2020年1月~12月
新型コロナウイルスに対する企業の対応 Q&A (2020年4月号)
●新型コロナウイルスに対する企業の対応 Q&A(2020.4月号)
新型コロナウイルスの猛威が止まりません。今後、日本も欧州のようにオーバーシュート(爆発的感染拡大)することが現実味を帯びてきており、自分の会社にいつ感染者が出てもおかしくない状況となってきています。そこで今回は、厚労省が発出しているQ&Aをもとに、企業における対応の在り方を考えたいと思います。
(以下文中で、⇒のある箇所は、私の所見を述べたものです)
問1 熱や咳がある方については、どうしたらよいのでしょうか?
答1 発熱などの風邪の症状があるときは、会社を休んでいただくよう呼びかけております。休んでいただくことはご本人のためにもなりますし、感染拡大の防止にもつながる大切な行動です。そのためには、企業、社会全体における理解が必要です。従業員の方々が休みやすい環境整備が大切ですので、ご協力いただきますようお願いします。
⇒なお、本件に関連して一般の労働者向けには、以下のように記載されています。
発熱などのかぜ症状がある場合は、仕事や学校を休んでいただき、外出やイベントなどへの参加は控えてください。咳などの症状がある方は、咳やくしゃみを手でおさえると、その手で触ったドアノブなど周囲のものにウイルスが付着し、ドアノブなどを介して他者に病気をうつす可能性がありますので、咳エチケットを行ってください。
発熱などのかぜ症状について、現時点では新型コロナウイルス感染症以外の病気による場合が圧倒的に多い状況です。風邪やインフルエンザ等の心配があるときには、これまでと同様に、かかりつけ医等にご相談ください。
新型コロナウイルスへの感染のご心配に限っては、最寄りの保健所などに設置される「帰国者・接触者相談センター 大阪06-6647-0950」にお問い合わせください。特に、以下の条件に当てはまる方は、同センターにご相談ください。
・ 風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含みます)
・ 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合
・ 高齢者をはじめ、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など))がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方は、 風邪の症状や37.5度以上の発熱が2日 程度続く場合 、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合
⇒これを執筆している3月26日段階では、まだ強制力のある外出制限は出ていませんが、かぜ症状のある時は、会社を休むように要請しています。企業としては、この時期に限っては、朝起きて、倦怠感がある場合、必ず検温してもらい、発熱していれば、連絡の上、自主的に休んでもらうよう繰り返し、指示を出しておくことが重要です。
間違っても、頑張って来ないように徹底して置かなれれば、なりません。
問2 新型コロナウイルスへの感染を防ぐため、なるべく人混みを避けての通勤を考えています。時差通勤を導入するにはどうしたらよいのでしょうか?
答2 労働者及び使用者は、その合意により、始業、終業の時刻を変更することができますので、時差通勤の内容について、労使で十分な協議をしていただきたいと思います。
また、始業、終業の時刻を労働者の決定に委ねる制度として、フレックスタイム制があります。この制度は、1日の労働時間帯を、必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)と、その時間帯の中であればいつ出社または退社してもよい時間帯(フレキシブルタイム)とに分けるものです。なお、コアタイムは必ず設けなければならないものではありませんので、全部をフレキシブルタイムとすることもできます。
⇒大手のようにテレワークを取り難い規模の企業や仕事の内容がテレワークに馴染まない場合は、時差出勤は満員電車のように、いわゆる感染リスクの高い環境(密閉、多人数、会話)から解放されますので、効果的と考えれれます。労使合意とありますが、大抵の就業規則は時差出勤に関する規定があるはずで、そうであれば業務命令で行う事も可能です。ちなみに弊社では全社員に対し、通勤状況におけるアンケートを書いてもらい、リスクの高い環境下で通勤している状況が把握できた社員が希望した場合は、1時間の時差出勤を導入しました。
問3 雇用調整助成金とはどのようなものでしょうか?
