2021年1月~12月
2021最低賃金 大幅アップの影響を予想する(2021.9月号)
●~コロナ禍なのに史上最大の上げ幅(最低28円アップ)に~
2021最低賃金 大幅アップの影響を予想する(2021.9月号)
1.2021年10月1日以降の最低賃金はどうなるか
2021年10月以降に順次改訂される最低賃金の答申が纏まりました。厚生労働省のHPには本稿執筆現在(8月24日)、まだ正式には掲示されていないようですが、最低賃金審議会の答申通りに改定される見込みです。
答申状況 https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000662334.pdf
結論から申しあげますと、全国一律28円アップとなり、青森、秋田、山形、鳥取、島根、佐賀、大分の7県は29円から32円のアップとなりました。
第二次安倍政権以降、全国平均1,000円を目指して官製賃上げとも言われる労組顔負けの大幅アップが続いてきましたが、昨年は新型コロナの影響により、上昇幅はほぼゼロでした。しかし今年は感染爆発と言われるこの第5波の最中でありながら、過去最大の上げ幅となったのです。
関西圏の具体的な数字は下記の通りです。
R3.9月まで R3.10月より
滋賀県 868円 → 896円
京都府 909円 → 937円
大阪府 964円 → 992円
兵庫県 900円 → 928円
奈良県 838円 → 866円
和歌山県 831円 → 859円
2.初任給に与える影響の可能性
今回の最低賃金の引き上げに伴い、最低賃金を下回る方の賃金を見直すのは当然です(おそらくパート社員にそういった方がおられる可能性が高い)。ただ今回の大幅アップはそれだけにとどまらず、新卒社員の初任給に大きな影響を及ぼすことは必定であり、そうなると連動してその初任給近くで在籍する現有社員の給与水準も見直ししなければならなくなる可能性があります。
これを述べる前に、新卒者の初任給がどのような推移を辿ってきたかを確認しましょう。
厚労省が毎年行う賃金構造基本統計調査に基づくと、2019年(令和元年)の初任給相場は以下の通りです(全国 男女平均)。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450091&tstat=000001011429
大卒者 209,850円
高卒者 166,750円
この初任給相場ですが、実は企業規模や地域で余り大きな差はなく、かつ、長年横ばいで推移してきました。極めて安定した価額?を維持する優等生といったところでしょうか?
昭和51年から令和元年までの推移を見ると、平成6年あたりまでは右肩上がりで上昇していました。ところが平成7年からほとんど増えなくなり、前年比でマイナスになる年すらあります。例えば、
昭和51年から平成6年まで19年間の 大卒の上昇額97,500円(1年あたり5,131円 平均アップ率4.1%) 高卒の上昇額74,500円(1年あたり3,921円 平均アップ率3.9%)
平成7年から平成31年まで25年間の 大卒の上昇額20,750円(1年あたり830円 平均アップ率0.44%) 高卒の上昇額17,400円(1年あたり696円 平均アップ率0.4%)
つまりこの25年間はほとんどアップせず、すっと横ばいが続いていたのです。この給料が上がらないことこそデフレの正体かもしれません。
しかし2021年は先述の通り、最低賃金が28円上昇することで、この横ばいの初任給にも影響を及ぼさざるを得なくなるのです。
どういうことかというと、1日8時間の会社で、週40時間を達成するには年間休日が105日必要です。7時間30分の会社ですと、96日となりますが、このようにギリギリの休日数で運用している会社も相当数あり、この場合の1ヶ月平均の所定労働時間は173時間となります。
キリが良いので170時間としても、大阪府の最低賃金992円を掛け合わせると、168,640円となります。
先ほど高卒者の令和元年の初任給は166,750円と申しました。つまり最低賃金を1,890円下回ってしまうのです。
大阪より最低賃金の高い東京の場合、2021年の最低賃金は1,041円です。同様に掛け算すると、176,970円となります。そうすると東京圏(神奈川も大阪より高い1,040円)の高卒初任給は17万円台後半で募集が出てくることに成らざるをえないのです。これが今まで格差の少なかった初任給相場に波及し、対抗するためには関西圏でも同様の金額提示をしなければならないことは充分に考えられます。
関西圏だけで考えても、今までの高卒初任給では最低賃金すら下回る事態となり、必然的に引き上げをせざるを得ず、そうすると4大卒生との均衡上、大卒初任給も連動して上昇するかも知れません。
中小企業では中途採用でも職種によっては20万円を切る水準で応募を掛けることがありますが、新米である大卒初任給ですら21万円台に乗る見込みの中、今までの中途採用初任給水準も連動して引上げざるを得なくなるでしょう。
さらに数年の勤続年数を数える現有社員がこの相場に張り付いていると、中途採用初任給との逆転現象が起こるため、現有社員の給与も引き上げざるを得なくなるのです。
これこそ賃金上昇→消費喚起→企業業績アップ→再生産(更なる賃上げ、設備投資)→物価上昇→デフレ脱却 というシナリオなのでしょう。生産性を上げられない企業は退場を迫られ、労働者は生産性の高い企業へ集約されてゆくのでしょう。
コロナ禍で働き方改革という言葉もすっかり息を潜めることとなりましたが、着実とコロナの陰で動いています。コロナも大変ですが、長い目で見ればこの生産性革命に生き残ることも極めて大切な命題です。今年の最低賃金はまさにのその転機になって行くのかもしれません。
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)