2023年1月~12月
解雇を考える前に 問題社員はまず退職勧奨してみよう その2 (2023.11月号)
解雇を考える前に 問題社員はまず退職勧奨してみよう その2 (2023.11月号)
改善プログラムを組んで3か月経過後、改善が見られればそのまま経過観察、見られなければ再度退職勧奨を行います。
ここまでくれば、相当外堀が埋まった状況になっていますので、再度の退職勧奨で応じる可能性が高くなっています。
{3ヶ月が経過したけれども、自分で振り返って見てどうですか? 大して難しいことを要求しているわけでもなかったはずなのに、できなかった(やらなかった)ですよね。こんな調子だと、いずれ解雇せざるを得なくなってしまいかねません。辛い思いをする前に、自分で身の処し方を考えてもらえませんか? 今なら多少の退職金を出すことも可能ですが、解雇となればそうもいかないでしょう。自分でよく考えてみてください。}
歩み寄ってくれば、先述その1の1回目の退職勧奨を受け入れたと同様に、直ちに手続きを進めていくこととなります。これでも応じなければ、再度チャンスを与えるか、リスクを承知の上で解雇するかは経営判断となります。
■準備が必要! 退職勧奨の面談はここに注意して進める
退職勧奨の面談は、背中を押してあげるためのものです。退職に消極的な人に対して何としても退職を説得するためのものではなく、辞めてくれればラッキーくらいの感覚です。 面談の中で明らかに拒否反応を示し、説得が難しいと思えば、それ以上の無理は決してしないほうが無難です。また面談は録音されていると心得た方が良いでしょう。
しつこく迫る、多勢で取り囲む、長時間監禁する、脅迫じみたことを言ったり罵声を浴びせることは、違法となり却って問題を複雑化させますので、注意を要します。
面談はできれば2名で行い、1名が面談の進行を、もう一人が書記を担当します。書記担当の方は、話された内容を逐一メモにとっておきます。万が一、面談進行役がヒートアップしてしまった場合に書記担当の方はなだめる役割も担います。
面談時間は30分程度に留めます。それ以上は話が拡散することが多いからです。2回目以降を行う場合も原則20分以内に留め、長くても1時間を超えることがないようにします。
退職勧奨における面談の基本は、これ以上会社にいても浮かばれないことをきちんと説明し、本人の将来のためを慮った姿勢を貫くことです。口論する場ではありません。また面談は必ず就業時間中に行ってください。
目的は話し合いにより合意して退職を決定することにあるので、本人が退職を迷っている間は何度か面談を重ねても構いません。但し、{退職しない}{応じない}との意思が明確に示された場合は、それ以上の勧奨は退職強要と評価される可能性が高いので控えなければいけません。
退職勧奨面談前には、必ず以下のことを検討しておきます。
(1)退職合意書の雛形準備
(2)割増退職金(いわゆる手切れ金)の検討
多少の金銭を積むことによってまとまる可能性があります。
(3)有給休暇の買取り(何日残っていて、1日いくらにするか)
未消化の有給休暇を買い取ることで受け入れやすくなります。
(4)退職日までの就労の扱いとその間の賃金
退職は受け入れたが、退職日まで相当期間が空く場合、再就職のためにその間の就労免除して給与は満額保障することもあります。
(5)雇用保険の受給資格はあるか(自己都合で1年、退職勧奨の場合は6ヶ月)
受給資格がなければ、一定の割増退職金を覚悟する必要があります。
その他の付帯事項としては、本人の性格、家族構成、未払い残業代はないか、パワハラはなかったかなどにも留意しておく必要があります。特に普段の労務管理で会社側に落ち度がある場合、反撃されるリスクがあるので注意しましょう。
■常に冷静に! 退職勧奨では話し方にも配慮が必要となる
退職勧奨では、決して言い争いはしないことです。退職合意してもらうのが最大のミッションで、論破することが目的ではありません。仮に{何くそっ!}と思う感情があっても、それは出さず、淡々と冷静に話をすべきです。 ここで話し方の例を紹介しておきます。
◎勧奨例1
