平成24年1月~12月
労務は感情、労務は心理学 パワハラ問題 その1 H24.10月号
●労務は感情、労務は心理学 パワハラ問題 その1
~できるだけ不満のたまらない企業文化(社風)醸成のために~
個別労働紛争が増加しています。特に最近では従来から紛争形態として多かった解雇、労働条件の引き下げに割って入る形で、パワーハラスメントが増加しています。パワハラに関しては、セクハラのように確立した法整備もなく、ややもすれば言葉だけが一人歩きして拡大解釈されることがあります。
また、職務と関連性の薄いセクハラは感覚的にも違法行為と認識しやすいですが、パワハラは職務上の教育指導との関連で線引きが難しい面もあります。
本年、パワハラ問題に関し、厚労省から検討を付託されていた円卓会議において、一定の定義や行為類型例が出されました。そこにはこのようになっています。
《職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。 ※上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。 》
類型 具体的行為
(1)身体的な攻撃 暴行、傷害
(2)精神的な攻撃 脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言
(3)人間関係からの切り離し 隔離、仲間外し、無視
(4)過大な要求 業務上明らかに不要なことなどを要求
(5)過小な要求 仕事を与えない等
(6)個の侵害 私的なことに過度に立ち入ること
※(1)から(3)は業務の適正な範囲とは認めがたく、(4)から(6)はそのその判断が難しいとされている。
そこで、私の15年にわたる社労士業生活の中で、パワハラによる紛争が起こりにくい企業文化について、考えたいと思います。
1.人事を分けて考える
使用者は人事権を持っています。これは使用者の固有の権利です。この人事権に基づく注意指導とパワハラの境界線が困難な事例もあります。しかしよっぽどフラットな組織を目指しているものでない限り、使用者は人事権の行使である注意指導をためらうべきではありません。要は行使の仕方なのです。
人事とういう言葉を分解すると、生身の「人」とモノである「事」という相対する概念が組み合わさっています。そしてパワハラが起こる局面は、得てして人事のうち、「人」に焦点が当たりすぎていることが多いのです。
例えば、「あんなに早くやれといったのに何で遅れたんや!!」と唸る上司。この主語は何でしょうか?隠れていますが、「お前は!」なのです。場合によってはその後ろに「うすのろっ!」なんてのも、含まれているのでしょう。明らかに、「お前」という、「人」に焦点が当たっています。このように言われた従業員は言い訳に終始したり、その後「そこまで言わなくてもいいじゃないか!」と心では反抗的になるでしょう。
しかしこれを「事」に焦点を当てるとどうなるでしょう。
「あんなに早くやれといったのに、遅れた原因は何だ?」
いかがでしょう。ここでの主語は「遅れた原因」という「事」に焦点が当たっています。相手に考えさせ、今後の改善指導という本来の目的も達成しやすいでしょう。
同じことを注意指導するにしても、言い方次第で随分違うものです。
2.あなたメッセージから自分メッセージへ矢印の向きを変える
上記の例でも分かるとおり、人に焦点があたり過ぎると、当てられた相手は人格攻撃と感じることがあります。指導されたと善意に解釈できません。
このようなとき、使用者の心を分析してみると、心の矢印は鋭く従業員側に向いて攻撃的になっているはずです。すると、その矢印を向けられた従業員は、その矢じりをかわそうとするだけです。そうではなく、従業員自身に自分の心の側へ矢印を向けさせねばなりません。そうして始めて、周りの問題ではなく、自分の問題として捉えるようになるのです。
あなたの言葉は、相手に鋭く矢じりが向いている、「あなたメッセージ」になっていませんか。
3.従業員にも大切な家族がいることに思いを致す
使用者から見て、出来の悪い従業員は確かにいます。しかし採用の段階で排除すべきであった人は例外的で、ほとんどの従業員は、いわゆる普通の人達です。
で、その普通の従業員にも懸命に育てたご両親がいます。またその普通の従業員を父親母親として頼りにしている子供たちがいます。家庭に帰ったら普通の子供であり、普通の親御さんなのです。
一方で、使用者にも当然、親や子供がいるでしょう。その自分の親や子供が、会社でひどい扱いを受けているとしたら、どう感じますか?きっと、そんな会社に自分の大切な子供や親をを通わせるなんて、辛くてできないと思います。
もしそう思えるなら、多少出来が悪くとも、自ずと接し方に人間への配慮が生まれるのではないでしょうか。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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