2025年1月~12月
2025年 中小企業の賃上げ動向を探る(2025.4月号)
●2025年 中小企業の賃上げ動向を探る(2025.4月号)
賃上げ圧力が高まっています。大手企業は本格的な春闘の時期を迎え、新聞やテレビでも報道量が多くなっており、従業員が賃上げに期待値を持つ素地が形成されています。昨年の連合の集計によると、100人未満の企業における平均値上げ率は3.98%、金額ベースで9,626円でしたが、今年の連合は中小企業においては率で6%以上、金額ベースで18,000円以上を目標に掲げています。
こういう数字を聞くと、経営者の中にはいくらくらい上げたらいいのか悩んでおられる方も多いかと思います。そこで今回は昨年の賃上げ実績からみて中小企業はどのくらいが実相場なのかを見てゆきたいと思います。
まず参考にしたいのが大阪シティ信用金庫が毎年取引先企業にアンケート調査している内容が大阪の中小零細企業の相場実態を表現しているので、昨年2024年のデータをご紹介します。
1.賃上げを実施した企業割合:51.8%
※約30年間横這いだった賃上げが、2022年から急激に上昇し出しているが、それでも半数の企業は賃上げを実施していない。これは労働分配率が大手に比べて高いため、そもそも余力がないこと、価格転嫁が進んでいないことが推測される。賃上げしない理由の約6割は「景気や業績の先行きが不透明」となっており、今年は関税で恫喝を図るトランプ政権の登場でさらにこの思いは強まっていることが予想される。
2.賃上げ率の状況:賃上げを実施した企業平均3.43%、賃上げを実施していない企業を含めた平均でみると1.73%
※これを見ると新聞紙上で踊っている数字はかなり高めである。連合が掲げた5%以上となった企業は全体のおよそ30%。大見出しに踊らされないことが肝要。ただし今年はこの数字を上回ることは確実と思われる。
3.賃上げ理由:上位「雇用維持・士気高揚」「業績向上・回復」「物価上昇に対応」で約9割を占める
※これに加えて見逃せないのがここ数年にわたる最低賃金の上昇と、人で不足による初任給相場の上昇である。これについては後述する。
4.総人件費を増やす企業割合:58.5%
※2022年まではおおむね30%以下であったものが、2023年から50%を超え、今年もこの傾向は続くと思われる。
また、東京商工会議所がまとめた2024年の数字によると、賃上げ額平均9,662円、賃上げ率は3.62%となっており、大阪より若干高めであるが、率はおおむね同水準です。
参考 東京商工会議所調べ
卸売業 10,345円 3.67%
製造業 8,954円 3.40%
建設業 9,405円 3.29%
運輸業 5,162円 2.52%
医療介護 5,477円 2.19%
6.初任給相場 産労総合研究所2024年調査
大学卒:225,475円(対前年3.85%アップ)
高校卒:188,168円(対前年4.58%アップ)
※高卒相場が高くなっているのは、ここ近年の最低賃金の大幅な引き上げが影響していると思われる。例えば大阪の場合、現在の最低賃金は1,114円であるが、中小企業に多い1日8時間、年間105日として計算すると、193,167円となる。これは相場ではなく、これを下回ると最低賃金を割ってしまうということだ。
しかもこの最賃上昇基調は2029年まで継続する見込みで、大阪では今秋70円アップも覚悟しなければならない。そうすると先の例では、205,305円となる。つまり大阪で高卒を採用しようとすれば、205,305円以上でないとそもそも募集ができないということだ。
従って「雇用維持・士気高揚」「業績向上・回復」「物価上昇に対応」という事由だけでなく、最賃圧力も大きな要素となっており、バブル期を超えた超売り手市場において採用困難な状況がさらに初任給上昇圧力となっている。
2024年の経団連の調査だが、大卒初任給を1万円引き上げた企業割合は70%を超えており、このトレンドも当分続くものと思われる。
7.ではどのくらい上げればいいのか?
あくまでも自社の業績と今後の見通し次第ではあるが、賃上げの余力があるのであれば、基本給総額を4%程度引き上げた場合の増額原資の中から、各自への評価と期待と生計費の観点から、その原資を社長の裁量で振り分けてゆくことになろう。ある人は6%を超え、ある人は現状維持とか2%となっても仕方がない。合理的な差異と考える。
運転資金から考えて4%がきついのであれば、3.5%、3%と原資を変えてみて判断するしかない。賃金引上げのためには価格転嫁をできるだけ進め、従業員には会社も努力するが引き上げる以上、「皆も1時間当たりの付加価値(利益)を上げられるように努力してくれ」とを促して、言い続けることは必要だろう。
いずれにしても生き残りをかけた賃上げレースが始まったと認識すべきである。早晩、賃上げできない企業は退場を迫られ、淘汰されてゆくだろう。
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)