メニュー

同一労働、同一賃金!!その対策を考える その5(2021.5月号) | 社会保険労務士法人ラポール|なにわ式賃金研究所

インフォメーション(過去のメルマガ)

2021年1月~12月

同一労働、同一賃金!!その対策を考える その5(2021.5月号)

●同一労働、同一賃金!!その対策を考える その4(2021.5月号)  

●同一労働、同一賃金!!その対策を考える その5(2021.5月号)

(前号その4からの続き 具体的対策案)


11.正社員に人事制度(賃金制度、評価制度、等級制度、キャリアパス)を導入する


いわゆる同一労働同一賃金をめぐる裁判における判決文や政府のガイドラインにおいて、正社員に人事制度が設計されており、きちんと運用されていればかなり会社に有利な材料になることが暗示されています。前回、非正規社員に対する賞与のゼロはリスクが残るとか、多くの手当は廃止した方が良いと言いましたが、これらも人事制度がきちんと機能していれば別の判断があり得るところです。
例えば人事制度の考え方の違いとして、

(規定例)

正社員:多様な職務を経験させることを前提に人間力を含めて長期的に育成を行って行く主旨のもと、能力給を導入し、将来の多様なキャリアパスを整備し、人事考課によって時には厳しい査定を受けることがある

パート:キャリアアップは予定しておらず、簡易な職務のもと世間相場を勘案する程度で賃金を決定する

としている場合など、賃金の決定基準の違いのくだりで申したのと同様、そもそも同じ土俵で不合理性を判断できないのではないかと思われますし、仮に同じ土俵に乗るとしても、明らかに人事処遇制度が異なるため合理的かどうかはともかく、少なくとも不合理とすることはできないと考えられるからです。

従って、今後は鉛筆ナメナメでなんとなく正社員の処遇を決定するのではなく、人事制度を導入して処遇コースを分けておくのが安全策の一つと言えます。


12.無期転換パートを奨励する


有期労働契約を5年経過すると、希望により無期契約に転換できる制度があります。当初は雇止めができなくなる無期転換を敬遠する動きが大勢でしたが、慢性的な人手不足もあって人材つなぎ止めの必要性が大きくなると共に、予想されたほど希望者も多くなかったことから、無期転換に対する抵抗がなくなってきているように思います。

であれば、むしろ有期フルタイム者の無期転換を積極的に促し、場合によっては5年を待たずに転換できる制度を作って誘導してゆくのも効果的な対策の一つとなります。
何故なら、フルタイムで無期転換した者は、有期でも短時間でもないため、パート有期雇用法の保護下の対象外となるからです。つまり正社員との待遇差があっても比較対象にできないのです。

また有期またはパート雇用者を無期の誰と比較して不合理性を判断するかといえば、一般的には最も近い立場にある労働者です(原告は自分に一番近い人を指定してくる)。そして無期転換した場合、通常は転換前と同条件にて期間だけがなくなることがほとんどであり、そうすると無期転換していない有期、パート労働者との待遇格差がもともとないことになり、不合理性が判断できなくなることが予想されるのです。

また非正規社員の一つ上に、無期フルタイムで職務内容や人材活用の仕組みは同じ階層を設けておくことも考えられます。
また無期転換者がいることは、有期という非正規を固定化しないエビデンスにもなるため、会社にとっても有利な材料となり得ます。


13.有期契約は5年を超えて更新しない


日本郵便事件は会社が負けた事案ですが、その大きな事由の一つは10年以上の長期勤続をしている非正規社員が多数いたことです。家族手当の規定例のくだりでも申しましたが、長期勤続者がいる事実または長期勤続が見込まれる雇い方をしていると、不利な材料として扱われますので、無期転換権が発生する5年を目途に、最初の契約段階から5年を超える更新はしないことを合意し、実際に厳格に雇止めを行っていれば、長期だから…という理由で不合理と判断されることを排除できるものと考えられます。

(雇用契約書例)

雇用期間:令和  年  月  日~令和  年  月  日

(1)会社は次の各号の全てが充足された場合に限り、労働者との労働契約を更新する。更新するときは再度労働条件を見直す。

ア 就業規則、誓約書その他会社のルールを遵守できること
イ 常に上司の指示をよく守り他の従業員と協調して職務を遂行できること
ウ 契約期間中に無断欠勤、遅刻をしていないこと
エ ・・・・・

(2)前号により更新する場合でも、通算5年を超えて更新しない。
※最終年の契約では(1)(2)の記載は、(1)本契約をもって更新はせず終了する と記載します。


14.有期契約は定年を設けない


そもそも論になりますが、有期契約社員には定年という概念はありません。その都度契約更新するか、期間満了となるかのどちらかです。
定年後の再雇用者には無期転換との関係で、第二定年を設けることはあり得ますが、これはレアケースです。

