2019年1月~12月
中小企業にも迫る、時間外労働の上限規制 (2019.7月号)
●2020.4月スタート 中小企業にも迫る、時間外労働の上限規制(2019.7月号)
2019年は、生産性革命を命題とする働き方改革がスタートした年となりました。中小企業では、以下のスケジュールで順次新しいルールが始まることとなり、生き残りの為にも対応が迫られることになります。
(1)年5日の有給休暇の取得を企業に義務付け(2019.4施行)
(2)労働時間の客観的把握の義務付け(2019.4施行)
(3)フレックスタイム制の拡充(2019.4施行)
(4)高度プロフェッショナル制度の創設(2019.4施行)
(5)産業医・産業保健機能の強化(2019.4施行)
(6)勤務間インターバル制度の促進(2019.4施行 努力義務)
(7)残業時間の上限規制(2020.4施行)
(8)不合理な待遇差の解消(2021.4施行)
(9)月60時間超の残業の割増賃金率引上げ(2023.4施行)
独断ですが上記のうち、(3)のフレックスタイム制の拡充、(4)の高度プロフェッショナル制度の創設、(5)の産業医・産業保健機能の強化は中小企業ではほとんど関係がないため、それ以外の項目で対応が必要ということとなり、(1)の年5日の有給休暇に関しては、すでにこのメルマガでも触れ、対応中の企業も多いかことかと思います。
今後、順次その他のテーマにつき対応策を検討して参りたいと思いますが、今回取り上げるのは(7)の残業時間の上限規制です。
簡単に言うと、今まで青天井で残業をさせることが出来ましたが、来年の4月からは残業に罰則付きで上限が設けられるということです。
1.まずこれまでのルールを確認しましょう。
そもそも労働基準法では、原則として時間外労働を罰則付きで禁止しています。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
罰則:6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
よく、今回の改正が罰則付きとして説明されますが、もともと残業は禁止されており、これに反すると罰則があるのです。
但しこの罰則が、いわゆる36協定を締結することで、刑事免責される効果があります。
(時間外及び休日の労働)
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条(中略)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
そしてこの36協定に記載できる残業時間が、今までは無制限に記載することが可能だったわけです(ただ限度基準が示されていたので、この基準の範囲内で記載するよう行政指導は行われていた)。
2.来年4月以降はどうなるのか
a.残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間(1年変形制の場合は月42時間、年320時間)
月45時間は、おおよそ1日当たり2時間程度の残業に相当
b.臨時的な特別の事情があって年6回まで特別条項を使う場合でも、
・年720時間以内
・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
・月100時間未満(休日労働を含む) を超えることは不可。
※月80時間は、おおよそ1日当たり4時間程度の残業に相当
ただこの理屈は非常に複雑で、これを個人ごとに管理するには、よっぽど高価な勤怠管理システムを導入しない限り、現実的には不可能です。従って、中小企業で残業させることができるリミットは、以下のように考えるべきです。
1ヶ月42時間が6回まで(1日2時間以内) 及び 1ヶ月78時間が6回まで(1日4時間以内)
(42時間×6回)+(78時間×6回)=年間上限720時間
つまり年6回は毎月42時間がリミット、あとの年6回は毎月78時間がリミットとして管理します。
ところで、当面はこの数字を意識して管理するとしても、2023年4月からは60時間超の残業代の割増率が25%から倍の50%に跳ね上がります。
しかも現在、賃金の請求時効を2年から5年に延ばすことが検討されています。そうすると、60時間超の残業代コストはかなり上昇し、不払い額がある場合は相当膨らむリスクも高くなります。
そのように考えると、前記の78時間は60時間と読み替えて(年間では612時間)、今から管理して行った方が良いと考えています。
月42時間を6回まで、月60時間を6回まで。
これからの生き残りをかけた時間管理です。
(注)自動車運転の業務、医師、建設事業は5年間の猶予措置があります。
(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)