平成25年1月~12月
将来の見える化をして有為の人材を引き留めよう (H25.10月号)
●将来の見える化をして有為の人材を引き留めよう
~賃金制度、人事制度の整備の必要性を考える~ (H25.10月号)
私は社会保険労務士であるとともに、賃金コンサルタントとして、多くの中小(小規模)企業の人事制度のお手伝いをさせていただきました。ただ、当方 から勧奨して人事制度を導入することはまずありません。お客様自身がその必要性を感じ、「何かしなければならない」とのニーズが発生しご依頼いただいてか ら、初めて仕事としてかからせて頂きます。
労務政策は大きく分けて三つの側面があります。一つは確実迅速な手続きを行う事務処理型労務管理、二つ目はトラブル対応型の守りの労務管理、三つ目 は人材活用型の攻めの労務管理です。特に三つ目の攻めの労務管理は、企業経営自体に余裕がないと、なかなか腰を落ち着けて取り組めない政策テーマです。こ ちらから勧奨しないのは、経営者自身が「攻めの人事政策をやりたい」との強い思いがなければ、絶対にうまくいかないからです。
そこでいつか機が熟し、攻めの労務管理に取り掛かれるようになったとき、必ずと言っていいほど申し上げていることがあります。それは「これから御社 で可能性のある人材が、将来、上昇して行ける仕組みを従業員に見える化してゆきましょう」ということです。{将来に対する見える化}とは、一体どういうこ とでしょうか?
中小企業の組織風土に欠落しがちな要素に「適度な競争原理」と「上昇志向」があります。人材が活性化するにはこの二つは欠かせません。しかし将来、上の方へ上がって行ける道筋がないと、有為な人材でも上昇志向を引き出せません。
特に中小企業の場合、ほとんどが同族経営で運営されています。ですからいくら頑張っても、経営家系でない限り、経営者と同じ立場に上り詰めることは あり得ません。つまり社長を目指す!という人は、その会社で力を発揮する可能性はなく、仮に一時社員であったとしても、その人には単なるステップアップの 踏み台でしかありません。こういう人は引き留める人材というより、初めから割り切って考える必要のある人でしょう。
中小企業にとって必要なのは、経営を任せるごく一部の後継者ではなく(これはまた別のテーマである)、部長をそつなく安定的にこなしてくれる、信頼 のおける人材のことです。つまり経営者と同等の立場までは求めない、しかし会社のことを考えて仕事はして欲しい、かつ信頼できる存在であることが重要で す。
ただ、こういった上昇志向のある人材も中小企業の場合、たくさんいるわけではありません。非常に限られた人材の中から、財産となる{人財}を育てて 行かなければならないのです。単に社員をフローの人材(いわば日常業務をこなせば良い取り換えの効く人材のこと)としてとらえ、経営者自身が企業に上昇志 向を持たないケースは除外されますが、そうでなく、会社を伸ばして行きたい動機があるのであれば、やはり信頼のおける部長の存在は欠かせないのです。
私自身もサラリーマンで数社の転職経験がありますが、残念ながら多くの中小企業には{将来に対する人事制度の見える化}が十分ではありません。これ を働く社員の立場でみると、「今はいいとしても、いい年になったときまでこの会社でずっと頑張る意味があるのかな」とか、自分の先輩を見るにつけ「俺の 10年後の姿はこの人と同じか・・・・・」となると、その潜在能力を発揮できないままに埋もれてしまうことになるのです。または転職するでしょう。
ここで注意が必要なのは、全社員が必ずしも、上昇志向があるとは限らないことです。全員が人事制度によって上昇して行くというのは残念ながら幻想で す。ここで大事なのは、ごく一部の限られた有為の人材を失わないことです。仕組みがあれが、上の方へ上がって行ける可能性がある人材であるにもかかわら ず、その仕組みがないため、埋もれてしまうとしたら会社にとっても本人にとっても不幸なことです。ですから{将来に対する見える化}が必要なのです。
{将来に対する見える化}とはおおよそ、以下のようなことを文書化して明示公開することです(但しA3用紙1枚ものとか簡潔に!)
1.今やっている仕事がずっと続くのではない。もっとレベルの高い仕事、難しい仕事にもチャレンジしてもらう予定であること。
→能力や仕事が上がれば、それを受け止める賃金が整備されている必要があります。
2.今のレベルやポジションがずっと続くのではない。もっと裁量がありかつ責任が重い、重要な役割を与えて行く予定であること。
→重要な役割を任せられれば、自己裁量が発揮でき、その役割に対する金銭的インセンティブが整備されている必要があります。
3.かといって、過度な成果主義、能力主義はとらず、生活できる賃金にも優しく目配せすること。
→業績配分のボーナスは別として、月例賃金は生計費という視点を忘れないこと。
整備したら自信をもって、社員に説明しましょう。「上がって行ける仕組みは整備した。その階段を昇るかどうか、あとは自分次第だ。上がってきてくれる人には報いる。応援もする。だから共に頑張って行こう」と。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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