有期社員に60歳定年制があると、60歳まで更新される期待を抱かせる要素になりかねません。最高裁が判旨する「継続的な勤務が見込まれる労働者」を基礎づける事実として補強され兼ねないのです。
従って前記の通り、最初から5年で打留めするとか、契約の上限(例えば60歳を超えて更新することはないなど)を設けておくぐらいに留めておくべきでしょう。


15.正社員登用制度を設ける


正社員へ転換できる制度を構築しておくことは、第三要素であるその他の事情として考慮されやすいことが、2020年最高裁判決ではっきりしました。何故なら非正規社員の身分をずっと固定化するのではなく、希望があれば正社員になれるチャンスがある会社ということになるからです。
旧のパートタイム労働法においても第13条において通常の労働者への転換策を4つのメニューの中から選択して導入することが義務付けられていますが、そのメニューの一つが正社員登用制度です。まだ全く導入していない場合はもちろんのこと、他のメニューを選択している場合でも、正社員転換制度を導入しておきたいものです。

またキャリアップ助成金の正社員転換コースは、正社員転換した非正規社員の実績づくりにも資するものがありますので、同一労働同一賃金を考えた場合、より使う価値のあるものになったと思います。


16.正社員と非正規社員の就業規則を分離する


パート有期雇用法おいて違法と判断されても、将来にわたって契約内容を修正する補充効はありません。したがって仮に違法と判断されても直ちに正社員の就業規則が適用されるのではないのですが、規程が分離されていないと、契約論として正社員の就業規則が適用されてしまうリスクがあります。実質的に補充されてしまうのです。

司法ではまず正社員と非正規社員に適用される就業規則はどれかが吟味されます。リスクの高い就業規則の適用範囲の文言は次のようなものです。
第00条 この就業規則は会社の従業員に適用する。但し有期契約社員は別に定める。
    
このような場合で、別冊の有期契約社員用の就業規則がないようなケースです。そうすると会社の従業員とは全従業員と解釈され、有期やパートも対象となってしまい、結果的に将来の労働条件も修正され、実質補充効と同じことになってしまうからです。


■その他 手当・福利に関する留意事項

1.格差自体が認められない手当

3要素に相違があろうがなかろうが、不合理とされる代表的なものが「通勤手当」、「食事手当」、「出張旅費」です。これらはいずれも実費弁償的なものであり、いわゆる3要素の「職務の内容」、「人材活用の仕組み」が同じであろうが違いがあろうが関係なく、不支給にすると不合理となってしまうものです。

但し通勤手当の場合、正社員は広範な地域から採用するため上限なし、パートは地域限定のため上限有りとか、或いは正社員は1ヶ月定期実費だが、パートは1日単価×出勤日数などの違いは許容されます。

2.リスクの高い手当

3要素のうち第一要素である「職務の内容」が同じであれば不合理となりやすい手当に、「皆勤手当」、「作業手当」、「無事故手当」、「運転手当」、その他安全管理上必要な手当があります。これらは職務との関連性が強いものですので、「人材活用の仕組み」の違いにかかわらず、職務が同一であれば不合理とされる可能性が極めて高い手当です。

従って同じ仕事なら同様に付けるか、または廃止して基本給に組み入れる方が安全です。ただ「皆勤手当」は前回 手当の規定例でも述べた通り、職務内容に相当の違いがあれば、正社員にだけ手当を付けて出勤督励する理屈も可能なのではと考えられます。

3.労働時間に比例して差を付けるのは許容される

2020年最高裁判決でも判然としないところはありますが、割合的差異は許容されると思われます。
仮に正社員と非正規社員に同じように支給しなければならないとしても、労働時間に比例して差を付けるのは構いません。例えば正社員の皆勤手当月20日平均で1万円、非正規社員のシフトが月15日であるため、4分の3の7,500円とするような場合です。

4.福利厚生

一口に福利厚生といっても、さまざまなものがあり、個別に判断される手法は賃金と同じなので画一的に説明することは困難なのですが、傾向として、第一要素である職務の内容や、第二要素の人材活用の仕組みで相違を設けたとしても、その相違から説明ができないものは不合理とされます。また基本給・賞与・退職金で通じる有為人材確保のためという使用者にとって都合の良いふわっとした理由は通じない傾向があります。

中小企業でも慶弔休暇は必ず登場しますが、長期の非正規社員は同じにするのが賢明で、正社員だけ有給の慶弔休暇は困難と思われます。但し日数に差異を設けることは不可能ではありません。5年を超えれば非正規社員にも同じように認めることを検討すべきでしょう。

 

(以下次号)


(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

お問い合わせ