2023年1月~12月
物流業界だけの問題では済まない一般企業、国民にも大きな影響が及ぶ、1年後に迫ったトラック運送業の2024年問題(2023.4月号)
~物流業界だけの問題では済まない一般企業、国民にも大きな影響が及ぶ~●1年後に迫ったトラック運送業の2024年問題(2023.4月号)
皆さまはトラック運送業界の2004年問題というのをお聞きになったjことがあるでしょうか?
「聞いたことはあるが、ウチは運送業じゃないから関係ない」って思われているとしたらそれは間違いです。
またご存じない方は、この機会に何が問題なのかを知って頂くことで、運送業の問題だけじゃ済まないこと、広く一般国民にも大きな影響が及ぶ可能性のある問題であることを理解しましょう。
働き方改革って、皆さん覚えておられますか?コロナ前は連日のように新聞紙上を賑わせましたが、コロナ下であまり語られなくなりました。しかしこの間も静かに進行しており、例えば本年4月からは中小企業の60時間を超える時間外労働の割増率が50%に跳ね上がりますが、これもいわゆる働き方改革関連法の一部です。
そして今回取り上げるトラック運送業の2024年問題とは、2024年4月からトラック運送業※にも労働時間の上限規制が適用になるというものです。※厳密には運送業に限定されず、自動車運転の業務に従事する方が対象となっている。
2019年4月(中小企業は2020年4月)から一般企業においては既に時間外労働の上限規制が適用され、残業させる場合は原則1か月45時間、年間360時間が法律上の上限となりました。
しかし建設業、医師及びトラック運送業はその事業の特殊性から規制が5年猶予されていたのですが、いよいよ来年4月より規制が適用強化されます。
その内容は非常に細かいため、ここでは割愛し巻末に概要を記載しておきますが、要するにドライバーに働かせることができる時間が現状よりかなり減ることになるのです。
そもそもトラックドライバーは、厚労省の統計によると、年間所得は全産業平均より5%低く、それなのに年間労働時間は長くなっている現状があります(大型トラックで432時間、中小型トラックで384時間長い)。
先般、野村総合研究所が2024年問題が物流に与える影響を試算して発表しています。それによりますと2025年において全国平均で28%、2030年には実に35%の荷物が運べなくなるとの試算です。近畿圏では2025年に29%、2030年には36%の荷物が滞ると言われています。
現在の物流ネットワークを維持しようとすると、運送料金の値上げや、運送頻度の低下が生じる恐れがあるということです。
既に、ヤマト運輸や佐川急便など大手運送事業者は運賃の値上げを発表していますし、日本郵政などのように土日配送を停止しているところもあり、この動きは今後加速していくことが見込まれます。
今後いくらネット社会が進化しようとも、アニメの世界に出て来るような瞬間物質転送機が発明でもされない限り、世の中の全ての荷物、食糧は物流ネットワークがないと機能しません。トラックが無くなれば材料や部品が届かず、工場は製品を作ることが出来ません。お店の棚にはには商品が並んでいないこととなります。仮に工場が作っても届けることができず、買っても商品が届かない、そんな不便では済まない状況になってしまいます。
自動運転技術が進化し、人間がいなくともトラックがあれば配送できるシステムが整えば問題は解消されるかも知れませんが、とても2030年までに実現するとは思えません。
また、ドライバーは慢性的に人手不足で有効獣人倍率も常に3倍超で推移し、今後労働力人口が激減して行く中で、急に需給ギャップを埋め合わせできるだけのドライバーが確保できる見込みもありません。
そうすると社会機能を維持して行くためには、、物流事業者の努力だけでなく、荷主や消費者も協力をしなければなりません。そうすると何を協力すればよいのか?
色々ありますが以下の二つを減らすだけでも相当の効果が期待できます。
◎荷主の立場からやるべきことは → 長時間の荷待ちをさせないこと
◎消費者の立場からやるべきこと → 時間指定配送や再配達をさせないこと
トラック協会が発表している国土交通省の資料によると、荷主に起因する原因で49%を占めるのが、この長時間の荷待ちだそうです。他にも過積載とか依頼にない付帯業務などの要因も上がっていますが、おおよそどの要因も10%程度であり、長時間の荷待ちが最も諸悪の根源になっています。
また消費者の立場で見てもアマゾンなどネットによる商品購入は非常に便利ですが、その反面、即日配送や再配達は過剰なサービスや負担となっています。本当にすぐに届けてもらう必要があるのか、もっと時間に余裕をもたせらないのか、必ず在宅している時間帯を指定しているか、これくらいは協力できるはずです。
今後、2024年以降、労働基準監督署の運送事業者に対する臨検指導も厳しくなって行くでしょう。また労基署と陸運局は法違反に対する相互通報制度があり、労基署が違反と認識した情報が陸運局と共有されることなるのですが、
運送事業者は許認可事業であるため、どうしても陸運局の目が気になります。2024年問題に未対応ではいられなくなります。
そういった諸々の事情を斟酌して、社会機能が停滞しないように国民全体でコンプライアンスに取り組もうとする物流業者には協力して行きたいものです。
2024年 トラックドライバーの時間外労働の上限規制(改善基準)の概要
年間の時間外労働の上限 旧 無制限 → 新 960時間
1年間の拘束時間 旧 3,516時間 → 新 3,300時間
1ヶ月の拘束時間 旧 293時間 → 新 284時間
1日の休息時間 旧 継続8時間 → 新 原則継続11時間以上(9時間が下限)
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)