2020年1月~12月
想定外の速さで来た、コロナ第二波。企業の備えを検証する その2 テレワーク編1(2020.9月号)
●想定外の速さで来た、コロナ第二波。企業の備えを検証する その2 テレワーク編(2020.9月号)
前回8月号は、中小企業が現時点で考え得るコロナ対策を、1.働き方、2.通勤の仕方、3.他の企業で行われている職場の感染対策を真似る、4.意識啓発という4つの視点で解説しました。
その中で働き方に関し、テレワークをご紹介しましたが、その中身は大変ボリュームがあるため、次回に譲るとして詳しく解説しませんでした。今回は厚生労働省が発行している「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」に沿って、その内容を解説いたします。
ひと言でテレワーク(リモートワークともいう)と言っても、自宅で行う在宅勤務、自宅や会社以外のオフィスで行うサテライトオフィス勤務、外出先で行うモバイル勤務がありますが、ここで取り上げるのは在宅勤務です。
1.テレワークのメリット・デメリットを理解する
コロナ下で行うテレワークの最大のメリットは、通勤をはじめとする人との接触機会の削減です。これにより感染リスクを相当低減する効果が期待できます。ただ各種アンケート調査によるとデメリットも少なからずあることを認識しておかなければなりません。主なものを列記すると以下の通りです。
■メリット
〇感染リスクの低減
〇通勤時間、交通費が不要
〇育児介護などとの両立、離職者の防止
〇遠隔地の採用が可能
〇オフィスコストの削減
■デメリット
〇仕事と私生活のメリハリが付けにくい
〇長時間労働になりやすい
〇労働時間の管理、進捗状況、評価が困難
〇コミュニケーション不足
〇情報セキュリティ上の問題
〇運動不足、抑うつなど健康問題
またある調査によると、会社での生産性を100とした場合、テレワークにより生産性が下がったと回答する従業員の割合は60強%に達しており、このあたりもデメリットとして覚悟しなければならないのかもしれません。
2.通常勤務と何ら変わらない法令適用がある
テレワークだからと言って、何か特別な法律があるわけではなく、労働基準法などの法令は今までと同じように適用されます。
労働基準法:1日8時間・1週40時間の原則(労働時間の把握)、休憩時間の付与、36協定以内の残業、書面による労働条件の通知など
労働安全衛生法:定期健康診断、長時間労働者の面接指導、ストレスチェックなど
そのほかにも労災保険法、厚生年金保険法、最低賃金法、高齢者安定法、パート有期雇用法など、いわゆる労働関係法令は同じように適用されます。
3.労働時間の管理
労働時間管理に関しては原則的に事業場内の場合と異ならないのですが、テレワークにはいくつか留意すべき点があります。
(1)中抜け時間
テレワークの場合は、所定労働時間内でも私用の時間が混在することがあります。家事であるとか、育児であるとか、買い物に行くとか。こうういった時間は自由利用が可能な時間ですので、労働時間には当たりません。従ってその時間分の賃金を控除するか、始業終業時刻をその時間分、繰り上げ繰り下げすることは就業規則へ記載することにより可能です。
中抜け時間を認める場合、チャットなどを利用して「今から私用に入ります」「業務に復帰します」と、その都度連絡をもらうか、または給与締めごとに一定の書式により纏めて自己申告してもらう等の方法が考えられますが、実務上かなり煩雑になるものと思われます。
勿論、テレワークと言っても会社の所定労働時間に拘束されるのが大原則であることから、中抜けを一切認めない運用も可能です。
(2)移動時間
テレワークを認めたからといって、一切出社を命じられないわけではありません。必要に応じて出社してもらうことはあり得ます。1日すべてを通常業務に戻す場合の移動時間は、従来の通勤時間と何ら変わらないのですが、問題なのは午前だけテレワークをし、午後から出勤を命じるような場合の移動時間です。
一見すると通勤時間のようにも思えますが、「緊急事態が生じたため、直ちに出社せよ」などと命じた場合は微妙です。自宅から会社までの時間を自由利用できない状況下であれば、この移動時間は労働時間となるでしょう。要は、会社と自宅間の移動が自由に利用できる時間かどうか、によって変わってくるのです。
(3)事業場外みなし労働時間制を採用する場合の要件
事業場外みなし労働時間制とは、労働時間の全部または一部が事業場外にて行われる場合で、使用者の指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な場合に利用できる制度です(労基法第38条の2)。
昨今のICT技術の発達により、事業場外でも労働時間を計測できたり、随時指示監督が可能な環境下になってきていることから、これが司法で認められる領域は確実に狭まっている感がありますが、すくなくとも労基法を管轄する厚労省では以下の要件を2つとも満たす場合に限り、その運用は可能としています。
要件1
〇情報通信機器が使用者の指示により、常時通信可能な状態におかれていないこと
要件2
〇随時使用者の具体的な指示に基づいて、業務を行っていないこと
まず要件1ですが、情報通信機器を通して使用者の指示に即応する義務がない状態のことをいい、具体的には以下のような状態のことを言います。
・回線が常時接続されていても、従業員が自由にその場を離れたり、回線を切断したりすることが可能である状態
・携帯電話やビデオ通話により会社からの問い合わせに対して即応する義務がない状態
要件2についてですが、これは一切の指示ができないということではなく、業務の目的・目標、期限・変更等の基本的事項を指示することは含まれません。
要するに簡単な指示をすれば、あとは本人の自主裁量に任せることが必要で、細かく指示しなければならない新入社員などは困難でしょう。
(4)事業場外みなし労働時間制の運用
この運用には、ア.所定労働時間みなし と、イ.通常必要とされる時間みなし の2つのパターンがあるのですが、この解説をし出すと細かくなりすぎるため、ここではごく簡単に解説します。
ア.所定労働時間みなし
1日の実際の労働時間に拘わらず、当該会社の1日の所定労働時間(例えば8時間)を働いたとみなして、賃金を支払う仕組みです。中抜け時間の把握や繰り上げ繰り下げを行うことなく運用可能です。8時間でみなすため、時間外手当は発生しないのが原則です。
これを運用するためには前述の2つの要件を満たすことはもとより、実際の業務時間と所定労働時間に大きな乖離がなく、語弊を恐れずに言えば、成果させ出してくれれば多少のさぼりは許容範囲、くらいの度量のある運用でないと難しいというのが私の見解です。
イ.通常必要とされる時間みなし
これは通常の所定労働時間内にて日常業務をこなすことが困難で、一定の超過時間が恒常的に発生する場合に採用するものです。労使協定を結び(労基署への届出必要)、その協定でみなした時間を労働時間として賃金を支払う仕組みです。
例えば当該業務を遂行するのに、通常9時間かかるとすれば、実際の時間が8時間や10時間となっても、9時間としてカウントし、かならず1時間分の時間外手当を支給するというものです。
この仕組みは結構複雑なため、専門家の助言を受けながら行った方が賢明です。
(以下次号)
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)