2021年1月~12月
同一労働、同一賃金!!その対策を考える その3(2021.3月号)
●同一労働、同一賃金!!その対策を考える その3(2021.3月号)
(前号その2からの続き)
■不合理性判断のための重要な「3要素」とは
1.第一要素 「職務の内容」
これは「業務の内容」と「その業務に伴う責任の程度」に分解できます。「業務の内容」とは一般的に職種と言われている概念のことです。営業とか、一般事務とか言われるものです。これが正社員と非正規社員で同じかどうかは、行政解釈によると「厚労省編職業分類」の細分類が同じかどうかで判断されます。この細分類が違っていれば、この時点で同じ職務とは言えなくなります(但し裁判実務では必ずしもこれに拘束されるとは限らない、あくまで実態判断)。
また細目が同じであっても、職種に内在する中核的業務が異なれば、同じとはなりません。例えば店頭販売の正社員とパートを比較した場合、レジ打ちと商品陳列は双方共に行うが、商品発注や売上管理は正社員しか行わないといった場合、同じ販売職であっても、中核的業務に違いがあり、同一とはみなされないことになります。
また業務内容が同じであったとしても、それがある一時期のことであり、定年まで雇用期間の全てに渉って同じでなければ相違があることになります。例えば、新人社員に現場業務を体験させるため、一時的にアルバイトと同じ業務内容になるようなケースです。
ここまでの検討で「業務の内容」を見てきて、同一である、つまり職種細目も同じ、中核的業務も同じ、雇用期間の全期間にわたっても同じであっても、直ちに同一労働同一賃金とはならず、さらに次のステップである「その業務に伴う責任の程度」を比較して「職務の内容」が同じかどうかを最終的に判断します。
「その業務に伴う責任の程度」には多様な要素があり、例示すると以下のようなものがあります。
(1)単独契約できる可否
(2)管理する部下の数
(3)決裁権限の範囲
(4)ノルマの有無
(5)トラブルや緊急時対応の有無
(6)時間外労働の必要度
(7)成果への責任の度合い
これらの要素に正社員と非正規社員で大きな違いがあれば、「業務の内容」は同じであっても、3要素の一つである「職務の内容」は異なることとなります。つまり第一要素である「職務の内容」が同じかどうかは、
?厚労省編纂職業分類の細分類が同じか(同じ職種か)⇒②中核的業務が同じか⇒③雇用期間の全期間にわたって同じか⇒④責任は同じか
という順番で同一性を判断することとなります。
2.第二要素 「職務の内容・配置の変更の範囲」
3要素の2つ目で、主に以下の要素で判断されます。以下現在の状態だけでなく、将来にわたって変更される可能性があるかも考慮されます。
〇転勤の有無(正社員・非正規社員双方に転勤がある場合でも、正社員は全国転勤、パートはエリア限定転勤であれば同一とはならない)
〇昇進(役職の変化)
〇昇格(職能資格の変化)
〇職務内容の変更
〇キャリア形成(ゼネラリストやスペシャリストへの上昇)
〇出向・転籍
〇人事考課
〇役割の変更(指導・監督・管理・成績連動など)
第一要素である「職務の内容」が同じでも、この第二要素の「職務の内容・配置の変更の範囲」が異なれば同一とはなりません。そしてこれらはあくまでも同一企業内での比較判断となり、世間との比較はしません。
3.第三要素 「その他の事情」
第一、第二要素に限られない、あらゆる事象が対象となり主に以下のようなものが考えられます。
(1)他の待遇とのバランス(ある待遇差が不合理でも、それを補填するその他の待遇がある場合)
(2)定年後の再雇用
(3)労使協議の在り方(労使で真摯に話し合って決まっていることかどうか)
(4)正社員登用の有無
(5)成果・能力・経験・役割の違い
(6)合理的な慣行
(7)残業の有無
(8)所定労働時間の違い(フルタイムか短時間か)
(9)年金や高年齢継続給付の有無
(10)採用の目的
(11)勤務形態の違い(変形制、裁量労働、テレワーク、兼業)
(12)住居事情(近隣か遠方か)
(13)家族事情(扶養義務の有無)
(14)年収比較
