2021年1月~12月
同一労働、同一賃金!!その対策を考える その6 (2021.6月号)
●同一労働、同一賃金!!その対策を考える その6(2021.6月号)
中小企業の見直し手順・方法
1.これから見直しを行うための手順
今後会社内で不合理な待遇格差はないかをまず洗い出し、点検して行くことが求められます。これに関し、厚生労働省が「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」という分厚い冊子を公開し、手順例を示していますが、もっと簡単にできる方法をご紹介します。
(1)まず会社内にあるすべての待遇の中で、正社員と非正規社員に違いのあるものをピックアップします。待遇は賃金だけでなく、福利厚生、教育訓練、休暇、安全衛生などあらゆる待遇が対象となるものです。
(2)ピックアップができたら以下のようなマトリクス表を作り、相違のあった待遇を縦軸に入れ、横軸に社員の種類をもってきて、枠の中にその違いを簡潔に記入します(金額、支給のありなし など)。
正社員 定年嘱託 有期契約 短時間パート
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基本給 | 経験能力 一律定額 個別契約 個別契約
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昇給 | 4月定期昇給 なし 不定期 不定期
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家族手当 | 1人5千円 なし なし なし
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資格手当 | 1万円 5千円 1万円 なし
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通勤手当 | 全額 全額 2万円上限 なし
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賞与 | あり なし あり なし
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制服 | 貸与 貸与 貸与 なし
______|_______|_________|______|__________
社員旅行 | 全員 全員 希望者 希望者
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有給休暇 | 基準日方式 基準日方式 入社日方式 入社日方式
(3)表が完成したら、さらに社員の種類ごとに次のマトリクスを作ります。縦軸に相違のあった待遇を抜き出し、横軸に3要素をおき、各相違が説明できるかを検討します。
(上表から有期契約社員との比較 例) ◎充分説明可能 ×説明つかず
A職務の内容 B人材活用の仕組み Cその他の事情
(中核 責任) (異動 人事処遇)
______|_______|_______ |________|
基本給 | ◎ ◎ ◎
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昇給 | ◎ × ◎
______|_______|_________|________|
家族手当 | ◎ ◎ ×
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通勤手当 ◎ × ×
______|_______|_________|________|
社員旅行 | ◎ × ◎
______|_______|_________|________|
有給休暇 | ◎ × ×
(4)説明がつくのであれば、当面処置なし。説明がつかないのであれば次へ。
説明がつく場合とは、、、、、
(上表A、B、Cの三つとも◎か、または、A、Bいずれかが◎で、Cも◎)
つまり上表の例だと、「通勤手当」と「有給休暇」は説明がつかないので、対策が必要。
前に均等待遇と均衡待遇の説明のくだりで、こんな図を掲示し、表中の5から7のパターンを目指すことを提案しました。
A職務の内容 B職務の内容、 Cその他の事情
配置の変更の範囲
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1 同じ(×) 同じ(×) ― ⇒ 均等待遇(差別的取り扱い禁止)
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2 同じ(×) 異なる(◎) ― ⇒ 均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)
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3 異なる(◎) 同じ(×) ― ⇒ 均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)
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4 異なる(◎) 異なる(◎) なし(×) ⇒ 均衡待遇(不合理な待遇差の禁止)
↑ パート・有期雇用労働法の規制の対象
↓ パート・有期雇用労働法の規制の対象外
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5 同じ(×) 異なる(◎) あり(◎) ⇒ 待遇差は違法ではない可能性あり
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6 異なる(◎) 同じ(×) あり(◎) ⇒ 待遇差は違法ではない可能性あり
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7 異なる(◎) 異なる(◎) あり(◎) ⇒ 待遇差は違法ではない
つまり◎は「異なる」と「あり」、×は「同じ」「なし」に置き換えて見てみて、5から7のパターンになっているかを検証するものです。
(5)正社員と同じにできるかをまず検討し、それが困難なら先述「具体的対策、やり方」の1から16の中から取り得る対策を講じる。
(6)講じた対策を就業規則に規定する(可能であれば個別に同意書を取る)
2.要するに待遇差の説明ができるかどうかがポイントとなる
今回のパート有期雇用法改正において、「待遇の相違の内容及び理由」の説明義務が新たに加わりました(パート有期雇用法第14条2項)。これは行政が指導・勧告する場合の対象ともなりますし、司法の場でもこの説明がきちんとできるかどうかが不合理性判断のポイントになるのです。
上記1で洗い出した各待遇の相違を非正規社員から問われたとき、曖昧な回答しかできないようでは勝負は見えていますし、労務管理で重要な納得性の観点からも不都合と言えます。従って相違はあっても良いが、「この相違は(3要素に基づいて)これこれこういう理由で違いがあるんだ」ときちんと説明できることが極めて重要であり、できればその説明を担保する制度設計が成されていることが望まれます。担当者が変わっても、離れた拠点長が同時に説明しても、規程に基づいて同じ説明ができるかどうかです。
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)