2024年1月~12月
自然災害と労務管理について考える (2024.10月号)
●自然災害と労務管理について考える (2024.10月号)
先日の南海トラフ地震臨時情報や台風10号の被害など自然災害に関する報道が後を絶ちません。そのような中で当事務所においても、自然災害(地震、洪水、台風、雷など自然現象によって引き起こされる災害)において想定される労務上の対応の相談を多く頂いております。
今回はそのような自然災害時の、労基法上の取扱いについて考えていければと思います。
○労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合 には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。 ただし、天災事変等の不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由に当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、1.その原因が事業の外部より発生した事故であること、2.事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。図でまとめると以下のようになります。(実際には、具体的な状況により法的判断や取扱いが変わる可能有り)
◇被害状況 ◇休業判断 ◇給与 ◇有給取得 ◇特別休暇(有給) ◇休業手当
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
A不可抗力の直接被害 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
(事業所の倒壊、
停電など休業せざるを得ない場合)
B不可抗力の間接被害※1 会社判断 無給 可能※2 可能 不要
(公共交通機関の運休などで
休業せざるを得ない場合)
※1 不可抗力の間接被害
公共交通機関が事前に運休する可能性が高いとして休業するような場合、通勤できるのに休業した場合、全員休業させなくても一部でも就業できるのにその一部も休業させた場合、テレワークなどの代替手段があるにもかかわらず休業した場合は不可抗力とは言えず、休業手当の支払いが必要になる。
※2 無給で休業手当支給なしの年休取得
休業となった日においては所定労働日ではなくなる為、有給休暇の取得対象にはならず、認める義務もないが希望者には認める取扱いは問題でない。但し取得の強制はできない。
○災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等について
「災害等臨時の必要がある場合」とは、自然災害や事故などの突発的な事象が発生し、緊急対応が必要な状況を指します。この場合、通常の規則や手続きを一時的に変更したり、省略したりして、迅速な対応を取ることが求められます。
労働基準法第33 条第1項では例外として以下のように定められております。
1.原則
労働時間・休日の原則及び上限規制
【法定労働時間、法定休日】
労働時間の限度は、原則として、1日8時間、1週40時間です。
また、少なくとも1週間に1日、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
【時間外・休日労働の上限規制】
法定労働時間を超えて時間外労働させる場合や法定休日に労働させる場合には、あらかじめ労使協定(36協定)を結び(※)、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。
(※)過半数労働組合、または過半数労働組合がない場合は労働者の過半数代表者との書面による協定
36協定を結んだ場合でも、時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45 時間・年360時間です。
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)には、この上限を超えることができますが、その場合でも
・時間外労働(休日労働は含まず):年720 時間以内
・時間外労働+休日労働:月100時間未満、2~6か月平均80時間以内
・時間外労働が45時間を超える月:年6か月が限度
とする必要があります。
2.例外
(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)
第33条第1項 災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第32条から前条まで若しくは第40条の労働時間を延長し、又は第35条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。
労働基準法第 33 条の効果
災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合、上記の原則の法定労働時間を延長して、又は法定休日に働かせることができます。
なお、この場合、上記の時間外・休日労働の上限規制にかかわらず、時間外・休日労働をさせることも可能となります。
最後に、自然災害の発生リスクの増加により最近ではBCP策定の検討や取引先からの策定の確認などがあったとの声も伺います。
特段対策をされていない会社においては、今からでも自然災害における社内での取決めや緊急連絡先の整備、就業規則における規定内容の確認などをされてはいかがでしょうか?
できることからご一緒に考えていければと思います。
(文責 社会保険労務士 坂口 将)