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社会保険の適用拡大 迫る(2022.6月号) | 社会保険労務士法人ラポール|なにわ式賃金研究所

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2022年1月~12月

社会保険の適用拡大 迫る(2022.6月号)

●社会保険の適用拡大 迫る(2022.6月号)

 

今年の10月からパートに対する社会保険の適用範囲が拡大されます。今回はこの件について解説します。


1.パートの社会保険 従来はどうだったか

◎加入義務が有る者:正社員に対して1週の労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が4分の3以上の者

例えば正社員が週40時間、1ヶ月の平均所定労働日数が20日の場合、

週30時間以上でかつ、1ヶ月15日以上の場合は時間も日数のどちらも4分の3以上となりますので、加入義務があることとなります。加入義務とは会社や本人の意思に関わりなく強制加入になるということです。

但し4分の3以上であっても以下の者は除かれます。

(1)2か月以内の有期契約で更新が予定されていない者※
(2)健康保険は75歳未満、厚生年金は70歳未満である者

※2か月で契約が終了することが労使合意で明確になっている者のことであり、2か月契約でも更新の可能性がある場合や、同様の雇用形態で2カ月を超えて更新されている実績があれば最初から被保険者となります。

2.パートの社会保険 今後はどうなるのか

(1)企業規模に応じて2段階において適用範囲が拡大されます。

2022年10月より  常時従業員数101人以上の企業

2024年4月より   常時従業員数51人以上の企業 


※従業員数とは同一の法人番号の企業に使用される厚生年金の被保険者の総数が、過去12か月のうち6か月を超えることが見込まれる状態をいいます。このため今回の適用拡大で加入対象となる短時間パートや、70歳以上で厚生年金の資格を喪失している方は数に含めません。

(2)適用拡大となる短時間パートとは次の4要件すべてを満たす者です

一 1週間の所定労働時間が20時間以上であること

二 月額賃金が8.8万円以上であること(よく年間106万円ともいわれていますが、これはあくまでも参考数値です)

三 学生でないこと

四 常時101人以上(2024年4月からは51人以上)の厚生年金被保険者がいる企業(これを特定適用事業所という)

※週20時間以上について

〇雇用保険の加入基準時間と同じになりますので、雇用保険のみ加入している方は、更に上記二から四に該当すれば加入対象となるものです。
〇週によって時間が変動する場合は、平均値を取ります。夏季休暇がある月や繁忙期などイレギュラーな月がある場合は、そのイレギュラーな月以外の通常の月で平均を取ります。
〇1ヶ月単位で時間が定められているときは1か月の所定労働時間を12分の52で除して算出し、1年単位の場合は年間所定労働時間を52で除して算出します。
〇20時間未満であった者が、連続する2か月間で20時間以上となり、その状態が継続する見込みの場合は3か月目の初日に加入義務が発生します。


※8.8万円以上について

〇加入判定するための8.8万円には次の賃金を除外して判定します。但し手続きを行う上での報酬(算定基礎届など)には月当たりの総支給額(通勤手当等をを含む)で計算します。
 ・臨時の賃金や賞与 ・割増賃金 ・精皆勤手当 ・家族手当 ・通勤手当
〇時給などで基本給が毎月変動する場合は、過去1か月間に同様の業務に従事する他のパートの報酬額の平均で算出するとなっていますが、これが困難な場合は個別の雇用契約に基づいて月額賃金を算出します。
〇途中で一時的に8.8万円未満となった場合でも資格喪失しませんが、雇用契約内容の変更により恒常的に8.8万円を下回ることとなった場合は、資格喪失します。


※学生について

〇学生とは高校生、大学または短大生、専修学校の生徒等をいいます。以下の方は学生でも加入対象となります。
・卒業後引き続き特定適用事業所に雇用される学生 ・定時制または通信制課程の学生 ・社会人大学院生
〇ここで論じている学生とは週20時間から30時間未満の学生のことで、いわゆる4分の3基準を満たす場合は学生でも加入対象となります。

3.手続きはどのようになるのか

〇令和3年10月以降において、厚生年金被保険者数が6か月以上100人を超える場合は、8月ごろに日本年金機構から「特定適用事業所該当通知書」が送付され、(2)記載の4要件を満たす方の資格取得届を出さなければなりません。
〇令和3年10月以降において、厚生年金被保険者数が5か月間100人を超える場合は、「特定適用事業所に該当する可能性がある旨のお知らせ」なる勧奨文が届きますので、更に100人を超える場合は会社から「特定事業所該当届」を出さねければなりません。これを出さないでいると、日本年金機構から「特定適用事業所該当通知書」が送付されることとなっています。
〇一旦特定適用事業所となった後に、常時100人以下となる場合でも、引き続き特定適用事業所として扱われます。但し被保険者の4分の3以上の同意を得た場合は、特定適用事業所から外れることができ、20時間から30時間の間の短時間パートは資格喪失することとなります。常時100人以下となる日以後であれば、いつでも外れる手続きは可能です。100人以下が6か月以上継続することなどの要件はありません。

4.その他の留意事項


〇60歳以上で今まで30時間未満だったため加入しておらず、年金を満額受給している高齢者の方は、この適用拡大により在職老齢年金(給与によって年金を調整する仕組みのこと)の対象となる場合があります。
〇よく被扶養者の方の収入要件として130万円というのが出てきますが、これは今回の件と関係ありません。130円未満で働いていても、4分の3基準はもとより特定適用事業所で4要件を満たせば、加入対象となります。
〇今回の適用拡大により、複数の事業所で4要件を満たすダブルワーカーが発生する可能性があり、この場合は「所属選択・二以上事業所勤務届」を出さなければなりません。この場合は賃金や時間は通算せず、各々の企業で4要件を見ることとなります。
〇今回の改正と直接関係ありませんが、多くの会社で家族手当の支給要件を健康保険の扶養認定にリンクさせているケースがあります。そうすると配偶者の家族手当が削減される可能性があります。

5.企業として検討する選択肢

今回の適用拡大にあたり、企業によっては福利厚生費や事務量がアップし、かなり負担になることも予想されます。またパートさんによっては、手取り収入が減ること、扶養家族から外れることを忌避して退職を申し出てくることも想定しておかなければなりません。そこで企業として考え得る選択肢をお示ししますので、経営者が判断してもらうことになります。

(1)加入対象となるパートは全て加入させる(王道コース)
(2)週20時間未満または8.8万円未満となるシフトに変更する
(3)パートの時給を下げる
(4)直接雇用を諦め、派遣や請負、フランちを使う
(5)省人化し、パートなしでも行ける投資を行う
(6)2か所給与とし、どちらか一方、または両方を週20時間未満とする
(7)会社を分割する
(8)企業規模を小さくする

また適用拡大の対象となる週20時間以上30時間未満のパートさんに向けて、社会保険制度の説明会を行い、自ら今のシフト働くのか、そうでないのかを判断してもらうことも考えるべきです。税金と違い、保険料は自分に対するリターンがありますので、メリットもあることを理解した上で、大局的に考えてもらうことが大切です。


厚生労働省では「社会保険適用拡大特設サイト」を公開しており、増額する社会保険料のシュミレーションなど様々な資料を用意しています。
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/

なお、ここからは蛇足ながら…
100人以下の企業は、今夏あたりからパート採用のチャンスを迎えるかもそれません。何故なら、101人以上の企業において社会保険に加入するのを嫌い、100人以下の企業へ転職する行動が一定数、予想されるからです。
そうすると求人の出し方としては、「100人以下の会社です、週30時間以下なら雇用保険だけの加入OK」などとキャッチコピーで謡うこととなります。


(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

 

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