2021年1月~12月
同一労働、同一賃金!!その対策を考える その2(2021.2月号)
●同一労働、同一賃金!!その対策を考える その2(2021.2月号)
(前号その1からの続き)
■均等待遇と均衡待遇
同一労働同一賃金には、「均等待遇」と「均衡待遇」といわれるものがあります。そしてそれは以下の3つの要素に基づいて判断されることとなっています。
第一要素 職務の内容
第二要素 職務の内容・配置の変更の範囲
第三要素 その他の事情
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(解説)
※第一要素:「職務の内容」とは、単に同じ職種ということだけではなく、その業務に伴う責任や役割の程度も問われる
※第二要素:「職務の内容・配置の変更の範囲」とは、転勤や昇進の有無、職種(責任や役割を含む)の変更の有無があるかないかということ(将来的な見込みでも可)
※第三要素:「その他の事情」とは、主に以下のものをいいます。
1 他の待遇とのバランス
2 定年後の再雇用
3 労使協議の在り方
4 正社員登用の有無
5 成果・能力・経験・役割の違い
6 合理的な慣行
7 残業の有無
8 所定労働時間の違い
9 長期勤務か短期勤務か
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〇均等待遇(パート有期雇用法第9条)とは・・・
上記「第一要素の職務の内容」と「第二要素の職務の内容・配置の変更の範囲」がどちらも同じである場合は、正社員とあらゆる待遇を平等にしなければならないということです。
〇均衡待遇(パート有期雇用法第8条)とは・・・
3要素に違いがある場合、正社員とパート・有期雇用労働者の待遇に相違があっても良いが、不合理な差異であってはいけないということです。言い換えると上記「第一要素の職務の内容」と「第二要素の職務の内容・配置の変更の範囲」のいずれかが異なる場合、または第一要素第二要素両方が異なっても「第三要素のその他の事情」がなければ、正社員と不合理な差を付けることは許されないということです。
ややこしい話ですが、平等にしなければならない均等と違い、均衡の方は、不合理な差がダメなのであって、差自体が否定されるのではなく、合理性は求められません。
簡単に言い換えれば、合法(合理的)でなくとも、違法(不合理)でなければ良いわけで、つまりグレーはセーフということなのです。
(下図参照)
★合理的(合法)━━━━━━|━━━━━━━ ☆グレー ━━━━━━|━━━━━━━ ★不合理(違法)
←----------------------------→
合理的でなければならない範囲
(法の求める範囲でない)
←--------------------------------------------------------------------------→
不合理であってはいけない範囲(法の求める範囲)
この考えをもう少し詳しく図示すると以下の通りです。
A職務の内容 B職務の内容・配置の変更の範囲 Cその他の事情
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1 同じ 同じ ― ⇒ 均等待遇(差別的取り扱い禁止)9条
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2 同じ 異なる なし ⇒ 均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)8条
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3 異なる 同じ なし ⇒ 均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)8条
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4 異なる 異なる なし ⇒ 均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)8条
↑ パート・有期雇用労働法の規制の対象
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↓ パート・有期雇用労働法の規制対象外
5 同じ 異なる あり ⇒ 待遇差は違法ではない可能性あり
6 異なる 同じ あり ⇒ 待遇差は違法ではない可能性あり
7 異なる 異なる あり ⇒ 待遇差は違法ではない
上表1から4はいずれも今回のパート有期雇用法の規制の対象となり、均等にしても、均衡にしても、いずれにしても何らかの持ち出しが必要となります。特に1のパターンは、均等待遇(9条)となり、正社員と非正規社員のあらゆる待遇を同じにしなければならず、非常に危険です。但し法条文には「短時間・有期雇用者であることを理由として」との文言があり、これが事由ではないことが反証できればいいのですが、できれば避けたいパターンです。いずれにしても非正規社員の待遇を引き上げて、正社員と同じ待遇にするか、近づける必要があるわけです。法の目的にも合致し、王道コースといえるでしょう。
しかしこのいわば王道コースを取り難い中小企業の場合は、まず上表の5、6、7の考え方を労務管理に反映させて運用することを具体的に検討してゆくこととなるのです。
■第一要素■ ← どちらかに → ■第二要素■
(職務の内容) 違いを設ける (職務の内容・配置の変更の範囲)
+
←できるだけ
■第三要素■ たくさん盛り込む
(その他の事情)
正社員と非正規社員の待遇差を直ぐには埋められないのであれば、上表の5、6、7の考え方を労務管理に反映させて運用するしかありません。つまり「職務の内容」、「職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組みともいう)」のいずれかを正社員と非正規社員で同じにしない(つまり異なる)ようにし、かつ、「その他の事情」をできるだけ盛り込む(あり、にする)ことが重要となります。
しかし一つ注意を要するのは、上記5から7のパターンであっても、不合理と判断されてしまう待遇があるのですが、それは後述します。
ちなみに、これまで出ている同一労働同一賃金に関する最高裁判決の傾向は以下の通りです。
長澤運輸事件 ハマキョウ 日本郵便事件 メトロコマース 大阪医科薬科
レックス事件 事件 大学事件
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企業から見た勝敗 勝訴 敗訴 敗訴 勝訴 勝訴
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■第一要素 同じ 同じ 同じ 異なる 異なる
職務の内容 (運転手) (運転手) (郵便業務) (売店業務) (教室事務)
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■第二要素
職務の内容・配置の 同じ 異なる 異なる 異なる 異なる
変更の範囲
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■第三要素 あり なし なし あり あり
その他の事情 定年再雇用、 正社員登用、 正社員登用、
調整給による緩和措置 売店正社員がいる 教室事務正社員が
年金受給など 特別な事由、 いる特別な事由、
売店正社員が僅少 長期雇用者がいない
(5年上限)
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上表のパターン 該当なし 2 2 7 7
(特殊ケース)
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備考 改正パート有期法だと メトロコマース、 反対意見有り、 10年を超える
9条(均等待遇)で 大阪医科薬科との きわどい事案 長期者が原告
争われる余地 バランスを取ったか? ならどうだったか?
(以下次号)
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)