平成28年1月~12月
これからの労務管理のキーワードは生産性の向上、つまり「脱残業」だ! (H28.11月号)
●これからの労務管理のキーワードは生産性の向上、つまり「脱残業」だ! (H28.11月号)
~行き残りのための残業削減策を考える その4~
●これからの労務管理のキーワードは生産性の向上、つまり「脱残業」だ! (H28.11月号)
~行き残りのための残業削減策を考える その4~
今シリーズの最終回です。前回は、ロジックツリーを使って、残業が発生する原因を探し出すことをお話しました。そこで大きな原因に当たりが付いたら、そこに絞って具体的に対策を実行して行くことになります。今回はその具体的事例のいくつかをご紹介いたします。
1.デスク及びパソコンの整理整頓
製造業の現場では進んでいる5S運動ですが、事務作業系の仕事ではおざなりになりがちです。デスク周りが煩雑、PC内のデータが直ぐに出てこないなど、探し物に時間を取られることがあります。1ヶ月に1回、日と時間を決めて、書類・データ整理の日を予め設けておくことをお勧めします。この際、要らない書類やファイルは捨てて行きましょう。
2.仕事の整理整頓(棚卸し)
(一般社員の場合)
仕事自体の棚卸しも有効です。捨てる仕事を決めるものですが、仕事調べをして、以下のように縦軸に仕事の種類、横軸に影響をもってきて、捨てても良いかどうかを判定します。
売上に影響 顧客に影響 モチベーションに影響 (判定)捨てる候補
朝礼 なし なし あり ◎
日報記載 なし あり なし ◎
企画書会議 あり あり なし
・・・
・・・
(管理職の場合)
仕事を抱え込む傾向があります。部下に振れる仕事を棚卸しします。縦軸に仕事、横軸にリスクを持ってきて、振れる仕事を判定します。
任せるとリスクあり 他でもできるリスクなし (判定)任せる候補
××資料の作成 なし ◎
○○面談 あり あり
■■の企画 あり あり
・・・・・
・・・・・
3.1時間早帰り制度
例えば18時終業の会社でも、その日にやることをやれば、17時以降はいつ帰宅しても良いことにします。給料は18時までを保障し、減額しません。また恒常的に1時間程度の残業がある場合は、1時間分の残業代を保障しても良いでしょう。僅かな残業が恒常的に多い人は、残業手当が生活給の中に組み込まれている側面と、そういうリズムで業務を終わらせる習慣があることが多いのです。とりあえず当分の間、定時の終業時間にこだわることなく、17時が終了した時点で、帰宅してもいいようにします。元々定時までに終わるはずの仕事をだらだらしている職場には効果的です。
4.時間外労働を許可 届出制にする
例えば残業するときは16時までに会社(上司)に理由と必要時間を許可書で申請。上司はその必要性を吟味して理由がない場合は却下。原則的に承認のあった時間外労働しか認めません。実務的に削減することともに、心理的抑制効果も期待できます。36協定を超える残業があった社員とは、翌月に上司と面談します。残業は手続が面倒くさいという、関所を設けるものです。
5.19時 退社制度
19時以降の残業を禁止します。電源を落し、鍵を掛けます。蛍の光を流します。メールで帰社時間の到来を一斉送信します。担当を決めないと形骸化しやすいので、見回りパトロール係りを置いてその人に特別な役割として役割手当を出した方が良いでしょう。また1日の終わりをイベント化するには終礼を行って、1日のケジメを付けることもお勧めです。
その上でどうしても19時までに終われなければ、朝残業だけ認めます。夜間残業はどうしても時間無制限になりがちです。早出なら物理的に始業時刻までしかできませんし、電車の始発の関係で非常識に早く来ることは避けられます。通常は2時間程度で収まるはずです。
6.変形労働時間制を活用する
細かな解説は割愛しますが、以下のパターンがあります。
(1)1日10時間勤務で週休3日制
(2)時差出勤(インターバル)制度
(3)裁量労働(フレックス)
(4)在宅みなし勤務
7.社風改革
朝礼、ミーティング、社内報、ポスターなどによって、「残業は悪である」という社風を作ってゆきます。社員の行動を規律するのは社風によるところが大きいのです。本人に元々早く帰ろうという意思がないとか、長くいることが善であるとか、他の人の手前帰りにくいとかといった雰囲気を払拭してゆくことが大事です。特にオーナー社長に見られる傾向ですが、長く働いてくれる事が美徳として捉えられていることがあります。確かに遅くまでやっていると、よくやってくれているように見えますが、社長自身のその感覚がだらだら残業を常態化させている側面があります。これは長い戦いになります。我慢比べになります。社長の本気が試されます。また長時間労働がなぜいけないのか?なぜ残業を削減する必要があるのか?この目的をきちんと説明して下さい。目的とは、何の為に ということです。これがないと腹落ちしません。
8.人事考課で長時間労働を抑制