これからの非正規社員の雇用管理のキモとして、第一要素か第二要素に必ず違いを設け、その上で第三要素である「その他の事情」をできるだけ多く取り込むことが肝要になってくるのです。
■16の具体的対策 案
これら基本的考え方を踏まえた上で、正社員と非正規社員の待遇を同じにできない企業の場合に、これからどのようにして行けば良いのか、16個の具体策をご紹介します。
まず具体的対策を講じる前に、「職務の内容」、「人材活用の仕組み」の2要素は同じにしないことです。これが同じであると3番目の要素である「その他の事情」は斟酌させず、対策云々以前に均等待遇にしなければならなくなってしまいます。これは避けねばなりません。では現時点で考えられる16の対策を解説します。
1.正社員と非正規社員の定義を明確化する(正社員と非正規社員の就業規則を分ける)
まず始めに行いたいのが、正社員とパート有期雇用労働者の定義を就業規則において明確化することです。つまりそもそも正社員とはどういう人か、パート有期雇用労働者とはどういう人かを見える化しておきます。これが曖昧であると、両者の待遇に違いがあることが説明できません。
(規定例)
第00条(従業員の種類)
(1)正社員:正社員とは契約期間の定めがなく、月極め給与で、かつ所定労働時間をフルに勤務できる者で、原則として定年までの良好な長期雇用を前提とし、中核的業務を担い、広範な職務変更や異動が予定され、将来の幹部候補としてキャリアを重ねることでゼネラリストまたはスペシャリストを志向する者をいいます。正社員は本則の適用を受けます。
(2) パート社員・有期雇用社員:パート社員・有期雇用社員或いはアルバイトとは、時間給にて採用された者、契約期間に定めのある者、または正社員とは異なる短い勤務シフトにより採用された者、或いは労働契約法による無期転換した者で、いずれも長期雇用、広範な職務変更や異動、或いはキャリアアップが予定されておらず、原則として簡易な業務に従事する者をいいます。パート社員・有期雇用社員は「パート有期雇用社員就業規則」の適用を受けます。
2.基本給の決定基準の相違を明確にする
「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(以下。ガイドラインという)によりますと、正社員と非正規社員間で賃金の決定基準に相違を設けること自体は否定していません。但し「将来の役割期待が異なるため」のような、抽象的な説明では足りないともしています。ガイドラインが示してしる例で言えば、正社員には能力に応じて支給しており、パートも能力を重視するのであれば、パートにも能力に応じた支給を求めています。
つまりここから読み取れることは、明らかに決定基準が違えば、そもそも比較しようがないとも言えるのです。そこで賃金規程においてしっかりと、賃金の決定基準が違うことを明示しておくのも対策の一つと言えるでしょう。
少なくとも労働側が本丸と考える基本給に関して、会社側が敗訴した事例はなく、「基本給」「賞与」「退職金」といった基幹賃金に関しては、有為人材確保論(後述)が通用します。メトロコマース事件、大阪医科薬科大学事件で使用者側が勝った主要因は、a職務内容に一定の相違があること、b有為人材確保論、c正社員登用の途が開かれていたことが大きいのです。
また2020年最高裁判決において、基本給が職務能力に応じて支給される賃金設計が、かなり斟酌されることが分かりました。コロナ禍において、最近ジョブ型社員とか、職務給という考え方が台頭してきていますが、同一労働同一賃金のことを重視するなら、少し慎重になった方がよさそうです。ジョブ型とか、職務給だと決定基準が同じ土俵にのってしまうリスクがあるからです。そういった意味では、曖昧さを残した日本型職能給制度はまだまだ使い途があるように思います。
(規定例)
第00条(賃金の決定基準)
(1)正社員の基本給は月給制にて、経験や能力、役割、業績への貢献度等を総合的に勘案して支給します。
(2)パート社員の基本給は時給制にて職務内容や勤務シフト、世間相場を勘案して支給するものとし、個別に雇用契約書において定めます。
(以下次号)
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)