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同一労働、同一賃金!!その対策を考える その4(2021.4月号) | 社会保険労務士法人ラポール|なにわ式賃金研究所

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2021年1月~12月

同一労働、同一賃金!!その対策を考える その4(2021.4月号)

●同一労働、同一賃金!!その対策を考える その4(2021.4月号)  

●同一労働、同一賃金!!その対策を考える その4(2021.4月号)

(前号その3からの続き 具体的対策案)


3.職務の内容に違いを設ける(パートには基幹業務をさせない)


3要素のうち、第一要素である「職務の内容」に明からな相違を設けることで、待遇差があっても不合理と判断されないようにします。具体的には以下2点のいずれかにて明確な違いを設けます。

(1)職種は同じでも、非正規社員には中核的業務を行わせないか、または簡易業務のみに従事させる。
(2)職種は同じでも、責任の程度に違いを設ける。


(2)の責任の程度とは例示すると以下のようなものがあります。
(ア)単独契約できる可否
(イ)管理する部下の数
(ウ)決裁権限の範囲
(エ)ノルマの有無
(オ)トラブルや緊急時対応の有無
(カ)時間外労働の必要度
(キ)成果への責任の度合い

特に小規模企業の場合、この「職務の内容」で相違を設けておくことが重要です。何故なら次に述べる「人材活用の仕組み」で違いを設けるのは、物理的に困難であるケースが想像されるからです。
例えば拠点が1か所しかない場合、そもそも正社員でも転勤があり得ません。職務の変更においても例えば事務で雇った人を営業に変更することは通常予定されていないからです。

 

4.人材活用の仕組みに違いを設ける(パートは限定契約を活用)


第二要素に違いを設けます。拠点が複数個所ある場合や、ジョブローテーションが可能な企業であれば、3要素のうち第二要素である「人材活用の仕組み」に違いを設けておきます。人材活用の違いとは以下のようなものが考えられます。

(1)転勤の有無(正社員・非正規社員双方に転勤がある場合でも、正社員は全国転勤、パートはエリア限定転勤であれば同一とはならない)
(2)昇進の有無(役職の変化)
(3)昇格の有無(職能資格の変化)
(4)職務内容の変更の有無
(5)キャリア形成の有無(ゼネラリストやスペシャリストへの上昇)
(6)出向・転籍の有無
(7)人事考課の有無
(8)役割の変更の有無(指導・監督・管理・成績連動など)


特にパート有期雇用社員と限定契約を結ぶことは有効な手段と思われます。何を限定するかといえば、それは、職務・勤務場所・勤務時間のいずれかです。通常正社員の場合は、辞令1枚で職務変更や転勤に応じる義務がありますが、パート有期雇用社員は、本人の同意がない限り、人事権によって異動は行わないことを雇用契約書で明示しておきます。

(雇用契約書例 勤務地限定の場合)

勤務地限定 有期雇用社員契約書
勤務地:○○店(本人の同意がない限り、他の勤務地へ転勤することはありません)

 

5.その他の事情をできるだけたくさん設ける


3要素のうち、第一要素と第二要素のいずれかにて違いを設けるのが大原則ですが、第三要素である「その他の事情」をできるだけたくさん設定するのも有効な手段となります。その他の事情とは以下のようなものが考えられます。

(1)他の待遇とのバランス(ある待遇差が不合理でも、それを補填するその他の待遇を設ける)
(2)定年後の再雇用    
(3)労使協議の在り方(その相違が労使で真摯に話し合って決まっていることかどうか)
(4)正社員登用の有無 (一定の要件のもと希望があれば正社員化のチャンスを与えるもので、ずっと非正規社員で固定化することを妨げる事実となる) 
(5)成果・能力・経験・役割の違い
(6)合理的な慣行
(7)残業の有無(非正規社員には一切残業をさせない)
(8)所定労働時間の違い(労働時間に比例した待遇差は不合理とは言えない)
(9)年金や高年齢継続給付の有無
(10)採用の目的(長期勤続とキャリアアップを志向する正社員に対して、パートは一時的、簡易業務を補うためなど)
(11)勤務形態の違い(パートは毎週2日休みだが正社員は変形労働時間制の適用とか、パートはテレワークや兼業を認めるなど)
(12)住居事情(近隣か遠方か)
(13)家族事情(扶養義務の有無)
(14)年収ベースの比較

 

6.3要素に違いがあることを対比表で明確化する(特に「その他の事情」)


