2020年1月~12月
想定外の速さで来た、コロナ第二波。企業の備えを検証する その3 テレワーク編2(2020.10月号)
●想定外の速さで来た、コロナ第二波。企業の備えを検証する その2 テレワーク編(2020.10月号)
前回9月号はテレワークの、1メリットとデメリット、2法令の適用 3労働時間管理、について解説しました。今回はその続きです。
4.時間外労働・休日労働について
前回の労働時間管理の項で述べました「事業場外みなし労働時間制」を採用しない限り、テレワークにおいても実労働時間の長さに比例して時間外手当を支払わなければならないことは、会社内の残業と何ら変わりがありません。
しかし厚生労働省は以下の場合に時間外労働として扱わなくても構わないとの見解を示しています。
「労働者が時間外、深夜または休日に業務を行った場合であっても、少なくとも、就業規則等により時間外に業務を行う場合には事前に申告し使用者の許可を得なければならず、かつ、時間外に業務を行った実績について事後に使用者に報告しなければならないとされている事業場において、時間外の労働について労働者からの事前申告がなかった場合、
または事前に申告されたが許可を与えなかった場合であって、かつ、労働者から事後報告がなかった場合について、次の3つの全てに該当する場合には、当該労働者の時間外の労働は、使用者のいかなる関与もなしに行われたものであると評価できるため、労働基準法上の労働時間に該当しないものです」
(1)時間外に労働することについて、使用者から強制されたり、義務付けられたりした事実がないこと
(2)当該労働者の当日の業務量が過大である場合や、期限の設定が不適切である場合等、時間外に労働せざるを得ないような使用者からの黙示の指揮命令があったと解し得る事情がないこと
(3)時間外に当該労働者からメールが送信されていたり、時間外に労働しなければ生み出し得ないような成果物が提出されたりしている等、時間外に労働を行ったことが客観的に推測できるような事実がなく、使用者が時間外の労働を知り得なかったこと
そして使用者の許可制に関し、申告時間に上限が設けられていたり、正直に申告することに圧力を与えるような事情がないことが必要であるとしています。
ですからこれらをきちんと運用する限り、「勝手に」残業したとしても、残業代の支払いは必要ないということです。
5.長時間労働対策
テレワークのデメリットとしても挙げられていますが、長時間労働になりやすい傾向があるようです。これを回避する方策としては以下のようなことが考えられます。
(1)そもそもテレワークにおいては時間外、休日、深夜労働を一切禁止する(テレワーク規程を整備し、禁止事項として記載すると共に、テレワーク開始前の誓約書においても禁止事項として盛り込んでおくべきです)
(2)システムへのアクセス制御をかけ、物理的に残業できないようにする(後述しますが、システムや費用をどうするかは重大な問題です。会社から支給品として貸与できる場合は、制御可能です)
(3)時間外にメール等の連絡を一切行わない
(4)仮に許可しない残業を行う者がいる場合、個別に注意喚起する(場合によっては軽い懲戒処分の対象ともなる)
テレワークに限らないことですが、最近はグループLINEで一斉にメッセージが届くことがあり、それが深夜や休日にも流れてくることもあることから、見ざるを得ず、気が休まらず、従業員からクレームが来ることが増えています。
休日出勤で来させるのは抵抗があっても、チャットやメールならついつい気軽に時間外に連絡してしまう管理者もいます。
テレワークではこういったことが特に起こりやすいので、厳に慎むようにしなければなりません。
また従業員自身も仕事と私生活の切り替えができず、ついつい深夜まで続けたり、所定休日に仕事をしてしまうことが起こります。
これらについて漫然とやり過ごすと、結局生産性が上がらず、いたずらに長時間労働を助長する結果になってしまいますので、注意を要します。
6.業務災害(労災)について
テレワークを行う労働者については、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は、業務上の災害として労災保険給付の対象となります。ただし、私的行為が原因であるものについては、業務上の災害とは認められません。テレワークを行う労働者については、この点を十分理解していない可能性もあるため、使用者はこの点を十分周知することが望ましいです。これもテレワーク規程や誓約書に盛り込んでおきます。
〇認められる場合の例
自宅で所定労働時間にパソコン業務を行っていたが、トイレに行くため作業場所を離席した後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した場合。
〇認められない場合の例
自宅で仕事中、洗濯物を取り込もうとしてベランダへ出たところ、滑って転倒した場合。
7.通信費、情報機器等の費用負担について
テレワークにおいて情報通信機器を使用しないことはまず考えられず、様々な費用を誰が負担するのかをあらかじめ決めておく必要があります。
検討すべき事項として以下のものが考えられます。
(1)パソコン、タブレット:会社から貸与か、私物を借り受けるか
(2)ネット環境の整備費用が必要な場合の工事費用:ポケットWi-Fiを支給するか、社員が契約したものを借り受けるか
(3)恒常的に発生する通信費:手当による定額支給か、割合的負担とするか
(4)セキュリティ費用:私物の場合のセキュリティ対策費用
(5)通信手段の費用:スマホ、携帯、ビデオ通話
(6)日常生活でもかかる水道光熱費:手当による定額負担か、自己負担してもらうか
(7)郵送費、事務用品等の消耗品:会社支給か、実費精算か、自己負担か
(8)通勤手当:かかった分小口清算か、継続支給か
8.コミュニケーション
テレワークのデメリットとして、コミュニケーションが円滑に行えないことがあり不安要素になっています。またどうしても引き籠りがちになることから、精神衛生上の問題も惹起します。かといって常にビデオ通信で監視下においたり、しょっちゅう呼びかけるのも現実的ではありません。
少なくとも従業員が疎外感を持たないようにする工夫が必要かと思われます。
例えば・・・
〇業務終了時に本日の進捗を報告させる
〇終了時に「終わりました」のチャットメールが来れば、「お疲れさま」など簡単に労う返信を送る
〇月に何日かは顔合わせの日(出勤日)を設定する
〇社内での出来事等を「お知らせ」として流す(会議で決まったこと、社員の異動情報、行事予定など)
〇希望者はオンライン飲み会へ誘う
また、コミュニケーションとは別ですが、仕事モードに切り替えを促すためには、業務開始及び終了を連絡させた上で、たとえ自宅でも業務中は普段着ではなく、仕事着(背広、制服など)を着用することをお勧めします。
9.労使で共通認識を持つ
何故、テレワークを導入するのか、その目的や意義を共有しておくことです。押し付けで一方的に行うと、良かれと思ってやっていることでも意図を曲解されることがないとは言えません。
現行のコロナ下においては、通勤や業務による従業員の感染リスクを取り除くことが最大の理由となるでしょう。
しかしそれだけではありません。コロナのおかげで、「働き方改革」という言葉が今はどこかへ飛んでしまった感がありますが、大局的にはこの流れは止まりません。過去何度も触れましたが、「働き方改革」の本丸は、労働生産性の向上です。労働力の激減下においても豊かさを維持して行くためには必須の命題です。
テレワークも運用次第では生産性の向上に資する可能性があり、しかも遠距離通勤、育児介護や看護等、仕事をセーブせざるを得ない人たちを労働市場へ呼び込む、または引き止める効果も期待できます。
そういった理念をきちんと共有しておく必要があります。
(以下次号)
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)