人事考課は基本的にマイナス評価するものではありませんが、長時間掛けて成果を生み出している人の業績評価は、ボーナスでマイナス査定にします。この場合、逆に短時間で成果を出している人には、プラス査定することも忘れてはなりません。
9.TO DOリストを活用する
前日に明日やるべき仕事を書き出し、1から4番目まで優先順位を付ける、それだけのリストです。翌日出社すればその1番リストから取り掛かります。優先順位を決めるときは「緊急度」と「重要度」の二軸マトリクスを使って、仕訳する方法があります(緊急で重要な仕事が最優先。緊急で重要でないが二番目。重要で緊急でないが3番目。それ以外は4番目)
10.集中タイムを設ける
仕事は何かと横槍が入るものです。電話、仲間からの声かけ。一気に仕上げなければならない仕事に取り掛かるときは、「集中タイム」を設定し、その間は電話を取り継がない、声を掛けないようにします。週1回2時間までとか、行使ルールを決めておいた方が良いでしょう。中断によるリードタイムの無駄を回避します。
11.タスク管理(プロセス分析)
始業時刻から終業時刻までに行った1日の仕事を時系列で書き出し、その横に掛かった時間を記録するものです。この作業を一定期間行い集計して、1日のうちでどこで根詰まりを起こしているのか、時間を食いつぶしている仕事は何かを見える化して行きます。また個人によってバラツキが多いときは、各人の月間の仕事を見える化します。例えば、顧客件数、処理件数、売上規模、移動距離、担当案件など。どこに偏りがあるのかを見つけ出し、平準化を試みます。
12.共有フォルダを活用する
営業系の仕事ですと、ちょっとしたノウハウが各人のパソコンに個別に管理されていることがあります。例えば○○企画書のパワポ資料、見積もりなど。それを知らない他の従業員は、一から頭を悩ませて時間を掛けて作ります。組織で仕事をしているのですから、使いまわしできるノウハウは、共有フォルダで誰でも使えるようにしましょう。この場合、朝礼やミーティングにおいて、情報共有のコーナーを作り、発表させる機会を作った方が良いでしょう。
13.分業化(IT活用)
営業系の業務ですと、出先での業務より、社内の事務作業に時間を取られることが多いものです。例えば外勤者にタブレットを支給して、必要なデータを会社に送信すれば内勤部隊が書類を作成する仕組みの構築により、帰社後の事務作業を軽減することが可能です。一人に偏る仕事を分業化することで、平準化を図ると共に、複数の人間が対応できることにも寄与します。
14.アウトソーシング
事務系の仕事などは、思い切ってアウトソーシングして外注化します。コールセンター、経理や総務事務、配送、HPの管理、DM発送など。請負業者、人材派遣会社を使用することも検討します。できるだけ直接雇用の社員の負担を減らし、利益を生み出す仕事に集中してもらいます。
15.チームで競わせる
例えばAチームからCチームに分類し、チームごとに年間労働時間を設定します。これを超えなかったチームには、全員の前で年間表彰を行い、時短優秀チームとしてグリーンジャケットや腕章など、色分けした服飾を向こう1年間与え、身に着けてもらいます。
16.帰社時間宣言フラッグ
いくら時短を推奨しても、上司や同僚が残っているとか何となく帰りにくい雰囲気はあるもの。そこでご提案したいのが、帰社時間宣言フラッグです。これは各人が出社時に自分のパソコンなどに帰社時間を記入したPOPを取り付けておくだけです。自分の帰る時間を皆に見える化しておきます。
17.社内メールは件名のみ
社内の連絡手段としてメールを使用している会社もあると思いますが、連絡事項は件名に記入して、本文を省略します。メールを書く時間、読む時間は意外に面倒なものです。また社内資料はパワーポイント使用不可(必要以上に凝ってしまうから)にするなど、社内での事務はできるだけ簡素化します。
18.時短アイデアコンテスト
従業員を巻き込んで時短に関するアイデアを出してもらいましょう。コンテストや提案制度を絡めてやるのが良いと思います。皆がマネできる良い案を出した人やグループには表彰も行います。また従業員の知恵を借りるには、「残業撲滅委員会」を立ち上げ、諮問するのも良いでしょう。またアンケートを配布して、残業の状況や自分なりの対策を募る方法もあります。
19.マネジメントの改善
社員が自己裁量で業務をコントロールできない場合があります。いわば仕事は上から降ってくるため、決められた納期に無理せざるを得ません。これはマネジメントの問題です。週末に受注して翌週火曜日に納品とか、展示会のある時期に臨時の仕事を入れるとか。場合によっては、顧客第一主義(顧客のわがままを聞く経営)を改め、顧客をコントロールする必要があります。飲食店がラストオーダータイムを決めるのはそのためです。
まだまだ手法はたくさん有ると思いますが、可能な限り簡単ではありますが、事例をご紹介しました。これらを参考に、少しでも残業が削減され、生産効率の高い会社になっていただければ幸いです。
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)