2023年1月~12月
バブル期を超える求人逼迫~多様な働き方、求職者のわがままに応えられるか (2023.7月号)
~バブル期を超える求人逼迫~●多様な働き方、求職者のわがままに応えられるか (2023.7月号)
求人情勢が逼迫しています。経済状況は全く違いますが、そもそも応募がないこの状況は、1980年代後半のいわゆるバブル期に似ています。ただ当時と違うのは多様な雇用形態が求人市場に登場してきていることです。従来の典型的な勤務シフトである日勤フルタイム勤務が静かに崩壊し出しているのです。
これからは好むと好まざるに拘わらず、求職者の多様な就労ニーズ、言いかえると「わがまま」に応えて行けるかどうかが求人の成否を分けることとなる可能性が高いのです。企業の論理としては、毎日決まった時間に決まった人が働いてくれる方が、何かと都合が良いのは明らかです。しかし現代の多様化した求人ニーズに応えていかなければ、競り負けることとなってしまいかねません。
極端な例が「タイミー」です。橋本環奈をキャラクターにして広告宣伝していますので聞き覚えのある方もおられると思いますが、これは求人のマッチングアプリです。即日でシフトの穴埋めを求める企業側と、空き時間に仕事して即金を求める求職者のニーズを結びつけるアプリなのですが、これが結構若者に受けているようです。
これは極端としても、今の若者に対して固定シフトの昭和型の働き方を求めても見向きもされません。
そこでは今、進行している多様な働き方をご紹介すると共に、求人広告とリンクさせることを考えてみたいと思います。
取り上げる柔軟な働き方のバリエーションは、
1.週休3日制
2.短時間正社員
3.1ヶ月単位の変形労働時間制
4.フレックスタイム
5.兼業・副業
6.テレワーク
7.限定正社員
8.時差出勤
9.勤務間インターバル
10.短時間バイトの活用
です。
1.週休3日制
特に日曜日や祝日など、通常多くの人が休日である日に労働者を確保したいサービス関係業種は検討に値する求人方法です。その仕組みは簡単で、法で認められた変形労働時間制(1ヵ月または1年単位)を活用して、以下のような設計にします。
(1)1日の所定労働時間を10時間とする。
(2)1週に3日の休日を与える。
(3)出勤日に土日祝の日を入れる(入れなくともよい)。
(4)就業規則を変更する。
これだけです。つまり人が集まり難い休日に出てもらう代わりに、週3日の休日を約束するのです。しかも1日10時間までは残業代もかかりません。おそらく家族と休日を合わす必要の薄い独身層や、給与の多さよりも休日の確保を重視する若者層者には訴求力があるでしょう。こういった人の立場で考えれば、1回出勤すれば、10時間も8時間もさして変わりはなく、それなら休日が多い方を選択するはずです。しかも総労働時間は通常フルタイム勤務者と同じですから、給与体系を変更する必要もありません。
2.短時間正社員
正社員は毎日8時間で皆と同じ、という先入観に囚われる必要はありません。役割や人材活用の仕組みが同じなら、正社員であっても1日6時間勤務など、変化を付けても構わないのです。例えば小さな子どもを持つ女性労働者を例に考えて見ましょう。保育所への送り迎え、子どもの晩御飯の支度等々、通常の始業終業時刻で拘束されることは躊躇するでしょう。
そもそも現在の育児介護休業法では、1日6時間とする育児のための短時間勤務制度があり、全ての企業に既に義務付けられているのです。従って、フルタイム勤務には制約があるが、正社員として働きたいと考える層にとっては、この短時間正社員制度は魅力的に映るでしょう。但し、給与体系は通常の正社員と同じとはならず、削減される時間に比例して逓減させることとなります。
3.フレックスタイム
フレックスタイムとは始業終業の時刻を従業員の裁量に任せる働き方です(休日を自由に取れる制度ではありません)。ある日には10時間働き、ある日には4時間だけ働くとかが可能となります。
共働きで小さな子供がある従業員がいる場合や、時間で成果が比例しない職種においては検討の余地があるでしょう。この手続きもさして難しくありません。おおよそ以下の手順です。
(1)フレックスタイムの労使協定を労働者代表と締結する(労基署への届出は不要)。
(2)就業規則の改訂する
(3)日ごとではなく、月単位で労働時間を管理する
31日の月:177.1時間以内 30日の月:171.4時間以内
但し、ある程度自己管理できる大人の働き方ができる従業員でないと運用は難しいかもしれません。
4.1ヶ月単位の変形労働時間制
1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内となるように、労働日および労働日ごとの労働時間を柔軟に設定することにより、労働時間が1日8時間、1週に40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えたりすることが可能になる制度で、この範囲内であれば残業代はかかりません。
