合を想定して、こういった事由で解雇に発展する場合、いかに会社が常に指導、注意、警告を行なってきたかを書証で残しておくことが肝要です。例えば初めのうちは口頭による注意から始まり、改善しないときは指導書や勧告書なる文書で記録を残します。それでも従わない又は改善しない場合は更に踏み込んで始末書、減給、出勤停止等の段階をおった制裁処分により、解雇する前に様子をみます。そしてなおダメなときに初めて解雇できるくらいの辛抱が求められるのです。また制裁罰を課すときは、就業規則にその根拠規程がないとできません。
これらは、解雇に本人が納得せず、民事訴訟に及んだ場合の話です。
また法律論だけでなく以下の点も、会社が内々に考慮しておくことがいいでしょう。
1.有給休暇の残日数をどうするか(交渉によっては買い上げもある)
2.雇用保険の受給資格はあるか(自己都合で1年、解雇で6ヶ月)
3.離職票は普通解雇扱いにするのか懲戒になるのか(退職合意書を取って本人の為にすぐもらえるように解雇扱いすることも)
4.退職金は考慮するのか(所謂手切れ金)
5.仮に解雇としても合意解約の形で文書が取れるのか(後々の為に安心)
ここからは法律論ではなく感情論です。
同じ解雇でもモノは言い様、うそも方便。できるだけ本人の感情に配慮すべきです。例えば本人のことを慮るようにして、「今までの勤務状況をみているとこのままウチの会社で続けるのは難しいんじゃないか。このままでは、○○さんを会社は評価できないし、つまりこれ以上重要なポジションで仕事を任せることもなければ、給料も上がらない。ボーナスの査定も低くなる。支給しないこともあるだろう。恐らく同僚や後輩にも抜かれ、プライドを傷つけられることになるだろう。まだまだ今ならやり直しは効くと思う。残念ながらウチの会社では浮かばれなかったが、きっと広い世の中、○○さんがもっと輝いて自己実現できるところがあるだろう。今のうちにお互いきれいな形で分かれた方がお互いの為になるのではないか。じっくりよく考えてみてはどうか」なんて感じで、歩み寄り、合意解約に持ってゆければ、後顧の憂えなしです。条件を出せば応じる場合は、出すのも一計でしょう。
とにかくモノは言い様です。
くれぐれも安易な解雇で無用なトラブルを起こさないことです。出来が悪くても、雇った責任があるのですから。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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