答3 景気の後退等、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされ、雇用調整を行わざるを得ない事業主が、労働者に対して一時的に休業等を行い、労働者の雇用を維持した場合に、休業手当の一部を助成するものです。現行3分の2の支給率で、さらに10分の9まで引き上げ予定です。また基本的に事前計画届が必要ですが、特例で事後届出も可能となっています。
⇒整理解雇する前に、休業(自宅待機)させれば、なんとか凌げる場合は、検討しましょう。但し、デメリットもあり、細かな要件がありますので、きちんと理解した上で利用しましょう。
問4 新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、どのようなことに気をつければよいのでしょうか?
答4 新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、欠勤中の賃金の取り扱いについては、個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案するべきですが、労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。
但し不可抗力による休業の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、ア)その原因が事業の外部より発生した事故であること、イ)事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。
問5 労働者が新型コロナウイルスに感染したため休業させる場合、休業手当はどのようにすべきですか?
答5 新型コロナウイルスに感染しており、感染症法により都道府県知事が行う就業制限により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。なお、健康保険に加入されている方であれば、要件を満たせば、傷病手当金が支給されます。
問6 労働者が発熱などの症状があるため自主的に休んでいます。休業手当の支払いは必要ですか?
答6 会社を休んでいただくよう呼びかけをさせていただいているところですが、新型コロナウイルスかどうか分からない時点で、発熱などの症状があるため労働者が自主的に休まれる場合は、通常の病欠と同様に取り扱っていただき、病気休暇制度を活用することなどが考えられます。
一方、例えば発熱などの症状があることのみをもって一律に労働者に休んでいただく措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。
⇒上記例は要するに、社員が自分の判断で休めば通常の病欠扱い(欠勤控除可能)であり、感染が確定しない段階で会社から休ませると休業手当が必要ということですが、悩ましいのは、新型コロナウイルスへの感染が疑われる方について、会社の措置として休ませた場合に、休業手当の支払いは必要かどうかなのですが、これに関して厚労省のQ&Aは、はっきり答えていません。
私見ですが、労基法が刑罰まで担保して休業手当の支払いを義務付けている趣旨や、感染リスクが考えられる状況下で漫然と就労許可したために感染が拡大を許した場合の安全配慮義務や社会的影響の観点、或いは新型コロナは当該企業の個別特殊な事情ではなく、全世界でパンデミックとなっている天災事変に近い外部要因であり、1経営者の通常の努力では如何ともし難いことを考えると、予防措置的に休業させた場合には、休業手当の支払いは必要ないと考えます。ただ、この場合でも、テレワークなど出勤しなくとも業務遂行が可能であったかどうかを検討したかは、問われることになると思われます。
また濫用は許されず、予防措置的とは例えば、中国や欧州からの帰国者(但し現在は2週間の待機要請となっている)とか、クラスター(集団感染)が起こっている現場に居たことが明から場合、付近に陽性反応者がおり濃厚接触の可能性が高い場合など、通常であれば感染拡大のリスクがあると常識的に予見できる場合が該当すると考えられます。
問7 新型コロナウイルスに感染している疑いのある労働者について、一律に年次有給休暇を取得したこととする取り扱いは、労働基準法上問題はありませんか。病気休暇を取得したこととする場合はどのようになりますか。
答7 年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものなので、使用者が一方的に取得させることはできません。事業場で任意に設けられた病気休暇により対応する場合は、事業場の就業規則などの規定に照らし適切に取り扱ってください。
⇒要するに、強制的に有給休暇で休ませることはできないのですが、休業手当の出ない労働者の自主判断による休業や、有給の特別(病気)休暇制度のない会社において、欠勤扱いで控除されるなら有給を使うか?などと尋ね、本人が同意すれば問題はありません。
問8 パートタイム労働者、派遣労働者、有期契約労働者、外国人などの方についても、休業手当の支払いや年次有給休暇の付与は必要でしょうか?
答8 労働基準法上の労働者であれば、パートタイム労働者、派遣労働者、有期契約労働者、外国人など、多様な働き方で働く方も含めて、休業手当の支払いや年次有給休暇付与が必要となっております。
⇒まれに、正社員以外は対象とならないと勘違いされている経営者がありますが、休業手当は有給については正社員と同じです。但し週30時間未満の方の有給は、比例付与といって、正社員より少ない日数となります。
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)