平成28年1月~12月
これからの労務管理のキーワードは生産性の向上、つまり「脱残業」だ! (H28.8月号)
●これからの労務管理のキーワードは生産性の向上、つまり「脱残業」だ! (H28.8月号)
~行き残りのための残業削減策を考える その1~
現在、政府では企業の長時間労働を削減するための施策を次々と打ち出してきています。例えば、月80時間以上の時間外労働が疑われる企業に対して、労基署は重点的に臨検監督を行っています。これは時間外労働の協定届、いわゆる36協定において、80時間以上の残業時間を記載した企業に対して行われているものです。またその36協定においては、今後、協定できる時間外労働の長さを短く規制しようとする検討が始まっています。
ちなみに80時間の残業と言うのは、いわゆる過労死等の脳、心臓疾患が起ったときに労災認定されやすい長時間労働の基準でもあります。
また今秋の臨時国会で成立する見通しである改正労働基準法においては、今まで猶予されていた中小企業における月60時間を超える時間外労働の割増賃金率を、現行の25%から50%に引き上げることが上程されており、また有給休暇においても最低5日は強制的に消化させる義務となる予定です。つまり長時間労働を行うと大幅にコストが上がり、稼働日数は確実に減ることとなります。
さらに長時間労働の削減と期を一にして、正規社員と非正規社員の待遇格差是正を目指して、同一労働同一賃金が議論されようとしています。育児や介護と仕事を両立できるよう、改正育児介護休業法の改正が来年より施行されます。またこのような両立支援に積極的な企業を援助するた、或いは時間外労働の削減や有給休暇の取得促進に取り組む企業に対して援助する助成金(※1)を創設して、政策誘導が行われています。両立支援となると、自ずと労働時間の短縮が命題として出てきます。
また最近、「健康経営」と言う概念が企業を評価する銘柄として始まっており(経済産業省が中心となって行っている)、従業員の健康管理に投資することによって活力や生産性の向上を図ろうとするとともに、企業価値を図ろうとするものです。
こういった流れは、労働政策だけで語ることはできず、日本社会が直面するグローバルな課題の克服にあると理解した方が良いでしょう。かつて経験したことのない急速な少子高齢化社会が進み、労働力人口は既に減り始めています。また、国際基準で労働生産性を見た場合に先進諸外国に比べて、日本はかなり後塵を拝している状況です(※2)。このまま行くと近い将来において確実に労働力不足からGDPが下がり、日本は貧しい国になってゆくことも現実味を帯びてきました。
これを食い止めるにはAI(ロボット)の人間代用化や少子化の改善と共に、高齢者や女性など眠っている労働力を掘り起こし、更に現行の働き手には労働生産性を上げてもらうことが必要です。その中で長時間労働は、少子化にとっても、両立支援にとっても、健康にとっても、そして生産性にとっても悪であるため、効率的な労働に誘導して行こうという政府の意図が読みとれます。
つまり、今、働いている人たちには、労働生産性を上げて、短い時間でこれまで同様の付加価値を上げて行くことが要請されており、これについていけない企業は採用市場からも行政からも退場を迫られることになるのかもしれません。単に残業代の問題ではなくなってきているのです。
これからの労務管理のキーワードは労働生産性の向上、つまり「脱残業」にあると考えます。今後、何度かに分けて如何に残業を削減して行くか、その方法を考えて行きたいと思います。
※1 両立支援等助成金、キャリアアップ助成金、職場意識改善助成金など
※2 公益社団法人日本生産性本部によると、2015年のOECD加盟国34か国中、日本は21位。G7先進国ではアメリカ(4位)、フランス(7位)、イタリア(10位)、ドイツ(12位)、カナダ(17位)、イギリス(18位)。
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)