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同一労働、同一賃金!!その対策を考える その1(2021.1月号) | 社会保険労務士法人ラポール|なにわ式賃金研究所

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2021年1月~12月

同一労働、同一賃金!!その対策を考える その1(2021.1月号)

●同一労働、同一賃金!!その対策を考える その1(2021.1月号)  

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。


さて、いわゆる同一労働同一賃金を規定した、改正「パート・有期雇用法」の施行が中小企業でも2021年4月からスタートとなります。
実は全く新しい法律ができるのではなく、従来からある労働契約法20条を包含した形でパート労働法を修正して施行されるのですが、パートタイマーか有期契約労働者を雇用する企業は、規模を問わず非常に大きな影響が及ぶこととなる上に、方針の決定、検証や制度設計その他の事前準備にかなりの時間を要することになるため、しばらくの間シリーズにてこの問題を考えて行きたいと思います。まず法律条文の該当部分を確認しておきましょう。

■根拠法の確認
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(略して パート有期雇用法)

(不合理な待遇の禁止)

第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)

第九条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

■最低押さえておくべき基本知識

(1)誰と誰を比較して同一労働同一賃金でなければならないのか

この法律において比較の対象となるのは、〇のケースです。
〇正社員 VS 所定労働時間の短い労働者(1時間でも短ければ対象、いわゆるパート)
〇正社員 VS 有期雇用労働者(フルタイム有期労働者を含む)
〇無期フルタイムパートVSパート・有期雇用労働者・・・・・・場合によってはあり得る
×正社員VS正社員、パートVSパート、有期雇用労働者VS有期雇用労働者
×パートVS有期雇用労働者、正社員VS無期フルタイムパート


従って「正社員と正社員」、「パートとパート」、「有期雇用労働者と有期雇用労働者」、「パートと有期雇用労働者」、「正社員と無期のフルタイムパート」の間に待遇の相違があったとしても、この法律では関係がありません。

また2018年の最高裁判決(長澤運輸事件、ハマキョウレックス事件)では、正社員と非正規社員の待遇差の不合理性を判断する場合、どの正社員と比較するのかが判然としないところがありましたが、今回2020年の最高裁判決(メトロコマース事件、大阪医科薬科大学事件、日本郵政事件)において、原告指定正社員であることが分かりました。
例えばメトロコマース事件では、東京メトロの売店業務に従事している正社員と非正規社員を比べるのか、それとも本社の管理業務を担う正社員を含めて比較するのかで大きな違いが生じる(企業側としては正社員全体と比較してもらった方が違いを説明しやすい)のですが、基本的に訴えた非正規社員(原告)が自分と同じ仕事をしている正社員(メトロの場合は売店業務正社員)と比較するとの判断です。
しかし単純に原告が指定した特定の人と比較するのでもなく、諸事情も考慮されるようです。これについてはまた後述します。


(2)一つ一つの待遇に差別または不合理がないか検討する

要するに正社員の待遇とパート・有期雇用労働者の待遇を全体的にみて、ふわっと判断するのではなく、個々の待遇ごとに判断されるということです。例えば、10ある処遇のうち、9まではパート・有期雇用労働者も正社員と同じ待遇か、或いは上回っていたとしても、残りの1つの待遇が差別的と判断されれば、不合理性を問われることとなるのです。
ただ後述する3要素のうち、第三要素であるその他の事情が入ってくると、実務的には総合判断になるとも言えます。ただ労契法20条と違い、パート有期雇用法8条には、「適切と認められるものを考慮して」との文言が追加されており、これが「その他の事情」を縛ることになるとも言われています。つまり単純に3要素に違いがあればOKなのではなく、関連性のある要素を抽出して判断されることになるのです。


(3)賃金だけでなくあらゆる待遇が対象となる

同一労働同一賃金の俗称から、賃金だけが規制の対象であるとの勘違いを起こし易いのですが、そうではありません。賃金だけでなく、福利厚生、教育訓練、休暇、安全衛生、解雇などあらゆる待遇が対象となるものです。また賃金も月例賃金や基本給だけでなく、手当・賞与・退職金或いは福利厚生的な慶弔金や報奨金なども対象となります。


(4)均等待遇と均衡待遇という概念があること

これは一般の方々には非常に分かりにくい概念です。ごくごく簡単に申しますと、

均等待遇とは・・・・「ある要素」が正社員とパート・有期雇用労働者で同じなら、待遇も同じにしなければならない(パート・有期雇用労働者法第9条)

均衡待遇とは・・・・「ある要素」に違いがある場合、正社員とパート・有期雇用労働者の待遇に相違があっても良いが、不合理な差異であってはいけない(パート・有期雇用労働者法第8条)

この「ある要素」、俗に略して3要素といいますが、対策を立案する上において非常に重要なものになるのです(後述)。


(5)使用者と労働者間の民事上の問題であり、刑事罰は課されないこと

違反に対しては行政指導の対象とはなっても、労働基準法や労働安全衛生法にあるような刑事罰は用意されておらず、労働基準監督署は管轄外となり、同じ労働局内にある雇用環境均等部の管轄となります。またパート有期雇用法第8条の均衡待遇の問題は、行政では指導の対象外です。この事実認定は行政では無理で、司法判断でしかできません。従ってこの問題は対行政というよりも、会社とパート・有期雇用労働者の間でトラブル防止という民事上の問題の方が大きいのです。


(6)損害賠償の根拠となるが、補充効はないこと

パート有期雇用法第8条の均衡待遇に違反したとして司法で判断されたときは、民事上の損害賠償請求の根拠とされます。但し将来に向かって契約内容の修正を直立的に迫られる、いわゆる補充的効力はないとされています。つまり労働契約の内容が違法だからと言って自動的に修正されるのではなく、労働者は過去の損害賠償しかできず、仮に企業が敗訴したとしてもルール変更をしなければ、労働者側はその都度過去分を訴えなければならないということです。


(7)同一労働同一賃金も、働き方改革の真の目的である労働生産性の向上に関係している

この同一労働同一賃金も、働き方改革関連法の中の一部です。コロナ禍で関心が薄くなった感がありますが、かねてより申し上げておりますように、この真の目的は生産性革命を起こすことであり、単なる労務問題ではなく経営課題なのです。ここを見誤っては、経営者のコミットメントが脆弱になってしまい兼ねません。繰り返し申し上げますが、減少する貴重な労働力を生産性の高い企業へ集約し、そこを成長のエンジンとして残し、ついて行けない企業を退場させるもので、生き残りをかけた経営問題なのです。
ちなみに菅政権では、小規模企業淘汰再編論者が政策ブレーンに入っています。

(以下次号)

(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

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