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限定社員制度を活用しよう (H25.8月号) | 社会保険労務士法人ラポール|なにわ式賃金研究所

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平成25年1月~12月

限定社員制度を活用しよう (H25.8月号)

限定社員制度を活用しよう (H25.8月号)
~解雇し易い制度であることは間違いないが~

現在、政府の規制改革会議の中で、[限定正社員]構想が持ち上がっています。労組の反対が強いため、法案まで辿りつくかは微妙で、今は言葉だけが先 行しておりその詳しい中味は不明です。ただ経営側には、解雇の金銭解決制度とと並んで、限定社員制度を法制化することで、厳しすぎる日本の解雇規制を何と か緩和して欲しいという思惑が絡んでいるようです。
なぜ限定社員制度は解雇をしやすくなるのかは後述しますが、私は以前から限定社員制度を積極的に推奨してきた立場です。ここで何を限定するのかといえば、 それは職種と場所です。特に中小零細企業においては労使ともに使える制度だと考えています。そしてこの制度、実は新たな立法措置を待たなくとも、今すぐや ろうと思えばできるのです。

日本の解雇規制は異常なほど厳しいことで知られています。いわゆる解雇権濫用法理と言われるもので、現在では労働契約法第16条にその規定を置いて います。今回はこの解説が主題ではないため詳しくは触れませんが、要するに長期雇用を前提とした正社員に関しては、使用者の広範な人事権を認め、色々と社 員に要求できる代わりに、その反射として雇用保障は手厚くすべきであるという考え方に立っています。
例えば会社には社員に対して「この仕事をこういうやり方でしろ」とか「この場所で働いてくれ」とか、仕事内容や勤務場所について業務命令を発することができます。個別に同意は必要ありません。これは広い人事権が認められているからです。
しかし会社は、社員の能力が低いとか、勤務態度が悪いからといって簡単には解雇できません。業績悪化など企業側の都合で整理(リストラ)解雇するときは更に解雇のハードルが上がります。これは経営者の感覚からすれば、なかなか理解しがたいことのようです。

ところが限定社員制度は、この厳しい解雇要件を緩和する効果があるのです。つまり使用者から見れば、解雇しやすくなる制度と言えます。なぜ、そのよ うになるのでしょうか。先ほど、広い人事権があるからこそ、解雇が厳しいと申しました。その反対です。つまり会社の人事権が狭くなれば、解雇の出口は広く なるのです。具体的には社員の仕事内容や勤務場所については会社が自由に命令できる権利を制限し、もしそれらをする場合には個別同意が必要とするのです。 こうすることで無限定に働いてくれる通常の社員より解雇がし易くなります。

そもそも中小零細企業の場合、初めからその業務以外の仕事は想定していないことも多いでしょう。例えば、小さな運送業でドライバーとして雇った人 に、営業や事務に職種換えすることなど予定されているでしょうか。あるいはそもそも働く場所は1箇所しかなく、他の場所へ配置転換させることなど物理的に 有り得ないことも多いでしょうし、複数の営業拠点がある場合でもパートなど現地採用で来ている人の場合、初めからその勤務地以外の場所で働くなど労使共に 考えていないケースも多いでしょう。
つまり限定社員制度などとかしこまって言わなくとも、実態として初めから職種も場所も限定されているに等しいという事実があるのです。このような状況の企 業の場合、むしろ限定社員契約であるということを明確にして、その仕事や勤務場所がなくなれば自動解約する契約も私的自治の原則からいえば可能なはずで す。何も新しい法律を作らなくとも現行法下においても、お互いが納得して合意すれば理論上は可能なのです。

また非常に解雇のハードルが高い整理解雇の場面でも、解雇される人選が妥当であるかとか解雇回避の努力を尽くしたかという要素判断においても、通常の社員よりも劣後に置かれることに一定の合理性が生じます。

ただ、こういった言わば会社にとって都合の良い?制度を可能ならしめるためには、少なくとも以下の要件をクリアする必要があると考えています。

1.労働契約締結の段階で、きちんとその趣旨を説明し、契約書の文面に落としこむ
2.社員が真正に納得して契約している
3.できれば募集の段階から、そのような契約であることを謳っておく
4.就業規則にその職務または勤務場所がなくなった場合に解約できる根拠条文がある
5.その就業規則が周知されている
6.この制度の適用を受ける人に対する運用にムラがなく、貫徹されている

そしてこの限定社員制度、解雇され易い反面、社員にとってもメリットがあります。例えば「この仕事しかしたくない」、とか「この仕事でキャリアを積 みたい」と思った場合、この制度下の社員であれば、会社から他の仕事を命じられる心配はありません。また「自宅から近いこの場所でしか働きたくない」と 思った場合も、会社から転勤を命じられる筋合いもありません。安心して自分がやりたい仕事、働きたい場所で勤務できるのです。また有期契約社員に限定社員 制度を入れると、企業も正社員化し易いので、有期契約社員の安定化に資する効用もあるかもしれません。
まんざら、悪い制度ではない、使える制度だと思うのです。

以下雇用契約書または就業規則の該当部分サンプルを掲示しておきます。くれぐれも専門家にご相談の上、導入されることをお勧めします。

限定社員用 雇用契約書 

(職務)
第00条 ●●業務に限る

(退職)
第00条 乙の職種や勤務場所が、やむを得ない事由により無くなった場合は、その無くなる最後の日をもって退職とする。 
第00条 乙の都合により、限定された債務が履行できなくなり、そのことによりあらかじめ退職が合意されているときは、その解除要件で合意した日に退職とする。

(特約)
第00条 甲は乙に対して、乙の同意を得ることなく、●●の業務以外の業務を命ずること、職種変更を命ずること、第00条の勤務場所を変更することを行わない。

(附則)
第00条 乙は以上の内容を確認し、理解した上で甲との雇用契約を申し込み、上記に関し、お互いに承諾諾したことの証として各々1通保管する。こと(職務)(退職)(特約)に関する事項については乙は充分な納得をした上で、本契約を申し込むものとする。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com

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