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退職金とは何かを考える(2021.11月号) | 社会保険労務士法人ラポール|なにわ式賃金研究所

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2021年1月~12月

退職金とは何かを考える(2021.11月号)

●退職金とは何かを考える(2021.11月号)

~意味のあるお金になっていますか~

   

 

退職金に関する私見です。これからは退職金制度は作ってはいけない、従来の退職金制度は廃止または大幅修正すべきである。そもそもその退職金って本当に必要ですか?


江戸時代の暖簾分けに起源があるとか、高度経済成長期に長期勤続続を奨励するることで技量アップした職人の引き留め策として発達したとか、退職金に関しては諸説ありますが、その役割は終わったのではないかと考えています。

少なくとも、多くの企業で採用されている、「退職時の基本給×勤続年数係数×退職事由係数」という算式によって中途退職者に出すのは全く意味のないお金とすら思うのですが、言い過ぎでしょうか?


退職金の話をする場合、よくお客様が混同されるのは、退職金制度と退職金積み立てです。この二つは良く混同されます。今私が問題にしているのは前者の退職金制度のことです。簡単に両者の違いを説明しますと、

退職金制度とは・・・・就業規則の一部で、資格要件、支給額などのルールが規定化されたもの。一度規定すると、廃止や減額が法的にはかなり困難になるもの。

退職金積み立て・・・・退職金支給のために、外部の機関と契約し、原資を確保しておくもの。中小企業退職金共済に加入していることは退職金積み立てをしているのであり、これ自体は退職金制度ではない。

私が特に問題視しているのは、確定給付型で、中途退職者にも手厚い退職金制度です。確定給付型とは、退職したときに一定の支給額が約束されているもので、金額計算が事前に可能な制度のことです。先ほど申し上げた「退職時の基本給×勤続年数係数×退職事由係数」は、まさにこの代表格です。この反対が確定拠出型と言われる型ですが、分かりやすく簡単に例示すると、

確定給付型・・・・・退職時の基本給×勤続年数係数×退職事由係数とか、勤続40年で500万円とか、あらかじめ金額が確定しているもの。積み立て不足のリスクが付きまとう。

確定拠出型・・・・・退職金の原資(掛金)のルールだけを決めるやり方。退職時にいくらになっているかは会社が関知しないもの。積み立てリスクはなし。

積み立てリスクとは、確定給付型の場合、退職時に500万円支給と決まっているが、外部積み立てが420万円しか貯まっていないとしたら、差額の80万円は会社の財布から出す必要があるということです。多くの企業が退職金制度を作った当時は利回りが良く(年率5%以上は当たり前だった)、少ない掛金で多くの積み立てをすることが可能だったのですが、現在はほとんど利回りがないため外部積み立てしても増えず、掛金を大幅アップするか、または退職時に差額を負担しなければならなくなってきています。


雇用環境も退職金制度を作った当時からは、大きく変わりました。長期雇用がある程度約束されており、右肩上がりで月例賃金も増えて行く時代は、若年層に低い賃金で我慢してもらっても将来への期待値から繋ぎ止め効果がありました。しかし大手企業でも新卒一括採用、年更序列は崩壊しつつあり、長期雇用のインセンティブが働きにくい(言い換えれば現在価値が重視される)時代になっています。

このような外部環境の中、本当に退職金は必要なのでしょうか?

私が退職金制度の依頼を受けた時、必ず経営者になぜ退職金なのか?を問います。そこで明確な強い動機があればお作りすることもありますが、それがない場合は、作るべきではないと申し上げています。理由は以下の通りです。

1.現在及び将来予測される経済環境では、積み立て不足を負うリスクが付きまとう(この負債はB/Sに載らないため、隠れ借金と言える)

2.長期雇用へのインセンティブが働きにくい環境になっている(従業員も一生同じ会社に長くいたいとは思っていないし、会社も引き留めておく保証ができない)

3.仮に長期雇用に資するとしても、技術革新が日進月歩の現代では、長くいるから技術力が高まるとも言えない

4.基本給をベースに計算式が組まれている退職金制度を持っていると、将来不確かな退職のために、現在の給与が歪められてしまう(基本給を押さえるために意味不明な手当の乱発など)


5.退職金制度があるから現有社員のモチベーションが上がるなどということはほとんど期待できない(おそらく普段は意識の範囲外)

6.退職金制度があるから求人に有利とも言い難い(求職者の求人を見るポイントとして優先度は低い)

7.中途で辞めて行く社員に投資する意味があるのか疑問

この7番目の理由は特に中小企業経営者にとって感情的に納得しがたい非常に現実的生々しい感覚のことです。多くの中小企業経営者は従業員の退職を常に怖れています。いつ「辞めさせてください」と言われるか、びくびくしている経営者を何人も見て来ています(実は自分もその一人)。むしろ退職によって困るのは、辞める社員ではなく、残される経営者の方かも知れません。一般的には職を失う社員の方が大変、と思われがちですが現実は必ずしもそうではないのです。

多くの中小企業は人員に余裕がなくカツカツでやっている状態で複数担当制にもできず、その職務はその退職者でないと分からないことが多いため、急に辞められるとその仕事を円滑に回すため残った人間がしばらくてんてこ舞いになることがあります。それでも最終責任は経営者にあるため、何とか凌がなければなりません。取引先に対して泣き言は許されないのです。

会社が解雇すると法的に責められますが、従業員は自由に退職できます。一定の蓄えさえあれば失業保険もあるため現実にはそう困りません。しかし居残った者は、しばらく歯を食いしばって凌がねばならない。その辛酸を幾度となく舐めさせられている経営者のなんと多いことか!


このようなケースで、本当に「ご苦労さん、ありがとう」って、退職金を支払って送り出すことが感情的に許容できのでしょうか?どうしても納得しがたい感情の発露は止めようがありません。そうするとこのお金、果たして意味があるの?と思ってしまうのです。辞めて行く社員に支払うくらいなら、今頑張ってくれている社員に還元したい。


その一方で問題社員に円満に退職していただくために特別退職金を出す必要が生じる場合がありますが、経営者から見れば手切れ金となるものです。支給額が過大でなければ退職金規程がなくとも経理処理は可能ですし、出すこと自体は規程がなくとも自由ですから、ないことがデメリットにはなりません。

このような理由から退職金制度には慎重になるべきです。一旦作ってしまうと経営が苦しいからと言って簡単に廃止や減額は法的にできません。ただそそれでも作ると言うのであれば、以下のように設計することをお勧めします。

◆確定給付型ではなく、確定拠出型とし、掛金の拠出にも貢献度を反映させる
◆本当にご苦労さん!!と言えるのはある程度の勤続年数を重ねて勤め上げた人。ならば20年勤続など長期勤続のみを支給要件とするか、または定年退職に限定し老後補助として位置付ける


(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

 

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