2025年1月~12月
人事評価を複数人で行うときの知っておきたいルール(2025.3月号)
●人事評価を複数人で行うときの知っておきたいルール(2025.3月号)
皆様の会社では人事評価を行っておられるでしょうか?
人事評価とは「会社が社員に要求する職務遂行能力の程度、遂行結果、貢献度、遂行態度などを評価し、人事処遇・賃金処遇・人材育成に反映させる基礎的な手段である(日経連 2002)」と定義することができます。
処遇への反映だけでなく、人材の育成という視点が極めて大事なのですが、このことに関してはまた別に機会に解説したいと思います。今回のメルマガでは如何に人事評価を公正に行うか、ということについて先人が積み上げてきた統一ルールをご紹介したいと思います。
その前に、社長一人が評価者である会社の場合は、このような統一ルールを意識する必要はありません。もっと言えば社長の主観で結構です。社長の価値観や思いを素直に評価に出せばそれで構いません。その主観が法令に抵触するとか、公序良俗に反しない限り、自由に行えばよいのです。社長の価値観がその会社の評価軸であり、その結果に対して全責任を負う訳ですから。
ただ部課長に一次評価をさせる場合など複数人で評価を行う場合は、統一ルールを理解しておく必要があります。そうしないと同じ事実を見ていても、評価者によって著しい違いが生じ、公正さが失われ、部下から不信感を買うことになるからです。
人事評価は諸刃の剣です。やり方を間違うとかえって不信感、不満感が増幅され、やらない方がマシだったということになりかねません。はっきり言いまして、上司と部下との間に最低限の信頼関係がないとか、上司が敬われていないケースではやらない方がマシです。
最低限の信頼関係があるという前提において、公正さを担保するためにどのようなことに気を付ければ良いのでしょうか?以下簡単に人事評価の原則的なポイントを解説します。
1.職務外の事柄を考盧しないこと
2.評価対象期間外の出来事を考盧しないこと
3.人物評価をしないこと
4.思惑や私情を挟まないこと(会社の評価基準により粛々と)
5.絶対評価で行うこと
6.一つの行動は一つの評価要素が原則
7.業績(成果)評価は外的要因は考えず、事実のみが原則
1.職務外の事柄を考盧しないこと
勤務時外の活動は評価の対象事実として取り上げません。例えば、
〇プライベートの領域のもの
〇休憩時間中の出来事
は評価の対象外となります。従って「飲み会にも来ないし、一人で昼食を食べていて、会話をしない」という社員がいても、評価を下げることはできません。飲み会はプライベートの領域であり、昼食は休憩時間のことだからです。
2.評価対象期間外の出来事を考盧しないこと
通常、6か月間(半期)や1年間(通期)という評価期間を設けますが、この間に起こった事実だけを取り上げ、この期間から外れる事実は評価の対象とはしません。
例えば、前期の重大なミスが今期にも影響してしているというケースの場合、一旦前期においてマイナス評価しているのですから、今期もマイナス評価で引きずらないようにしなければなりません。
3.人物評価をしないこと
どうしても行動評価ではなく、人物評価をしてしまいがちになるのですが、人事評価の対象領域は「仕事そのもの」「能力(スキル)」「業績(成果)」「執務態度(情意)」であり、その人の性格、人格、外見、印象、年齢、性別、学歴などで見てはいけません。
そういった意味では人事評価で見ている部分はその人間の氷山の一角だけとも言えます。
4.思惑や私情を挟まないこと(会社の評価基準により粛々と)
評価者になる上司には各々自分の人生観、価値観があるはずです。でも人事評価においてははひとまずそれは脇へ置き、会社が定めた基準、規則、ルールに基づいて粛々と行うのも原則となります。
つまり自分と比較しないことです。例えば自分に厳しい上司は、それを部下の評価にも援用してしまいがちですが、これは対比誤差というエラーの1種となります。
5.絶対評価で行うこと
絶対評価を理解するには、対極にある相対評価をまず理解すると分かりやすいです。相対評価とはある特定の社員を基準として比較したり、評価結果を意図的に分布させるやり方ですが、絶対評価はその人自身を評価基準に照らしてどうだったかを判断するものです。例えば5段階評価において、全員5評価の基準に達していれば、理屈上は全員5評価もあり得ます。
原資との関係で最終評価の段階で相対化させることはありますが、一次評価の段階では絶対評価で行います。これは育成という視点でも非常に大切なことです。
6.一つの行動は一つの評価要素が原則
一つの行動を様々な評価要素に当てはめると、代表的なエラーの一つ、ハロー効果を招くこととなります。例えば、
遅刻で度々迷惑を掛けたる社員がいる場合、規律性と協調性を低く評価してはいけません。遅刻した事実は会社のルールを守っていない行動として規律性が欠如しているとの評価はできますが、チームワーク守るという意味の協調性まで下げると、遅刻という事実を複数の評価要素に当てはめていることとなり、これもエラーの一つとなってしまいます。
7.業績(成果)評価は外的要因は考えず、事実のみが原則
営業マンが典型的な例ですが、業績において運不運が関係してくることがあります。これはどのように考えたらよいのでしょうか?結論として運不運は全く考慮しません。結果だけを冷徹に見ます。これは運不運は誰にでもあり、長いスパンで見ると平均されるものと考えるのです。
例えば基本に忠実なスイングで打ったホームランも、出会いがしらのホームランもホームランに違いはなく、結果に差は付けません。但し前者の方が後者より成果の再現性が高いため、業績では差がつかなくとも、能力評価の部分で差が付くこととなります。
(続きは 次号にて)
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)