2022年1月~12月
10月より史上最大幅の引上げ その影響を考える(2022.10月号)
●●最低賃金 10月より史上最大幅の引上げ その影響を考える(2022.10月号)
今年も10月より最低賃金が変わります。今年は全国平均で31円という史上最大の上げ幅であり、関西圏の改定状況は以下の通りです。
三重 902円→933円(+31円)
滋賀 896円→927円(+31円)
京都 937円→968円(+31円)
大阪 992円→1023円(+31円)
兵庫 928円→960円(+32円)
奈良 866円→896円(+30円)
和歌山 859円→889円(+30円)
1.最低賃金の基礎知識
(1)強行性
最低賃金以下の時給額で雇うことは許されず、当事者がこれを下回る合意があったとしても、強行的に最低賃金まで引き上げられ、これに違反すると50万円以下の罰金に処せられることがあります。例えば大阪で就職先が見つからない高齢者から800円でいいから雇って欲しいと懇願され、800円なら安いとして雇入れた場合、当事者はともに満足しているのですが、法律がお節介に介入し、強制的に1023円に引き上げられることとなるのです。
(2)地域別と産業別
最低賃金には地域別最低賃金と産業別最低賃金の2種類があり、冒頭にお示しした数字は地域別最低賃金です。概ね毎年10月前後に改定されます。これに対して産業別最低賃金とは特定の産業について設定されるもので、どちらか高い方が適用されます。産業別は地域別より遅れて改定されることが多く、現在大阪では塗料製造業、鉄鋼業など7つの産業分類において地域別より高い最低賃金が設定されています(この原稿の執筆段階では2022年の産業別は未定)。
(3)適用除外者
最低賃金は、パートアルバイト、日雇、嘱託など雇用形態や呼称に関係なくすべての労働者に適用されます。派遣労働者は派遣先の最低賃金が適用されます。しかし一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため障害のある方など一定の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件に個別に最低賃金の減額の特例が認められています。但しこの許可は簡単に降りるものではありません。
(4)最賃以上となっているかの計算方法
a 時間給の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
b 日給の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
c 月給の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
d 出来高払制によって定められた賃金の場合
出来高払制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制によって労働した総労働時間数で除した金額≧最低賃金(時間額)
e 上記a〜dの組み合わせの場合
例えば基本給が日給制で各手当(職務手当等)が月給制などの場合は、それぞれ上のb、 cの式により時間額に換算し、それを合計したも のと最低賃金額(時間額)と比較します。
上記計算において、以下の賃金は最賃計算から除外します。
ア 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
イ 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
ウ 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外・休日、深夜割増賃金など)
エ 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
2.令和4年の大幅アップにより考えられる影響
今秋も高卒採用賃金の相場がアップすることは確実です。何故なら大阪府の1,023円で見た場合、月間の平均所定労働時間別に見た最低額は以下の通りとなります。
173H 176,979円(週40時間制においてギリギリの年間休日数の場合)
170H 173,910円
165H 168,795円
160H 163,680円(1日8時間で完全週休2日制の場合)
150H 153,450円(1日7.5Hで完全週休2日制の場合)
これをご覧になって分かるように、週40時間ギリギリで設定している会社はおおよそ177,000円出さないと、そもそも高卒求人が出来ないのです。週40時間ギリギリとは、年間休日を以下の休日数で設定している場合です。
1日8時間の場合 年間105日
7時間45分の場合 年間96日
7時間30分の場合 年間87日
この17.7万円には皆勤手当や通勤手当、残業代(固定残業代を含む)を除外してクリアしなければなりません。高卒ですから各種手当が付くことは余り想定されず、基本給のみで17.7万円必要となるのです。
影響はこれに終わりません。大阪近隣県の企業は大阪の企業に人材が流出しないように考える必要があるのです。例えば奈良の場合、計算上は155,008円以上出せば最賃はクリアしますが、その隣の大阪で17.7万円以上で求人が出ている場合、休職者はどちらを選ぶでしょうか?大阪勤務を選択する可能性が高いですよね。
(参考 令和3年 全国平均 高卒179,700円 大卒 225,400円)
さらに在職者への影響も考えなければなりません。中小企業の場合、入社して2、3年経過しても18万円程度の総支給額であることがあります。大阪では今秋から高卒者が17.7万円以上で入社してくるなら、在職者との賃金バランスが非常に悪くなり、必然的に在職者の昇給も考えなければなりません。
さらにさらに固定残業代を採用している会社は、固定残業代を除いた賃金が最賃をクリアしているか再検証が必要です。例えば月間平均173時間の会社の場合で固定残業時間別に見た場合、以下の金額以上出してないと最賃割れします。
固定残業時間数 10H 20H 30H 40H 45H
189,767円 202,554円 215,342円 228,129円 234,52円
4.政府の方針~働き方改革~
政府は全国の過重平均が1,000円になることを目指しています。今年の全国平均が961円であり、昨年から31円のアップとなりました。これでいくと1,000円に到達するには少なくともあと2回はこのペースで上がって行くことが予想されます。
最低賃金の引上げ自体は働き方改革関連法とは別のものですが、私には同趣旨に見えてしまいます。コロナの影響で2019年にあれほどマスコミに取り上げられた「働き方改革」もすっかり影を潜めましたが、着々と進行中です。その大本の趣旨は諸外国に比較して生産性の悪い日本企業の新陳代謝にあると見ています。賃金の上昇、労働時間の削減…。
つまり大幅に減少してゆく労働人口を生産性の高い企業へシフトさせ、そこを成長のテコにし、逆に生産性向上に着いて来れない企業のふるい落としだと見ているのです。コロナ、原材料高、採用難、後継者問題・・・。本当に厳しい時代に経営者は孤独に立ち向かって行くしかないのでしょうか?
(特定社会保険労務士 西村 聡)