{今までの勤務状況をみていると、このままウチの会社で続けるのは難しいのではないか。このままでは○○さんを会社は評価できないし、これ以上重要なポジションで仕事を任せることもできない。給料も上がらないし、賞与査定も低くなる。恐らく同僚や後輩にも抜かれ、プライドを傷つけられることになるだろう。まだまだ今ならやり直しは効くと思う。年齢も●歳なら再就職も可能だと思うが、年を重ねるごとにそのチャンスは確実に減って行く。定年まであと●年もウチでくすぶっているのは君にとってもマイナスだ。
残念ながらウチとは合わず浮かばれなかったが、きっと世の中には○○さんに合う環境で、もっといい上司の元、もっと評価してくれて、もっと輝いて自己実現できるところがあると思う。今のうちにきれいな形で分かれた方がお互いの為になるのではないか。じっくりよく考えてみてはどうか}
◎勧奨例2
{○○さんは○○さんで信念を持ってその考え(やり方)をしていること、それ自体は立派なことかもしれない。でも会社には会社の考え方がある。仮に会社の方針が間違っていて失敗しても、最終的に全責任を負うのは私(経営者)の方である。私はお客様や取引業者に対して、そして他の社員とその家族に対しても、最終的に全責任を負う。極論すれば墓場まで会社を背負って行く。
そういう意味では私は会社を選ぶことができない。逃げることもできない。最後に責任を取るのは私の方だから、方針が合わなくとも、最終的には私の方針に従うべきではないのか。もしそれができないというなら、むしろ会社や経営者を選べるのは○○さんの方だ。この相反する状況を変えられるのは、会社を選べる○○さんの方だよ。私はずっとここにいるわけだから。どうしても従えないなら、○○さんの方から状況を変えるべきじゃないのか}
◎勧奨例3
{会社は○○さんを解雇するつもりはない。○○さんにとっても安易に解雇して欲しいなどと経歴に傷を付けるべきではないと思う。なぜなら会社にとって前の会社をいかなる理由で辞めたのかは重大な関心事であって、あなたの再就職に良い影響は与えない。再就職の道をわざわざ狭めるようなものだ}
◎勧奨例4
{もし円満に退職に応じてもらえるなら、今なら特別に退職金を●円(●か月分)を出すことができる、残っている有給を買い上げてもよい。退職日までの就労免除も検討するし、雇用保険もすぐにもらえるようにしてあげる}
万が一、解雇と受け取られる誤解を与えた場合は、すぐに解雇するつもりはないとして誤解を解いておいてください。
■後腐れなく! 離職日には社長にしてほしいことがある
とにかくモノは言い様です。また、いくら従業員に非があっても、退職した従業員から反撃をくらい、そこで費やす不毛な時間、労力、金銭、精神的負担を考えると、後腐れなく別れたほうが賢明です。
労働関係のトラブル事案は、この手の離職をめぐって起こることが一番多いからです。しかもトラブルになっているときは、得てして法的な問題というよりも、「恨み」による、感情的なしこりによるものが多いのです。これは普段から鬱積してきた不満もありますからなかなか難しいものがありますが、それでも経営者は別れ際に一工夫欲しいものです。
そこで私が常に別れ際に関して一つだけアドバイスしていることを申し上げます。そしてこれにより離職後、トラブルを拡大させることなく終了することが多いのです。これからはいかなる事由であれ、従業員と別れるときはこのようにされてはいかがでしょうか。
(1)握手する
離職日には必ず社長が立ち会い、別れ際に握手をしてください。それも片手ではいけません。両手です。こちらから両手を差し出して相手の手を握る感じです(選挙の時、議員が両手を差し出して有権者と握手するイメージ)。心理学的には接触効果といわれるもので、印象の向上につながります。
(2)頭を下げる
握手の際相手の目を見るとともに、頭を下げましょう。{今迄ご苦労さんでした。ありがとう。}の一言を添えて。演技でも構いません。
(3)今後の幸せを祈念して送り出す
「ウチの会社では○○さんの力を充分活かせなかったかもしれないが、次の会社では、もっともっといい人に出会って、幸せになってくれ」という感じで、今後の人生の成功を祈る気持ちを伝えましょう。
ただこれだけです。相手に問題がある場合でもそうです。社長にプライドがあるのはわかります。むしろ社長から見て問題のあるその従業員に、文句を言いたい気持ちも分かります。しかしそこはぐっと我慢です。これだけのことでその後の不毛なトラブルを回避できるとしたらそれでいいではありませんか?
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)