例えば月末が繁忙な場合、最終週を毎日10時間労働とし、暇な月初は1日6時間とするなどです。この場合月末の10時間は8時間を超えていますが残業代が不要です。しかも10人未満の商業、保健衛生業、接客娯楽業は特例措置対象事業場と言って、1週平均44時間まで設定可能です。この10人未満は会社単位ではなく、場所単位でみます。
1か月内で1日当たりの時間を柔軟に長短させたいときには有効な方法となります。導入は就業規則の変更で可能です。
5.兼業・副業
従来は多くの企業で、兼業・副業は認めて来ませんでした。しかし政府では、この兼業・副業を企業に普及させる方向であり、今までは原則禁止にしていた厚生労働省のモデル就業規則でも、原則容認で改訂がなされています。モデル就業規則では以下のようになっています。
(副業・兼業)
第○条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
(1)労務提供上の支障がある場合
(2)企業秘密が漏洩する場合
(3)会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
(4)競業により、企業の利益を害する場合
昨今、残業削減の影響で、実質賃金が目減りする人たちが発生しています。残業削減の中で、もっと稼ぎたいと思う方にとって、ちょこっと副業で稼げるのは魅力的でしょう。兼業副業には、労働時間の通算方法や、災害時の補償のあり方などで、まだ法的に困難な部分もありますが、週2,3日とか、夕方以降だけでもシフトに入ってもらえれば助かるような企業には、検討の余地が有るかと思います。
6.テレワーク
情報通信機器が発達し、企画や製作など事務関係の仕事では、会社を離れて仕事ができる環境が整いました。ZOOMやTeamusなどにより、遠隔地でも無料でビデオ通話ができ、電話とFAXだけの時代では不可能だったことが出来る時代となったのです。テレワークとひと言で言っても、その形態は在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務とありますが、その中でも在宅勤務は有力な検討候補の一つです。
看護や介護と仕事を両立させたいと考える人、通勤が困難な地域に居住する人などには、魅力的な働き方として映るでしょう。
7.限定正社員
配置転換のない勤務地限定、職種変更のない職務限定、時間外労働のない時間限定があります。日本の雇用慣行では、一旦正社員として雇用すると、人事権は会社に委ねられ、誰をどこに配属するか、何の仕事をさせるかは会社の判断で可能です。つまり辞令1枚で何でも従うのが原則なのです。
これに対し、現在よく耳にするJOB型もそうですが、「あなたにはこの場所から異動してもらうことはありません」「あなたはこの仕事だけをしてもらえれば結構です」というような感じで、場所や仕事内容を限定してしまう働き方です。従業員の立場から見れば、転勤や慣れない仕事への異動を避けられるメリットがあります。家庭の事情で住居を変えられない方や、専門職としてその仕事に専念したいという方には受け入れやれやすいでしょう。
ただ何でも命令に従う無限定社員からすると優遇されているように見えるため、給与格差はつけるべきかと考えます。また議論のあるところですが、限定正社員の限定された場所や仕事がなくなった場合は、無限定社員よりも解雇権の範囲が緩やかになると考えられます。
8.時差出勤
同じ会社だから皆同じ時間に出社する必要は必ずしもありません。全員一律出社に拘らず、段階的に出勤時間をずらす時差出勤も検討に値します。朝、8時は無理だけど、10時からなら大丈夫!という方、逆にラッシュが嫌なのでその時間を避けたいなどという方には、効果的かもしれません。
9.勤務間インターバル
終業後から一定時間を空けて始業時刻をずらす制度です。働き方改革関連法において努力義務となっていますが、例えば夜遅くまで残業した場合に、始業時刻をずらすようなイメージです。この前の終業から次の始業までの空けることをインターバルといいますが、この時間については規制がありません。
但し2024年4月からトラックドライバーにおいては11時間以上を目途とし、最低9時間以上のインターバルを設けることが義務化されますので、一つの目安となるでしょう。夜遅くまで残業のある会社は検討の余地があります。
10.短時間バイトの活用
昔から学生バイトや
こういった制度を求人広告にきちっと書き込み、柔軟な働き方ができる企業であることをアピールして行くのです。
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)