上記3から5までに記載した、いわゆる3要素の相違を対比表を作って明示しておきます。例えば就業規則の巻末に以下のような対比表を載せておきます。

(対比表 例)

職務内容・人材活用の仕組みその他の比較表
    ■正社員             ■パート・有期雇用社員
◎人事異動 包括契約(職務、勤務場所等無限定) 限定契約(職務、勤務場所等 本人の同意要)
◎業務内容 包括契約(あらゆる業務を行う可能性) 限定契約(中核業務・トラブル対応・ノルマなし)
◎人事制度 キャリアパス、人事考課による査定     なし(マイナス査定なし)
◎時間外労働 36協定の範囲で無限定         なし

 

7.各手当の趣旨目的を明確化する


今回の法改正により法条文に「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして」という文言が新たに入りました。この意味するところは、当該待遇の趣旨目的を明らかにしておかなければならないことを意味します(現在の労契法20条の紛争でも実務はそのようになっている)。

今まで我々専門家もそうですが、賃金規程に支給要件は記載することはあっても、その手当の目的や趣旨まで記載することはしてきませんでした。そうすると、後付けの理由を付けざるを得ず、論拠としては弱くなり、或いは裁判所が独自に趣旨目的を判断してしまうことになります。
つまり賃金規程の各手当の条文ごとに、その手当の支給条件だけでなく趣旨目的を記載しておけば、司法はそれを尊重して判断してくれる可能性が高くなったのです。そこで代表的に登場する手当についてその記載例を提示します。


(1)家族手当 

長期雇用を前提とし、その間の家族構成の変化による生計費の増減を踏まえ、中核的人材の確保、育成、定着を目的とし、長く会社に貢献してくれることを期待して、以下の基準により支給する。

※旧来は生活援護として支給していることが多いかと思われる。しかしこの趣旨だと非正規社員で世帯主であるにもかかわらず未支給の場合に説明がつかない。

※ただ2020年10月の最高裁判決によると、手当に関しては有為人材の確保育成という理屈を認めない判断をしている。非正規社員であっても家族手当の支給要件に該当し、かつ長期勤続となっているかそれが見込まれる場合は、3要素に相違があっても不合理だと判断している。ただ、それであっても有為人材の確保、定着のために必要なのだという旗は降ろすべきではないと考えている。

※長期勤続がいかほどの長さを言うのか?判然としないが、日本郵政事件ではおおよそ10年くらい継続していたようだが、できれば5年経過した非正規社員には、家族手当を正社員と同じように付けることも検討を要する。ただ短時間パートの場合は、割合的に減額するか不支給であっても不合理とされない余地はあると考えられる。


(2)住宅手当

長期雇用を前提とし、その間の広範な異動(転勤、出向など)や生活環境の変化に対する住居費の負担を考慮して、中核的人材の確保、育成、定着を目的とし、長く会社に貢献してくれることを期待して、以下の基準により支給する。

※ただ2020年10月の最高裁判決によると、手当に関しては有為人材の確保育成という理屈を認めない判断をしている。非正規社員であっても住宅手当の支給要件に該当し、かつ正社員に全国転勤がない場合や正社員非正規社員ともに転勤が予定されている場合には、3要素に相違があっても不合理だと判断している。ただ、それであっても有為人材の確保、定着のために必要なのだという旗は降ろすべきではないと考えている。

※ただ安全を期すのであれば、5年程度経過した非正規社員には、住宅手当を正社員と同じように付けることも検討を要する。ただ短時間パートの場合は、割合的に減額するか不支給であっても不合理とされない余地はあると考えられる。

※家族手当の長期勤続へ期待論、住宅手当の転居要件論は被告となった会社の規程からは全く出てこず、裁判所がこのように趣旨目的を解釈したものと言える。従って今後は、これと異なる運用になるのであれば、独自の趣旨目的を記載すべきと考える。


(3)役職手当 

役職者として会社から任命された従業員につき、会社の業績向上に資するための特別な責任や役割に対して、以下の基準により支給する。

※任命されることで権利が発生するので、そもそも任命しなければ当然に支給しなくて構わない。これは正社員同士でも同じで、実務上あまり問題にならないと思われる。


(4)皆勤手当

正社員は広範または困難な業務を将来にわたって行うために、欠員による周囲への影響が大きくなることが予想され、代替可能性も低いことから、正社員の出勤督励として以下の基準により支給する。

※皆勤手当は2018年の最高裁判決では、ドライバーの確保の趣旨からは正社員も非正規社員も同じなので、格差は不合理と判断されている。しかしこれは第一要素、いわゆる職務内容が全く同じケースだったことが影響している。職務内容に相当の違いがあれば、正社員にだけ手当で出勤督励する理屈も可能なのではと考える。


(5)○○手当(包括的に使用)

長期雇用を前提とし、職務内容の違いを考慮して、トラブル対応や緊急業務に対応する正社員の負荷に報い、定着を図り、幹部候補生として育成してゆく目的で正社員に対して支給する。

 

8.リスクの高い手当は他の原資へ統合する


正社員のみに付けている手当でリスクが高いと考えられるのが以下のものです。

家族手当・住宅手当・皆勤手当・(特殊)作業手当・職務手当・運転手当・その他趣旨目的が明らかにできない手当

こういった手当は極力廃止し、その原資を基本給など他の課目に統合する方がリスクは低減されます。例えば皆勤手当の場合、出勤督励がその最大の目的ですが、非正規社員には督励する意味はないのかといえば、疑問の残るところです。
但し正社員は1日たりとも欠勤されるとダメージが大きく、パートの場合はダメージが少ないので督励の必要性が低いといった事情の場合、或いはパートには皆勤手当がない代わりに皆勤であれば時給がアップするような事情の場合、不合理とまでは言えない余地もありますが、リスクは残ります。
廃止してしまえば、不合理性の判断自体が不可能となり、総額にて格差があっても問題となりません。ちなみに敗訴した日本郵政では手当を基本給に統合して行っているようです。

 

9.賞与は100対ゼロ(オールorナッシング)は避ける


賞与にはさまざまな目的がありますが、その中で業績配分という視点もあります。ただそうした場合、パートの貢献度はゼロか?といえば、疑問が残るところです。生活保障、賃金の後払い、将来への期待など他の目的を考えても、100対ゼロで勝負するのはかなりリスクが高いと思われます。

と、2020年の最高裁判決が出るまでは、そのように考えていました。しかし最高裁はいわゆる正社員の有為人材確保のためという、ふわっとした理由で非正規社員の不支給は不合理とまでは言えないと判断しています。ケース判断であるため、その射程がどこまで及ぶかは不明ですが、すくなくとも3要素に相違のある正社員を優遇することで正社員にのみ賞与を支給することは可能である道が開けました。

ただ注意を要するのは、賞与の支給目的を業績配分(功労報償)だけにしないことです。これはリスクが高いです。

できればモチベーションのためにも、とりあえずゼロは避け、幾ばくかは支給しておくことが賢明です。特に長期になっている非正規社員に当てはまります。寸志でも出しておけば理屈は何とか付けられます。正社員との割合差は会社の判断で結構です。その判断を不合理とはなかなか認定できないのではないかと思われます。
しかしゼロにしてしまうと、不合理となった場合、司法が勝手に8割支払えとか判断してしまいますので、そうなるリスクを減らす道は、ゼロは避けた方が良いと思います。

一部支給でも大幅な原資アップとなり、困難な場合は、「職務の内容(第一要素)」、「人材活用の仕組み(第二要素)」のいずれにも違いを設け、「その他の事情(第三要素)」を盛り込むことです。

但し正社員の人事考課制度がきちっと機能している場合は、パートはゼロでも行ける余地がありますが、人事制度の内容にかなり左右されます。
(規定例)

(賞与の目的)
第00条  賞与は長期雇用を前提とした中核的職務を担う正社員に対する功労報償だけでなく、生活援護、将来への動機付けその他総合的な目的をもって正社員を手厚く処遇することで、正社員としての職務を遂行し得る有為な人材の確保・育成・定着を図る趣旨であり、支給額はその都度会社の判断により決定する。

 

10.退職金は触らない


退職金についてはガイドラインもなく、司法判断でも判然としなかったのですが、2020年の最高裁判決により、賞与と同じく正社員の有為人材確保のためという趣旨が認められ、非正規社員に支給しないことが不合理とはいえないと判断されました。3要素に相違が認められれば、100対ゼロでも通用することを意味し、改定する必要性はなくなったと判断します。
ただ一応、現行の正社員に適用される退職金規程に以下のような条文を入れておくのは有用かもしれません。

(規定例)

(退職金の目的)
第00条  退職金は長期雇用を前提とした中核的職務を担う正社員に対する功労報償だけでなく、生活援護、将来への動機付け、賃金の後払いその他総合的な目的をもって正社員を手厚く処遇することで、正社員としての職務を遂行し得る有為な人材の確保・育成・定着を図る趣旨であり、支給額は以下の通りとする。


(以下次号)

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